2024年11月22日( 金 )

中国資本に売却される大塚家具の新体制~大塚久美子社長が起用した取締役を一掃(前)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

 大塚家具は3月11日、現在の取締役7人のうち5人を入れ替える人事を発表。3月31日に開催する株主総会で正式に決める。大塚久美子社長は続投するが、久美子氏を支持してきた取締役は一掃。大塚家具を事実上買収して、新しいオーナーになる中国系企業のハイラインズの陳海波(ちんかいは)社長の意向を反映した役員人事となった。

「お家騒動」で久美子社長を支援した立役者たちも退任

 大塚家具の取締役は、大幅交代で一変する。

【現取締役】(※は退任)

  代表取締役社長 大塚久美子  
取締役(社長補佐)   宮本惠司 元三越常務取締役
  取締役専務執行役員 佐野春生 商品本部長兼流通本部長
取締役(社外) 阿久津聡 一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授
  代表取締役 大塚久美子  留任
取締役監査等委員(常勤) 瀬戸伸正 元秋田木工社長
取締役監査等委員(社外) 長沢美智子 東京丸の内法律事務所の弁護士。
取締役監査等委員(社外) 三冨正博 アーサー・アンダーセン出身の会計士。

 

【新取締役】(※は新任)

  代表取締役        大塚久美子  留任
  取締役 佐野春生 留任
取締役 上野一郎 執行役員(営業本部長兼外商部長)
取締役(社外) 狛 裕樹 経営企画室室長
取締役(社外) 陳 海波 ハイラインズ社長
取締役(社外) 田中満雄 元トヨタ自動車理事
取締役(社外) 佐々木新一 元住友商事副社長

 

 取締役にとどまるのは、久美子氏と佐野春生氏の2人のみ。佐野氏は久美子氏の実妹の夫。大塚ファミリーのメンバーだ。

 人事の最大のポイントは、久美子社長のブレーンたちが交代すること。久美子氏が父親の大塚勝久氏と経営権をめぐって争った「お家騒動」の際、久美子氏に指南した社外取締役の長沢美智子弁護士と阿久津聡・一橋大学大学院教授は退任する。2人は、久美子政権誕生の最大の功労者である。

 代わって大塚家具を買収し、新しいオーナーになる陳海波氏が社外取締役に就く。大塚家具役員の大幅交代は、陳氏の意向を反映した人事となった。監査法人も、EY新日監本監査法人から開花監査法人に交代する。株主総会後の大塚家具の新体制は、陳海波氏主導で進むことが鮮明となった。

大塚家具の関連記事をまとめて読む

ハイラインズが実質的な筆頭株主

 大塚家具の2018年12月期の決算は、売上高は前年比9.0%減の373億円、営業損益は51億円の赤字、純損益も32億円の赤字。3期連続の赤字に陥り、無配に転落した。

 大塚家具は2月16日、日中の投資家や米系投資ファンドから資本を受け入れる財務強化策を発表した。第三者割当増資では、19年3~6月に1株290円で1,311万株を発行する。14日の終値(460円)からは4割安い水準。
 越境EC(電子商取引)を手がけるハイラインズ(東京都渋谷区、海波代表取締役)が組成し、日中の企業などが資金を拠出する投資ファンドに18億円、米系投資ファンド「Eastmore Global,Ltd(イーストモア・グローバル)」に20億円の第三者割当増資を実施する。
 さらに、ハイラインズと同社代表取締役の陳海波氏、イーストモアに対して新株予約権も発行する。権利がすべて行使されれば、最大で76億円の資金調達となる。

 増資で株主構成は一変する。

【増資前の大株主と持ち株比率】(2018年12月31日日現在)

1.  (株)ききょう企画 6.66%
2. (株)ティーケーピー  6.65%
3. (株)SMBC信託銀行 2.94%
4. 日本証券金融(株) 2.62%
5. 大塚春雄 2.42%

 

【増資後の大株主と持株比率】

1.  Eastmore Global,Ltd(イーストモア・グローバル)  19.58%
2. ハイラインズ日中アライアンス2号匿名組合 13.34%
3. (株)ハイラインズ 11.76%
4. 陳 海波 5.88%
5. (株)ききょう企画 3.17%

 

 増資前は、大塚家の持株会社ききょう企画が筆頭株主。2位は資本・業務提携している貸し会議室大手のティーケーピー(TKP)だった。
 増資後は、イーストモア・グローバルが筆頭。2位はハイラインズ日中アライアンス2号匿名組合、3位がハイラインズ、4位が陳海波氏。ききょう企画は5位に後退。ハイラインズは1号匿名組合(持ち株比率1.90%)と合わせて出資比率は32.88%。筆頭株主になる。

ハイラインズの陳海波氏が枠組みづくりを主導

 経営不振に陥った大塚家具は昨年6月ごろから、出資に応じてくれる支援先探しを続けてきた。2位株主のTKPや、家電量販店大手など10社と交渉したが、協議は難航。昨年12月に業務提携した中国の家具販売大手「居然之家(イージーホーム)」との資本提携を探ったが、同社は株式上場の準備を理由に出資を見送った。
 大塚家具をイージーホームに紹介したハイラインズが今回の枠組みづくりを主導した。

 ハイラインズ社長の陳海波氏とは何者か。ライブドアニュースは、ジャーナリストの伊藤博敏氏のコメントを載せている。

 〈1973年生まれの46歳。もともと、中国国内で日系自動車メーカーのITエンジニアとして働き、その後来日。2006年からソフトウエアを受託する企業(引用者注:ユー・シー・エル)の社長に就任するなど経営者として手腕を発揮している。一族が中国共産党に近く、習近平・国家主席にも人脈がある。〉

 ユー・シー・エルが越境EC事業を分離して16年11月に設立したのがハイラインズだ。
 イーストモア・グローバルはケイマン諸島に本拠を置く投資ファンドで、大塚家具が独自に探してきた支援先だ。高値売り抜けが目的で、経営には関心はない。
 ハイラインズは経営取得が目的だ。買収をどうやって防ぐか。ハイラインズの持株比率を3分の1以下に抑えることだった。会社の重要事項(合併・分割・事業譲渡など)の決議には、株主総会では「3分の2以上」の賛成が必要であり、逆にいえば、議決権の3分の1超を取得すれば拒否権を行使できる。

 増資交渉では3分の1をめぐる攻防が火花を散らす。ハイラインズグループの持株比率は32.88%。3分の1以下に抑えたことで、ハイラインズの経営介入を防ぐことができる。久美子社長とブレーンたちは、そう考えたのではないか。しかし、それが甘かったことを思い知らされることになる。

(つづく)

(後)

関連キーワード

関連記事