「川崎大資=塩田大介」の実像~粉飾と偽造、尽きぬ欲望・虚栄心の果て(後)
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東京地検特捜部は8月13日、福岡市の保育事業コンサルタント・川崎大資容疑者(51)を、内閣府の企業主導型保育事業をめぐる補助金4億8,000万円を騙し取った疑いで起訴した。同事業に絡む融資詐欺で7月に起訴されたのに次いで2回目。川崎容疑者の旧名は「塩田大介」。「塩田」時代の川崎容疑者は、1990年代にマンションデベロッパー「ABCホーム」を設立し、新築マンションの売れ残り物件売買で同社を急成長させた。しかし、急成長の影で取引先からのキックバックや脱税などの違法行為を行っていたことが明らかになり、2013年には競売入札妨害容疑で実刑判決も受けていた。「懲りない男」を突き動かすものは何だったのか。
■華麗なる「粉飾」経歴書
〈1987年〉
初芝高校(現・初芝立命館高校)を卒業。特待生としてバスケ部に所属しレギュラー選手として活躍。〈1988年〉
大学に入学するも中退し渡米。北マリアナ大学に留学する。プロバスケット選手を目指す。しかし膝の故障により断念し、プロゴルファーを目指して、サイパン島 キングフィッシャーゴルフ倶楽部に所属して働く(研修生)。〈1990年〉
ダンススクールの先生をしている実の母とともに、サイパン島でダンススクールを一緒に手伝い、アクアリゾートホテルのツアーコンダクター業務などしてサイパンに定住(日本と行き来するも2012年まで住む)。〈1994年〉
サイパン島 ガラパンにある、「KENT co.Ltd」を日本人会役員とともに設立。ツアーコンダクター業務、母とダンススクール、スタジオ経営とアクアリゾートホテルにて一時預かり保育など運営。〈2000年〉
日本ダンス議会会員になりソシアルダンス大会など参加。 栃木県佐野市などでダンススクール立ち上げなどサイパン島業務と並行して行う。日本でのダンススクール立ち上げなど多く手がけて、母・~子が、栃木県と東京などで児童託児所業務とダンススクールを開業。〈2005年〉
日本にて結婚する。日本とサイパン島を行き来しながら業務継続。〈2011年〉
東日本大地震にみまわれ、栃木県ダンススクール閉鎖とともに、日本に帰国する。ほかのダンススクール、託児所など運営する母のお手伝いを開始。待望の第一子が誕生する。 待機児童となり、自らが先頭に立ち母、妻、息子と保育士の先生たちとダンススクールの先生たちで本格的保育事業スタート(現・WINカンパニー事業の原型)。〈2013年〉
託児所が大反響、大盛況になり、自営業で行っていたダンススクールと託児所の法人化を提案してWINカンパニーを6月に設立。母が社長となる。託児所を港区と新宿区などで開業。〈2016年2月〉
そのほかにも保育コンサルタントなど行うにあたり、母と共同で代表取締役として社長に就任。同年4月より「企業主導型保育園事業法案決定」にあたり念願の認可外保育園として助成金の申請が行えることになり、これまでの託児所を廃業して渋谷区神宮前を1号店としてオープンする。〈2017年〉
「企業主導型保育事業」設置コンサルタント事業とともに、運営業務委託業務開始を9月2日より開始。〈2018年3月〉
業務拡張にともない本社を港区南青山から 港区赤坂の現在住所に移転。2018年度企業主導型保育事業申請業務が6月15日から7月31日まで開始され続々と運営店舗もオープンして保育申請業務コンサルタント事業と保育運営店舗の業務委託を受けて業務拡張。7月に赤坂本社を東京事業本部として残すも、本社を福岡県福岡市早良区西新に移転。なんとも華麗な経歴書である。川崎容疑者の身長は170cm程度だが、自作の経歴書によれば90年代に高校バスケの強豪として知られた私立初芝高校に特待生プレーヤーとして入学した、のだという。さらには田臥勇太選手が初の日本人NBAプレーヤーとなった2004年の15年以上も前に、「プロバスケット選手を目指して渡米した」と自称する……ここまで無理がある設定を堂々と書ききる大胆さには恐れ入るしかない。
また、川崎容疑者は「中央大学中退」を自称していたが、別の経歴書では日本の大学に在籍歴のないまま米国の大学に進学したと書かれていることもあって、事実かどうかは定かではない。そもそも先にあげた経歴書には「塩田大介」時代のABCホームについての記述がまったくないため、高校卒業(本当に初芝高校を卒業したかも疑わしいが)から実刑判決を受けた2013年までの記述のほとんどが事実ではない可能性が高い。もっとも川崎容疑者がソシアルダンスに励んでいたことは確かなようで、入手した3通の経歴書すべてにダンス関連の経歴について詳しい記述があることから、強いこだわりをもっていた節もうかがえる。
