2024年12月23日( 月 )

孫正義の秘密兵器~ソフトバンク300年ビジョン計画(3)

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国際政治経済学者 浜田和幸

 孫正義氏は人類とAIとの関係について独自の見方をもっている。曰く「世の中にはホワイトカラーとブルーカラーの2種類が存在する。しかし、今や、第3の新しいカラーが登場してきた。それは“メタルカラー”だ。彼らはブルーカラーの職を奪うだけではなく、多くのホワイトカラーの仕事も代替するだろう。メタルカラーが進化し、自由に動き、働くようになるのは時間の問題だ。そうなると、人間の仕事とは何かを考え直す必要が出てくる。さらにいえば、我々の人生の意味も捉えなおす必要があるだろう」。

 誰もがうっすらとは想像しているが、真剣には向き合おうとしていない課題である。そんな「目前に迫る問題」に真摯に取り組もうとしているのが孫正義氏である。彼曰く、「誰もが考えようとしない、避けて通りたいと思うテーマに挑戦したい。誰も立ち上がらないから、自分にチャンスがある」。

 そんな彼の未来予測に耳を傾けてみよう。「今から30年経てば、スマートロボットの数は100億台に達する。ちょうどそのころ、人類の数は100億人だろう。100億の人間が100億のスマートロボットと共生する時代になる」。そんな社会が目の前に迫っているというのだ。

 彼の言いたいことは明白だろう。すなわち、「あらゆる産業は再構築されることになる」ということである。医療も自動車も情報産業も当然のこと。農業も水産業も例外ではなくなる。これまでは人工知能といっても人間にはかなわない部分があった。しかし、今やAIやロボットの進歩は人間の想像をはるかに超えるスピードである。その結果、あらゆる産業もビジネスモデルも再定義される時代になっている」。

 彼によれば「20年前にインターネット社会が始まった。今ではAI時代が幕開けを迎えた」のである。その成果を十二分にいかすには、さまざまな先端企業の持つ技術を融合させる必要がある。いわゆる「群戦略」に他ならない。渡り鳥が群れをなして飛ぶ姿をイメージしているわけだ。

 彼が選んだ業界でトップを走る企業を束ねることで、まったく新たなビジネスモデルを編成するという発想である。彼が見出し成長させた「コンパス」「ウーバー」「ウィーワーク」「マップボックス」などを自由自在に組み合わせ、来たるべき時代に求められるビジネスニーズを先回りしようという考えである。新興企業の集団化、あるいはファミリー化といえるだろう。そこには「未来を変える。未来を創造する」という共通の使命感が感じられる。その接着剤こそがAIなのである。

 そうした現状把握と未来展望に立ち、孫正義氏は「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」を運営し、新たな時代に備えようと意気込んでいる。彼の「合言葉」は「シンギュラリティ」である。もともと未来研究者のレイ・カーツワイル氏が提唱し始めたコンセプトで、「2040年までに人工知能が人間を凌駕する」というもの。無人走行車や宇宙ビジネスで新境地を見出そうとするイーロン・マスク氏は「AIの進化は北朝鮮より大きな脅威だ」という。

 しかし、孫正義氏は「シンギュラリティの波に乗ることで、新たな時代を切り拓く」という発想を温めているようだ。彼はすでに2010年の投資家向けセミナーで「AIやロボットは人類の脅威ではなく、人類をより健康で幸せにしてくれるパートナーだ」と述べていた。実際、ビジョン・ファンドの投資先は「スマートロボットが人間を凌駕するシンギュラリティを前提にしたニュービジネス」を先取りしたものに他ならない。

 このところ毎年、500億ドルもの資金をこうした新分野に投入している。その原資はサウジアラビアからの投資もあるが、ゴールドマン・サックス、みずほフィナンシャル・グループ、三井住友銀行、ドイツ銀行など多様化している。

 シンギュラリティの到来を先回りしようとすれば、コンピューターのハードとソフトの開発に必要な人材の確保は不可欠である。また、最先端の技術特許を押さえることも必要になる。すべてを自社で賄うことは難しい。となれば、必要な技術や材をもつ企業を買収することが近道になる。そうした発想でビジョン・ファンドは世界中から潜在的な能力の高い企業を次々と傘下に収めている。

 英国企業で半導体の大手「アーム」の買収もその一例に過ぎない。狙った獲物の確保には金に糸目をつけないのが孫正義流だ。「アーム」の買収金額は320億ドル。何と市場価値に43%も上乗せした金額を提示し、経営者に有無を言わせなかった。現在、世界でベンチャーキャピタルが投資に回す金額は700億ドルといわれる。この数字を見れば、ビジョン・ファンドのはたしている役割がいかに大きいかが理解できるだろう。

(つづく)

<プロフィール>
浜田 和幸 (はまだ・かずゆき

国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。16年7月にネット出版した原田翔太氏との共著『未来予見~「未来が見える人」は何をやっているのか?21世紀版知的未来学入門~』(ユナイテッドリンクスジャパン)がアマゾンでベストセラーに。

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