2024年11月25日( 月 )

日韓の熱い夏~韓国に「NO」を突きつけた安倍政権 21世紀のトレンドを決する攻防戦に(前)

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韓国に対する特別待遇を撤廃した安倍政権の経済措置は、日本政府にとっても一大転換点になった。一次的には韓国の貿易管理に対する不信感から取られた措置だが、本質的には韓国が進めつつある「日本無視」に対して重大な警告を突きつけたことに意義がある。


日韓基本条約の精神に立ち戻れ!

 戦後の日韓関係は1965年の日韓基本条約によって定型化されてきた。文在寅政権は韓国大法院(最高裁判所)判決を盾に、その根底的な価値を覆す対応に出た。業を煮やした日本政府が強硬措置に転じるという未曾有の展開を見せたのである。

 今回の紛争の長期化は必至である。少なくとも両政権のトップが交代するまでは、好転しないだろう。旧植民地(韓国)と旧宗主国(日本)という両国の歴史と国家理念がかかった勝負だからだ。解決策は1つしかない。日韓基本条約の精神に立ち戻ることである。

 日韓基本条約の締結に当たって、両国の対立点は極めて明瞭だった。日本側は1910年の韓国併合条約を「合法」としてきた。これは国際的に認知された条約だったからだ。一方、韓国側は「不法」として対立した。植民地支配が不法だったとするなら、日本が当時の朝鮮で行ったことは、ことごとく損害賠償の対象になる。これは今回の韓国司法の判断にももち越されている態度だ。

 しかし、両国間の交渉の結論はそうとはならなかった。この点を再認識するのが重要だ。双方は「併合条約はもはや無効である」として、日韓双方がどちらとも取れる玉虫色の決着を見せたのである。これは賢明な判断であった。

 その合意に基づいて、日本側から有償無償の協力金5億ドルが韓国側に支払われた。徴用工問題はこの資金に基づいて、韓国側で処理されるべきである。これが日本政府の一貫した方針であり、従来の韓国政府がとってきた方針だ。安倍政権が徹底的に日韓条約に忠実な姿勢を堅持したのは、国際的にも当然の対応である。

 文在寅政権の問題点は、日韓基本条約の基本方針に反する韓国司法の判断に引きずられ、意味のある打開策を取ってこなかったことだ。文在寅政権は従来の韓国側の基本姿勢から見ても異質である。今回、安倍政権が韓国を特別待遇から解除したのは、このような経緯から見ても当然の対応策である。

 韓国内部に「玉虫色の決着」に対する不満があったのは事実だが、これは条約を締結した以上、甘受すべき国際的義務である。日本はサンフランシスコ講和条約で被占領状態から脱する一方、米国による原爆投下という国際法違反の暴挙を追及する権利を放棄した。被爆者救済は日本政府の義務となったのである。

 韓国の場合も日本から支払われた5億ドルの協力金によって、経済建設の基礎を形成できたのだ。その経済的果実のなかから、韓国民への援助策を講じるというのが、日韓双方が確認した原則である。この事実を無視すべきではない。戦後日本の平和貢献への努力は、金大中元大統領が日本の国会演説で言及した通りだが、最近の韓国政権はこれを軽視してきた。

(つづく)

<プロフィール>
下川 正晴(しもかわ・まさはる)

1949年鹿児島県生まれ。毎日新聞ソウル、バンコク支局長、論説委員、韓国外国語大学客員教授、大分県立芸術文化短大教授(マスメディア、現代韓国論)を歴任。現在、著述業(コリア、台湾、近現代日本史、映画など)。最新作は「日本統治下の朝鮮シネマ群像《戦争と近代の同時代史》」(弦書房、2019) 。

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