大和ハウスはなぜ、ガタガタになったのか 「中興の祖」樋口会長がつくり上げた企業風土(後)
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創業者の遺言「創業100年に売上高10兆円」
大和ハウスの樋口武男会長は朝、大阪本社に出勤したら、まず、創業者の石橋信夫氏の執務室だった部屋に向かう。2003年に石橋氏が亡くなった後も、本社15階の執務室は残されている。そして石橋氏の遺影の前で経営についての思いを静かに伝え、石橋氏の魂と対話する。大和ハウスの社員なら、誰でも知っている樋口会長の日課である。
樋口氏は、石橋氏の遺影と何を対話しているのか。
「創業100周年の2055年度に売上高10兆円」。
石橋氏の遺言だ。その達成状況を遺影に向かって報告するのである。
2001年に社長に就いた樋口氏は、2003年に石橋氏が亡くなった後、石橋氏の遺志を引き継ぐことを使命とした。創業50周年に当たる2005年に売上高1兆5,000億円の目標を達成した。創業100周年の2055年度には売上高10兆円という壮大な目標を掲げた。
大和ハウスは創業事業である戸建住宅から、賃貸住宅、マンションや、流通店舗などの事業。海外事業やエネルギー事業など幅広い事業展開を図り、住宅業界トップに躍り出た。
商業施設や事業施設への多角化
大和ハウス工業の2019年3月期の連結決算は、中国合弁会社の不正流用で125億円の営業外費用を計上したため、純利益は前期に比べて微増の2,374億円にとどまった。
本業は好調で、売上高は前期比9.2%増の4兆1,435億円、営業利益は同7.2%増の3,721億円と増収・増益だった。
19年3月期の事業別業績によると、戸建住宅は売上高3,838億円。創業事業である戸建住宅はもはや主力でない。取って代わるのが、賃貸住宅と商業施設、事業施設の3事業。
賃貸住宅は売上高1兆613億円。ショッピングセンターなどの商業施設は売上高6,939億円。物流倉庫や工場、オフィスビルなどを手がける事業施設は売上高1兆223億円。なかでも、事業施設は前期に比べて、売上高は1,721億円の増収。東京五輪に向けての空前な大型オフィスビルラッシュの賜物だ。
急成長がもたらした副作用
樋口氏は新しいことを始める際に大事なことは「独断」であると語っている。サラリーマン社長がトップの会社は、プロセスに時間がかかって、なかなか結論が出ない。大和ハウスもサラリーマン会社だが、創業者の石橋氏の教えが息づいており、樋口氏が石橋氏の“化身”として「独断」で決めているという。
樋口氏から厳しい指導を受けた管理職は、部下を厳しく育てる。その部下たちは、工事業者や協力会社という現場にとにかく結果を出せと迫る。
結果がすべて。このプレッシャーの連鎖が、現場に「モノいえば唇寒し」の土壌を植え付けた。不祥事があっても、上層部に伝わらない風通しの悪い企業風土をつくりあげた。
高度成長時代、野村証券、住友銀行、リクルートは、モーレツ営業の“御三家”といわれた。この高度成長時代のモーレツ営業を継承しているのが、大和ハウス、大東建託、レオパレス21などの住宅会社。一斉に、不祥事が噴出してきたのは、故無しとしない。
樋口氏は「独断」によって、大和ハウスを総合建設(ゼネコン)を含む建設関連事業の国内トップに育てた。だが、その副作用も強烈で急成長のひずみが現れている。樋口氏が経営の第一線から去る大和ハウスは今後、「普通」の会社になるかもしれない。
(了)
【森村 和男】法人名
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