2024年12月22日( 日 )

【特報】東京地検特捜部に翻弄された「48時間」(2)~次々と「消える」関係者

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■「来週、すべてを話す」と言い残して消えた一山氏

WINカンパニーで助成金申請を担当する、岡田賢介こと一山賢介氏

 以前会った際には警戒心と敵愾心を隠そうとしなかった一山賢介氏(参照記事)だが、なぜかこの時は吹っ切れたような表情で歩み寄り、記者が「ガサが入ってるんですか」と問いかけると、驚いたように「マジで? おれ、いま来たけんわからんよ。ガサ入っとるなら逃げないかんかな」と冗談を返してきた。

 一山氏とはそれから1時間ほど、建物の外で話をすることができた。真偽のほどはわからないが、一山氏は「もう川﨑とは切れた。会うこともない。あいつはもう福岡には来んよ」と話し、自身やWINカンパニーにかけられている疑惑についても「おれはハメられた。川﨑だけが悪いわけでもない。本当に悪いやつはほかにいる。証拠もある」と早口でまくしたてた。その証拠を見せてほしい、と迫る記者に対して一山氏は、

 「来週になったら、本当のことをすべて話す。必ず連絡するので、取材して書いてほしい」

 と告げ、「早く逃げな(いと)、逮捕される」などとおどけながら、「親族の葬式に出席するため長崎に戻る」と言い残して足早にその場を離れていった。

 その後しばらくして裏のシャッターが空き、助手席にまで荷物を積んだバンが走り出すのを見たものの捜査車両かどうかは確認できず、建物内から出てきた従業員たちに張り込みを邪魔されたうえにパトカーまで呼ばれる騒動になった。もっとも、駆けつけた警察官の話から推察すると建物内に残っているのは従業員だけで、建物を積んだバンも従業員が私物を持ち出しただけだとわかったため、いったんその場を離れることにした。結局、WINカンパニー福岡事務所に家宅捜索が入ったかどうかはこの時点では判断できなかったが、もし捜索が行われていたとしても26日の早い段階で終わっていたようだった。

WINカンパニーの経理を担当し、塩田氏の「金庫番」ともされる青木誠敏・全国子ども保育促進機構株式会社代表取締役社長

 26日午後10時ごろに現場を離れた記者の携帯が鳴ったのは同日午後10時30分ごろ。ショートメッセージの内容は「東京地検特捜部が川崎氏を拘束。福岡では青木氏と一山氏を拘束した。要確認」という内容だった。午後5時ごろの情報では「東京地検」だったものが「東京地検特捜部」とより具体的になり、逮捕が「拘束」に変化していた。何より驚いたのは、「一山氏を拘束」の部分だった。一山氏と別れてまだ2時間ほどしか経っておらず、情報が本当だとすれば別れた後すぐに拘束されたことになる。一山氏に尾行でもついていたのか……にわかには信じ難い内容だった。

 その後、深夜から早朝まで「逮捕」「いや聴取のみだ」などの情報が錯そうし続け、迎えた27日。朝から川﨑氏逮捕の記事を出すべきかどうかギリギリの判断をしながら情報収集を続けると、正午近くなってようやく、確度の高い情報を得ることができた。

 その中身は、「川崎氏は逮捕されてはいないものの、26日に東京地検特捜部の調べを受けた。容疑は融資詐欺。横浜幸銀信用組合(横浜幸銀)が告訴した。川﨑氏は家宅捜索への立ち合いを求められ、携帯電話を没収されたうえで長時間立ち合った。その際に捜査官の承諾を得て、義母の携帯を使用して弁護士に連絡を入れている」というもの。

 しかしこの情報についても首をひねらざるをえなかった。じつは特別取材班は6月10日、川﨑氏の単独インタビューに成功していた。川﨑氏は福岡市天神の某所で弁護士を伴って取材に応じ、その場で「偽造した助成決定通知書を使用して(担保として)横浜幸銀から融資約1億3,000万円を引き出したことは間違いない。ただし、横浜幸銀とは返済を条件に事件化しないことで話がついている。なんの問題もない」と証言していたのだ。

 10日の時点で「話がついている」としていたものがなぜ、26日になって告訴されていたのか。27日に取材に応じた川﨑氏の代理人弁護士によると「川﨑氏は物件を売って被害弁償するつもりだった。ちゃんと売却できれば返済は可能だったが、物件に仮差押えをしている人物との話し合いが長引いたため、横浜幸銀がしびれを切らしたようだ」ということだが、それにしても唐突すぎる感は否めない。

 どこか腑に落ちない思いと、「なぜ、青木氏と一山氏に連絡がつかないのか? 彼らはいったいどこにいるのか?」という疑問点を解決すべく、関係先への問い合わせを続ける。大野城市にある一山氏の自宅も訪ねたが、27日付の『読売新聞』朝刊がドアポストに差し込まれたままになっており、一山氏の妻と子どもの声を聞くこともできなかった。

■次々と「消える」関係者たち

 青木氏と一山氏の所在確認を続けていた午後1時ごろ、今度は「J社のI氏とT氏に連絡がつかなくなっている。会社に電話しても留守番電話になる。不自然だ」という情報が入ってきた。

 27日に東京地検特捜部の捜査を受けたJ社は、企業主導型保育事業で助成金を受けた保育所の設置企業で、助成金申請と運営をWINカンパニーに委託していた企業だった。

 この日、J社のI代表ら数人はある会合を持つ予定だったもののI氏が突然一方的にキャンセルを通告し、理由も告げないままに連絡がとれなくなったという。「電話での口調がいつもと違い、どこかヘンだった」「そばに誰かいて、言わされているような感じがした」という証言もあり、不審な点が多々ある「ドタキャン」劇だった。

 前日に川﨑氏が事情聴取されていたことを考えれば、「まさか」と勘づくのは当然だろう。すぐにJ社に直行してドアをノックすると、わずかにドアが開けられ、こわばった顔の社員がイスに座っているのが見えた。

 T氏はこちらを認めるとひきつったような表情のまま立ち上がり、「すみません。今日はお引き取り願えますか」と応えた。室内でいま何が起きているかを知るには、その表情だけで十分だった。

 「東京地検特捜部、捜査員は約10人」。情報源を記すことはできないが、数分後に関係者からこの2つのキーワードを入手して張り込みを開始した。数時間後には、どこで情報を聞きつけたのか、新聞や雑誌、テレビ局の記者らが集まり始める。途中で帰りはしたものの、最初に駆け付けたカメラクルーはNHKだったのか。さすがに検察情報には強い。

 途中、T氏が大柄な男性に伴われて顔をそむけながら白いセダンに乗るのを確認した。その後、何度かT氏に電話を試みているものの、今日午後1時現在に至るまで連絡がとれない状態が続いている。T氏は福岡地検で聴取を受け(その後自宅に戻ったかは不明)、今朝も聴取を受けたあとに解放されたとみられるが、現在どこにいるのかはわかっていない。

 じつは、26日から今日(28日)にかけて、I氏とT氏に加えて青木氏、一山氏、さらに他に数人、川﨑氏やWINカンパニーに関係していた人物と連絡がとれない状態になっている。まるで魔法のように、現れる先々で「消える」人が続出する東京地検特捜部の「剛腕」ぶりはさすがというほかない。

【特別取材班】

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