2024年11月14日( 木 )

福岡を活性化させた傑物伝 アパマングループ代表大村浩次氏(11)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ
法人情報へ

大きな転機になったリーマン・ショック

大村 浩次 氏

 APAMANグループにとって、2008年に大きな転機をもたらす出来事が起きた。リーマン・ショックだ。2007年に米国の住宅バブルがはじけて表面化したサブプライムローン問題から始まり、株式市場が大暴落して世界的な金融危機がおこった。金融危機はまたたく間に広がり、日本の経済にも大きな波が押しよせてきた。

 世界的な金融危機がおこるまでは、全国のアパマンショップのフランチャイズ(FC)加盟店のネットワークは勢いよく広がり、売上がのびて利益もあがりAPAMANグループの事業は年々大きくなっていた。賃貸あっせん業界で先がけて新しいサービスをつくるためにITシステムに積極的に投資して、部屋を借りる人や不動産オーナーによろこんでもらえるようにサービスの改良をかさねていた。

 そして、賃貸あっせん事業やプロパティ・マネジメント(PM)事業とともに、不動産オーナーとのネットワークをいかして不動産に投資するプリンシパル・インベストメント(PI)事業やファンド事業も成長を続けていた。2007年度の売上約643億円のうち、PI事業は約237億円、ファンド事業は約95億円と、PM事業の約159億円とともに事業の3つの柱になっていた。

投資不動産やファンドの評価が大きく下がる

 賃貸不動産を投資目的で買い、家賃収入を得るPI事業。不動産オーナーがFC店舗に売却を依頼した物件を、APAMANグループが投資用不動産として買い取った。不動産に投資することで賃貸あっせんや管理ができる物件が増えるため、FC加盟店にもよろこんでもらえると考えたためだった。そしてアパマンショップの賃貸あっせんネットワークをいかして、入居率を高めて相場に合う賃料を保つことができるように賃貸物件のバリューアップに取りくんだ。

 また、不動産オーナーからの売却の依頼に対応する、不動産のファンド事業も順調に大きくなっていた。PI事業やファンド事業に投資することでAPAMANグループを大きくしたいと考えていたため、投資用不動産やファンドを積極的に購入していた。しかし、世界的な金融危機がおこったために、投資用の不動産やファンドの評価が大きく下がった。そのため、もっていた不動産やファンドの資産価値が買ったときよりも大幅に下がってしまい、不動産やファンドへの投資を事業として続けることができなくなってしまった。2008年度にはPI事業とファンド事業を中心にして約70億円の純損失となり、アパマンショップホールディングスとして2008年3月には約731億円の負債をかかえることになった。

投資用不動産を売却

 リーマン・ショックの危機を乗りこえるために、もっていた投資用不動産やファンドの多くを売却した。不動産の価値は、世界的な社会や経済の動きで大きくゆれる。世界的にみると10年や20年に一度は金融危機とよばれる大きなショックは起こりがちなため、これからも不動産やファンドをもち続けると金融危機などの世界的な経済の波からの影響を受けることを避けられないと考えた。そのことを強く感じてからは、不動産をもつことに興味がなくなってしまったという。そして、できるだけ不動産をもたずに事業ができるように、事業展開の方向を変えることを決めた。

 事業の幅を広げて会社を大きくしたいという思いから始めたPI事業やファンド事業だったが、リーマン・ショックの危機からPI事業やファンド事業をやめて、経済の動きに左右されにくいシェアリングエコノミー事業、IT事業、管理事業に集中することを決めた。リーマン・ショックがおこるまでは前向きな気持ちから積極的に不動産やファンドに投資していたが、経営者として未熟でした、と大村社長は話す。そのことに気づいてからは、判断が慎重になったという。

 モノをもつことのリスクを大きく見直してからは、事業に投資するときには不動産に限らず資産をもたない方法に変えた。たとえば、システム開発は技術の進歩がとても速いため、企業の資産としてシステムをつくっても1~2年経つと古くなってしまう。そのため、社内でしかできないコアなシステム開発以外は、インターネットのネットワーク経由で使うことができるクラウドを用いた社外で開発されたシステムを採用するようになった。社内で最初から最後までシステムをつくった方が使いやすいものができることはたしかだが、社会環境が変わり時間がたっても影響をうけにくい身軽な仕組みで事業を進めることが大切と感じて、社外のサービスをうまく使って資産をできるだけ持たないことを優先している。

 そして、賃貸あっせん事業や賃貸管理事業の収益を見直して、業務を効率化して徹底したコスト削減をすることで、計画的に負債を返済した。そして不動産賃貸業界で先がけて立ちあげたITの強みを生かして、不動産の賃貸事業での新しい展開をつくっていった。

(取材・文・構成/石井 ゆかり)

(10)
(12)

関連記事