2024年11月24日( 日 )

「プロ経営者」LIXIL藤森社長の正念場(前)

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 「プロ経営者」藤森義明・LIXILグループ社長兼最高経営者(CEO)が正念場に立たされた。得意の海外M&A(合併・買収)で大失敗したからだ。

 LIXILグループは5月22日、中国で水栓金具を手がける子会社、ジョウユウ(本社・ドイツ、フランクフルト証券取引所上場)がドイツ・ハンブルグの地方裁判所に破産手続きの開始を申し立てると発表した。不正会計が発覚して債務超過に陥ったためだ。ジョウユウは、創業家出身の最高経営責任者(CEO)と最高執行責任者(COO)を解任し、法的措置を講じると発表した。

 LIXILは2014年に買収した独水栓金具メーカー、グローエを通じて、ジョウユウの株式の72%を握る。破産によって410億円の投資損失が発生する。損失の内訳は株式関連が250億円、債務保証が160億円だが、「他にも費用が出てくる可能性がある」(藤森社長)としており、損失がさらに拡大するのは確実だ。
 衝撃的だったのは、ジョウユウを子会社化して2カ月も経っていなかったことだけではない。「変革の新たなステージ」と銘打った新事業モデルがスタートした直後だったからだ。走り出した途端に、転んでしまったのだ。

取締役10人のうち9人を外部からヘッドハンティング

 2015年4月1日。藤森義明社長は「変革の新たなステージ」の到来を高らかに宣言した。LIXILグループは、建材・設備機器会社からテクノロジー会社を謳う新体制に移行した。相次ぐ買収で重複した事業を、世界共通の事業として、水回り、ハウジング、ビル建材、キッチンの4事業に再編した。
 ただし、5つ目の組織である国内の販売を担うジャパンカンパニーだけは、国内に閉じる。というのも、住宅・設備業界は特約店や問屋など流通業者の影響力が強く、彼らにそっぽ向かれたら、商売が立ち行かなくなるからだ。豪腕で知られる藤森氏も、さすがに国内の販売に踏み込めなかった。

 各事業のトップに、外部人材のCEO(最高経営責任者)を置いた。
 組織再編で、LIXILの取締役10人のうち外国人4人を含む9人がヘッドハンティングなどによる外部人材だ。日本企業で、これほど経営者のプロ化を進めた例はない。
 LIXILでは、世界のグループ幹部が英語で激しい論戦を戦わせる。彼らを強力なリーダーシップで束ねるのが、LIXILグループの藤森義明社長兼CEOだ。
 藤森氏は米ゼネラル・エレクトリック(GE)での上席副社長を経て、プロ経営者の手腕を買われ11年8月、住生活グループ(現・LIXILグループ)社長に就いた。
 前身企業の1社、トステム創業家出身の潮田洋一郎会長から託されたのは、「国内市場依存体質からの脱却」。超ドメステック(内需型)企業をグローバル企業に変身させることだ。海外売上高1兆円を稼ぎ出すグローバル・カンパニーに育て、そのグローバル・カンパニーの経営の舵取りを任せられるプロ経営者を育ててバトンタッチすることが、経営の命題である。

GE流を直輸入した人材育成の手法

 藤森氏は、LIXILの人材育成にGEの手法を取り入れた。GEは人材育成を事業の重要な柱の1つと位置づけるほど、人材育成に熱心な企業であることは知られている。若手リーダーは系列企業のCEOとして徹底的に鍛えられ、昇進していく。

 藤森氏はGEを手本に、若手約60人を社内からピックアップして、リーダーになるためのトレーニングを実施した。そのなかから、期待できると思った社員や工場経験しかない社員をいきなりマネジメントに抜擢するなど、2階級、3階級ジャンプする人事を行ってきた。
 藤森氏はGEでは、そうやって鍛えられて昇進した。世界各国に約30万人の社員を抱えるGEで、藤森氏は、その頂点に立つ執行役員会議のメンバーだった。厳しい評価にさらされ、顔ぶれが毎年入れ替わるが、藤森氏は、その席に座り続けた。
 藤森氏は、LIXILをグローバル企業に変身させるために、GE流の人材育成法と組織を取り入れた。グローバル・カンパニーに向けて踏み出したのが、4月1日の組織再編と人材登用だ。社内での人材育成は一朝一夕にいかない。彼らがLIXILのリーダーに育つのは、10年以上後だ。そのため、外部からプロ経営者をスカウトしてきた。

 「変革の新たなステージ」と銘打った4つのテクノロジー事業と国内事業からなる新事業モデルをスタートさせた直後に、出鼻を挫かれた。
 しかも、藤森氏が注力してきた海外M&Aで破産が起きた。その衝撃は計り知れないものがある。

(つづく)

(後)

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