2024年12月27日( 金 )

世界を変える「ブロックチェーン」と日本発の可能性(4)

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国際政治経済学者 浜田 和幸 氏

日本、そして北朝鮮

 さて、肝心の日本の取り組みであるが、残念ながら、世界の潮流からは大きく後塵を拝していると言わざるを得ない。しかし、起死回生のチャンスとなりそうなのが健康管理への応用ではなかろうか。なぜなら、これからの社会ではウェアラブル製品が普及し、日常生活の主流になるに違いないからだ。

 幸い、日本では健康志向の高まりを受け、ウェアラブルへの関心が広がりつつある。これこそ、日本が遅れを取り戻すビッグチャンスになるだろう。ブロックチェーン技術を応用した医師と患者の情報交流を活発化することから始めてはどうか。健康の増進と同時に医療費の削減など、さまざまな医療面での効果が期待できる。

 加えて、日本ではソフトバンクが国際送金や決済システムのためのブロックチェーン・コンソーシアムを立ち上げた。中国の電子決済大手「アリペイ」に対抗する狙いが込められているようだ。しかし、多くの金融機関や消費者はいまだ関心が薄く、ビットコインと誤解する向きも多い。今こそ、国際特許の半数を取得済みの中国や実践面での取り組みを多様化するアメリカと経験や技術を共有し、国際的な共同開発と普及拡大へ舵を切るべき時であろう。

 ところで、ベトナムで開催された2度目の米朝首脳会談の失敗を受け、自力更生で経済強国を目指す宣言を唱える北朝鮮であるが、実は中国や韓国と協力し、18年からブロックチェーン導入への動きを加速させ始めている。ピョンヤンではブロックチェーンに関する国際会議が相次いで開催されるようになった。「軍事優先」から「経済発展との両立」を経て、今や「経済最優先」を標榜する北朝鮮。

 かつては偽ドルの製造で世界を騒がせていたものだが、18年からは仮想通貨の基盤となるブロックチェーンに肩入れを強めるようになった。同年10月にはピョンヤンで政府肝入りの「ブロックチェーン開発国際会議」を開催した。19年にも同様の国際会議を計画しているようだ。同じくアメリカの経済制裁を受けているイランが決済手段としてブロックチェーンに邁進する状況を意識しているに違いない。

 興味深いのは北朝鮮の会議主催者による「日本からの参加者は認めない」との発言であろう。中国が進めるアジアとヨーロッパ、アフリカを結ぶ「一帯一路」経済圏構想の成否を握るのも新たな仮想通貨と目されている。ドルでもユーロでもない自前の暗号通貨への期待が高まる。それを支えるのがブロックチェーン技術というわけだ。北朝鮮ではそうした中国主導の新仮想通貨ネットワークへの参入を目指しているようだ。それゆえ、ピョンヤンでのブロックチェーン会議には中国からの参加者が圧倒的に多くなっている。そんな動きが朝鮮半島で加速していることも、日本ではまったく知られていない。

 一方、日本では現金の信用度が高いため、仮想通貨の研究も普及も中国と比べれば周回遅れ。そのせいか、北朝鮮からは「日本からは学ぶものがない」と見下されている有り様。実は、ビールの味1つをとっても、北朝鮮はなかなかなものである。北朝鮮の「テドンガン」は中国ではオランダの「ハイネケン」と同じ値段で売られているが遜色ない売上を達成しているからだ。

 第4次産業革命の切り札と目されるブロックチェーン技術に関しても、ドイツ、スウェーデン、中国で研究を重ねてきた北朝鮮のIT専門家が目覚ましい活躍を見せている。トランプ大統領もそんな北朝鮮の秘密兵器の存在を無視できなくなっているのかもしれない。金正恩委員長をやたらと持ち上げるトランプ大統領の真意は、そのあたりに隠されているようだ。石油の決済通貨はドルであったが、アメリカ主導の経済制裁をかいくぐるために、北朝鮮やイラン、ロシアなどがドルに代わる新たな決済通貨を目論んでおり、それを可能にするのがブロックチェーンなのである。

「令和」の日本では

 このように、アジアでも世界でも新たな技術革新の流れが加速している。そうした流れに乗り遅れつつあるのが日本だ。19年を「ブロックチェーン元年」にしなければならない。その点で注目すべきはアメリカのマサチューセッツに拠点を構えるアカマイ・テクノロジーズと(株)三菱UFJフィナンシャル・グループの提携によるブロックチェーン決済ネットワーク構築への動きである。なんと1秒間に100万回を超える送金、決済を可能にするという驚異的な技術開発がスタートした。ビットコインの場合は1秒間に10回の送金が限界であり、いかにアカマイのブロックチェーン技術がすさまじいかおわかりいただけるだろう。

 20年の東京オリンピックの際に、世界から日本を訪れる4,000万人もの海外旅行者の多くはキャッシュレスだ。こうした海外からの旅行者が安心してキャッシュレスで買い物や日本文化を楽しめる決済環境を整備するのが狙いである。我が国の経済産業省はキャッシュレス支払い率が18%しかない日本の現状を「2025年を目標に40%を超えるまでに高める」との目標を打ち出したばかりだ。

 遅まきながら、ようやく日本でもブロックチェーン実用化レースに参戦する機運が出てきたといえるだろう。この勝負には何としても勝ち抜く必要がある。日本のお家芸であった「官民一体化」で立ち向かうことができるかどうか。令和の時代とは「官民の調和、協力」で「国際的な競争に勝利」する時代にせねばならない。

(了)

<プロフィール>
浜田 和幸 (はまだ・かずゆき

国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。16年7月にネット出版した原田翔太氏との共著『未来予見~「未来が見える人」は何をやっているのか?21世紀版知的未来学入門~』(ユナイテッドリンクスジャパン)がアマゾンでベストセラーに。

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