中小企業の健康リスクによる1事業所あたりの労働性損失は年間2,004万円
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企業の労働生産性は、働いている人の健康状態や生活習慣によって大きく変わることがわかった。東京大学政策ビジョン研究センターと横浜市経済局は、中小企業の労働生産性損失と健康リスクの関係を調査しており、体調不良などによる従業員1人あたりの労働生産性損失は年間76.6万円と推計された。元気に仕事ができる職場をつくることで、仕事の効率が高まり企業としての良い成果につながるのか。
出勤時の体調不良は年間73万円損失
働いている人の健康状態や生活習慣によって、仕事の効率を表す企業の労働生産性はどのくらい変わるのだろうか。東京大学政策ビジョン研究センター(現・未来ビジョン研究センター)と横浜市経済局は、市内の中小企業の6事業所を対象にして、企業の労働生産性と健康リスクの関係について日本初ともいわれる2017年度の調査を行っている。
まず、健康リスクとして「主観的健康観(健康だと感じるか)」「仕事満足度」「家庭満足度」「ストレス」「喫煙」「アルコール」「運動習慣」「睡眠休養」「不定愁訴(病気やケガなどの体に具合の悪いところがあるか)」の計9項目を設定して、働いている人の健康リスクの有無をアンケートで調査した。
そして、病気・ケガにより仕事を休んだ日数を表す「アブセンティーイズム」と、出勤していても体調がよくないために仕事を進める能力や生産性が低くなっている「プレゼンティーイズム」から、健康リスクがあると仕事の効率がどのくらい変わるかを計算した。その結果、体調不良などによる従業員1人あたりの労働生産性損失は年間76.6万円、1事業所あたりの労働生産性損失は年間2,004万円と推計された。
従業員1人あたりの経済損失の内訳は、病気やケガにより仕事を休むことのコストが年間3.6万円、出勤していても体調がよくないために仕事を進める能力や生産性が下がることによるコストが年間73.0万円と、欠勤によるコストよりも出勤時の体調不良によるコストが企業の労働生産性損失に大きく影響していることがわかった。そのため、働いている人の健康や生活習慣を整えて、元気に仕事できる職場をつくることで、仕事の効率が高まり企業としての経営向上につながると考えられる。
高リスクの労働生産性損失は2.9倍
働いている人の体調や生活習慣の健康リスクが高いほど、欠勤が多くなり、出勤していても体調がよくないために仕事の効率が下がるなど、企業としての労働生産性損失が大きくなることもわかっている。
低リスク(0~2項目で健康リスクあり)、中リスク(3~4項目で健康リスクあり)、高リスク(5項目以上で健康リスクあり)に分けると、1人あたりの労働生産性損失コストは、低リスクと比べて、中リスクは約1.2倍、高リスクは約2.9倍と大きかった。働いている人の健康状態や生活習慣がよくなり健康リスクが下がれば、出勤していても体調がよくないことや仕事を休むことによる労働生産性損失コストが少なくなるということだ。
具体的には、どのような健康リスクが多くの企業の課題になっているのだろうか。健康リスクのうち、最も「リスクあり」の結果が多かったのは「運動習慣」の68%で、「不定愁訴」の50%、「睡眠」の「49%」と続く。「運動習慣」や「不定愁訴」「睡眠」は、職場のおおよそ半数以上の人が健康リスクを抱えている。たとえば毎日の生活に運動を取り入れる習慣づくりや体調をよくするための環境の見直しなどが、健康経営としてまず取り組みやすいのではないかと考えられる。
始めやすい健康づくりは職場から
今回の調査では健康経営の取り組みとして、「職場における運動機会の増進講座」や「食べ方で変わるカラダのコンディション講座」「ストレスとの向き合いかた講座」などを各事業所で行い、職場で健康づくりをする効果について、参加した従業員にインタビューしている。
インタビュー調査の結果によると、体操など職場全体で健康づくりをすることで、1人ひとりが個人で始めるよりも取り組みやすくなることがわかっている。また、ウォーキングを始めるなど毎日の生活でも健康のことを考えるようになり、よい生活習慣ができたという声も出ている。また、デスクワークの職場では、職場全体でストレッチすることで集中力が上がり、仕事をしやすくなる効果もあるという。
今回の調査期間は2カ月間と短いため、労働生産性に大きな変化が出るまでには至っていないが、これからも引き続き健康経営の効果について調査する予定という。運動や栄養、メンタルヘルスなど普段の生活で健康に気持ちを向けて、体調や生活習慣をよくすることが健康経営だ。運動や食生活の見直しを始めてからも、体調が改善されるなどの目に見える効果が出るまでには時間がかかる。健康経営の効果を見るためには、今後、長い調査期間が必要なのではないだろうか。
高齢化による人手不足の解決にも
健康経営は、採用面での企業イメージが高まるとともに、働いている人の高齢化による人手不足が課題になっている企業からも注目されている。
これまで、働く世代の健康を改善することは、あまり注目されてこなかった。しかし、働いている人の年齢が高い企業では、まだ定年になっていない人が健康を害して退職してしまうことが人材面での課題になっているため、元気で仕事を続けてほしいと健康づくりに取り組んでいるという。
元気に仕事ができる職場をつくり、人材に投資することが前向きな企業経営にもつながるのではないだろうか。
【石井 ゆかり】
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