2024年11月25日( 月 )

【狙われた「少子化対策事業」】多額の公金を投入した「国策」のずさんな実態~待機児童解消策が悪党の「金の成る木」に変貌

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WINカンパニーが運営する、「canalキッズランド保育園」(福岡市博多区)

 

■ペーパーカンパニーでも参入可能な企業主導型保育事業

 これまで報じてきた川﨑大資こと塩田大介氏の助成金詐欺疑惑。塩田氏がターゲットにした企業主導型保育事業とはいったいどんなものなのか。

 企業主導型保育事業は、一向に進まない待機児童(保育所や保育施設に入所待ちしている状態の子ども)の解消策として、主に企業の従業員向けの保育所を整備する制度として2016年に創設された。従業員の子どもを預かる保育所を開設した際などに内閣府の認定を受けることで、認可保育所並の手厚い助成金が交付されている。

 待機児童解消、ひいては喫緊の課題である少子化を食い止めるための事業として、助成金を支出してでも企業内保育所を増やすという目的自体は一定の評価を受けてしかるべきだ。しかし、その助成金支出のしくみは驚くほどずさんで、その「ザル審査」ぶりは数字からもうかがえる。

 制度開始当初の2016年9月時点で助成金支給が認められたのが150施設(定員3,907人)だったものが、2018年度は約4,000施設と、たった2年で27倍近くに膨らんでいるのだ。では待機児童が劇的に解消したかというと、昨年末時点で約4万7,000人が保育所に入れない状態にあり、企業内保育所の激増ぶりと整合性がとれない。そうなると、真に保育事業のためとは別のインセンティブ(誘因作用)が働いていることを当然疑うべきだろう。

 じつはこの企業主導型保育事業は、悪知恵のはたらく悪党たちからは、非常に魅力的な「金の成る木」に映っているのだ。その理由は主に2つある。

 (1)「参入の安易さ」。同事業を利用する企業について、助成金申請を行うにあたってとくに要件は定められていない。法人登記されていれば新設企業でもよく、要するに実態のないペーパーカンパニーであっても助成金申請することができる。

 (2)「審査のゆるさ」。助成金申請にあたって提出の必要な資料は主に「法人登記」「資金計画書」「整備費(工事費用など)についての見積もり2社(相見積)」の3つで、2017年度まではその地域にどれだけ保育需要があるのかなどの公的証明書も必要なかった。工事費用の相見積に至っては、その見積もりが適正価格であることを担保する理屈としているのが「助成金は4分の3しか支給されず残りは手出しになるため、おのずと低価格の見積もりを取るように企業は努めるはず」(審査を担当する公益財団法人児童育成協会の担当者)という性善説に依るものだ。

 この「甘さ」こそ悪党の付け入る隙だった。支給限度額があるとはいえ、たとえば本来は100万円ですむ工事を、前回記事で紹介したように4倍近い400万円の見積もりと410万円の見積もりを付けて申請すれば、400万円の見積もりが採用されてその4分の3にあたる300万円が支給され、これだけで200万円の利益が出るのだ。設置企業が工事業者や設計業者とグルになればいとも簡単にできてしまうカラクリで、企業内保育所が激増した「隠れた理由」と勘繰られてもしかたあるまい。

 児童育成協会の広報担当者が「待機児童を解消するために、とにかく保育所を増やすという目的があった」と語るように、保育所の数を増やすという「数値目標ありき」の制度設計になっていた可能性は否めないだろう。しかも、保育所が完成しても監査対象となるのはきちんと保育されているかの運営面だけ。見積もりや計画書通りの施設が建設されたかどうかは写真や完成報告書などの書面で済ませているというから、塩田氏のような名うてのワルが写真や印鑑の偽造に手を染めるのは時間の問題だった。

 こうした事業スキームを問題視する声も多く、「東洋経済」(東洋経済新報社/本社:東京都中央区)などでは、保育ライターの大川えみる氏が企業主導型保育園の制度上の欠陥について詳細を伝えてきていた(企業主導型保育所に巣食う「助成金詐欺」の闇)。

■会計検査院が企業主導型保育事業に改善要求~ずさんな実態浮き彫り

 多額の公金を投入した「国策」のずさんな実態に、会計検査院は今年4月23日、「企業主導型保育所」事業を所管する内閣府に同事業の改善を求めている。同事業を利用した保育所は国の助成を受けて運営しているにもかかわらず全国で定員割れが相次いでおり、会計検査院が全国173施設を調査したところ(※)、72施設で利用児童が定員の50%に満たなかったことが判明したのだ。

 必要性がないにも関わらず保育園を開設して多額の助成金を受け取っていた企業が多かった可能性もあり、需要調査などを行わずに保育所の定員を決めていたことも問題視されている。この72施設への助成金は計31億6,880万円に上っていた。

 国は待機児童解消の「切り札」として鳴り物入りで事業をスタートさせていたが、わずか3年で事業スキーム自体にほころびがあることを露呈したかたちだ。

 ※検査院は2016~17年度に助成金の交付対象となった全国2,322施設のうち、213施設(41都道府県の)を抽出調査。 開設から1年以上経過した173施設(2018年10月時点)のうち、利用児童が定員の50%未満だったものが72施設、2割を下回ったのが27施設あった。

 

■助成金支給のずさんさをついた詐欺事件が表面化

 保育所の整備費や運営費は、児童育成協会(藤田興彦理事長/トヨタ自動車出身)を通して助成費を決定、支給されるが、協会は定員設定について審査を行わず、利用状況も把握せずに、定員充足率の改善指導なども行っていなかった。助成金がおりたあとに保育所が突然閉鎖されるなどの事態も発生しており、助成金審査の甘さとともに不透明な使い道も問題になっている。

 2016年度から18年度までの助成金の予算総額は計約3,800億円にものぼる。この巨額の助成金をめぐっては、その審査過程のずさんさに付け込んだ輩は、塩田氏だけではない。

 秋田市では2018年10月、笑咲(えみ)保育園が企業主導型保育所向け助成金を不正受給したとして、詐欺の疑いで保育園運営会社の元代表兼元園長の会社員と元事務長の男性が逮捕された。保育園の在籍園児数などを水増しするなどして虚偽の申請をし、助成金約50万円をだまし取った疑いがかけられており、協会ではさらに施設整備費と2年度分の運営費計4,400万円を不正受給していたとみて、秋田県警が調べを進めている。

 こういった不祥事についての批判をふまえ、国は今年3月、助成審査や指導監査を担う「実施機関」を公募で選定することを決めた。朝日新聞などによると今夏に公募し、新たに選ばれた実施機関が2019年度の新規施設を募集するという。

【特別取材班】
(つづく)

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