2000年の項を見ると、川崎容疑者の母親が児童託児所業務とダンススクールを開業したかのように読み取れるが、じつはここでいう「母」とは川崎容疑者の妻の母、要するに義母を指しているのだ。実際に結婚しているのだから「母」としたのか、何らかの意図をもってあたかも実母のように記述したのかは定かではないが、「嘘は言っていないが事実ではない」という、なんとも詐欺師らしい表現のしかただ。
■川崎容疑者は「サイコパス」か
川崎容疑者は2005年に、元タレントで銀座の高級クラブ「Y」のママと結婚し、政治家や芸能人を多数招いた豪華な結婚披露宴を開催して話題を呼んだこともあった。その結婚披露宴を収めたDVDを、なぜか川崎大資と名前を変えてからも関係者に配布していたことがわかっている。川崎容疑者は自分から「おれは塩田大介だ」とは名乗らないものの、芸能人と写った写真をわざと机の上に広げるなどして興味を持たせ、「じつは……」と、自らの黄金の日々を語り出すのが川崎容疑者の手口だったというから、どこか子どもじみたところもあったようだ。
川崎容疑者と実際に仕事をしたことのある関係者らが口をそろえて言うことがある。「(川崎容疑者は)法律さえ守ってくれれば、非常に有能な事業家だ」「人間的魅力もあり、一緒にいて楽しいと感じることも多かった」「頭も良いし、人柄も悪くはない。なのになぜ、不正にばかり手を染めるのか」。その謎を解くカギは、川崎容疑者の乗っていた車にあるのかもしれない。
福岡滞在時の川崎容疑者は、ショッキングピンクに塗装したBMW、しかもオープンカー仕様に乗るのが常だったという。同容疑者のインスタグラムでも「加速がすばらしい」などとこの車の動画を上げるなどしており、かなりお気に入りだったことがうかがえる。経営者の豪華な実生活を見せつけることがビジネス上有利に働くことも多いとはいえ、いかにも派手好きな川崎容疑者らしい。ただし、この車はリースしていたもので、川崎容疑者が所有する車ではない。インスタグラムで頻繁にアップしていた都内港区の自宅マンションにある豪華な家具類も、じつはリースしたものがほとんどだったという。この事実を知ったある週刊誌記者がふと漏らしたひとことがある。
「金がないのに、なんでBMWに乗りたがるんでしょうね。移動するだけならカローラで十分じゃないですか」。
川崎容疑者の性格や行動原理を分析するうえで、この指摘は非常に大きな意味を持つ。要するに、川崎容疑者は「カローラに乗る自分」に耐えられないのだ。言ってみれば、経歴書にも見え隠れする虚栄心と自己愛の象徴がピンクのBMWであり、こうありたい自分、こうあるべき自分の具現化でもあった。川崎容疑者は自らの欲望を全肯定し、抑制する術を知らない。自らを飾るために必要だと感じるものがあればそれを入手しようとし、そのためには手段を選ばない。そうしたある種の幼さや原始的欲求の発露が人を惹き付けることもあると考えれば、詐欺師が時にカリスマ性を身にまとうのも合点がいくではないか。
川崎容疑者の福岡の関係先で、彼が残していった衣類を見る機会があった。スーツ類は確かにブランド名入りではあったもののハイブランドというわけではない時代遅れの型で、一方ネクタイのほとんどが「アルマーニ」だったことが印象的だ。いかにも不動産で成り上がった川崎容疑者らしく、さらにバブルの残り香を嗅ぐようで、同年代を生きた記者としてはどこか侘しくもあった。
有能な経営者や社会的成功者が、サイコパス(反社会性パーソナリティー障害)の傾向を持つことが多いという研究成果がある。サイコパスは「大胆だが不誠実」であり、冷淡で罪の意識に乏しく、衝動をうまく抑制できない、と定義されており、現代においてはこういった性格の持ち主が社会的に成功することがままあるというのだ。
経営者は決断を迫られる状況が多く、しかも会社の命運を左右する綱渡りのような決断を迫られることもよくある。そうした状況で冷静に、しかも大胆に決断を下せるのは確かにサイコパス傾向のある人物なのだろう。法律のグレーゾーンを突くような決断はお人好しの善人にはなかなかできず、超合理性と決断力で巨利を得た経営者に性格破綻者が多いというのは、あながち外れてはいまい。川崎容疑者が実際にサイコパスであるかどうかはわからないが、大胆で不誠実、罪の意識に乏しく衝動をコントロールできない、という人物像に驚くほど当てはまるのは確かだ。
サイコパスは周りの人々を自分の世界に巻き込むのも得意だという。魅力的な人物からおいしい話をもち掛けられ、さらにその過程で一線を越えそうになったときに踏みとどまれるかどうか。読者は「自分は大丈夫だ」と断言できるだろうか。誰しもが、心のどこかに川崎容疑者(のような虚栄心)を潜ませていることを忘れてはならない。
(了)
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