大戸屋HD、創業家と経営陣のお家騒動が終結~創業者が最も留意すべきは相続税だ!(後)
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創業者は相続税をどう払うかに留意せよ
それでは、決定的な対立となったのは何か。ズバリ、相続税の問題である。
久実氏が自らの死後に発生する見込みの相続税対策としての功労金問題だ。久実氏が生前の15年3月ごろから議論に入った。同社は04年9月に役員退職慰労金の制度を廃止しており、相続税を支払うカネは功労金から引き出すしかない。
生前に功労金を出せないかの検討に入った。功労金は株主総会での可決が必要だ。メインバンクの三菱UFJ信託銀行や監査法人に相談にいくと「代表権を降ろすのを契機とするといい」とアドバイスを受けた。寿司屋で会長・久実氏と窪田社長らの役員たちが話し合った。報告書はある役員の証言を載せた。
「功労金を出すには理屈がいる。会長が代表権を返上し、いわば現役を降りて後進の指導にあたるとかであれば、功労金の説明が株主につく」と。そうしたところ、久実氏は、ふざけるなと。激怒どころではなかった。濱田寛明専務も窪田社長も皆怒鳴り散らされた。寿司屋で5時間
この役員は、取締役から執行役に降ろされた。功労金については、久実氏の死去まで俎上に上ることはなかった。
メインバンク出身の仲介役に創業家は不信
三枝子夫人との関係が悪化した窪田社長は、メインバンクである三菱UFJ銀行出身で当時相談役(6月取締役復帰)だった河合直忠氏に仲介役を頼んだ。報告書はこう書く。
社外取締役の多くは、河合氏について「同氏の説得のロジックは、懐柔するというよりはまさに負の遺産を整理しなきゃ、と言った色合いが強かった。(中略)彼は大戸屋の河合というより三菱の河合だ」
大戸屋は洋食店「祇園ミクニ」や上海の「大戸屋ごはん処」、山梨の工場用地、植物工場などの負の遺産を抱えていた。河合氏は、まずはそれら赤字事業を整理するために資金に充てた方が良い、と意見を出した。
そうしたなか、創業家に対する8億円を超える功労金の支給の話が持ち上がった。「負の遺産」があるなかで、功労金を支払うことにメインバンクの三菱信託と河合氏が難色を示し、功労金の支払いは先送りされた。功労金が支払われなかったことに智仁氏は激怒した。
大戸屋の創業家と経営陣の対立は、8億円とされる功労金問題だった。創業家は相続税を支払うために遺産相続した株式を売却し、会社と縁が切れることを最も恐れていたからだ。
大戸屋HDは17年6月28日、定時株主総会で、創業者の故・三森久実前会長に功労金2億円を支払う議案を可決した。智仁氏と三枝子未亡人の創業家は、相続した大戸屋HD株を担保に銀行から融資を受け相続税を支払った。しかし、2億円の功労金では足りない。最終的に、コロワイドに保有株を30億円で売却して借金の返済に充てた。
相続税を支払うために、遺産相続した株式を売却して、会社とは縁が切れるという最悪の結末を迎えた。
相続税をどうするか。創業者は、生前に対策を立てておく必要がある。大戸屋HDのお家騒動が残した最大の教訓だ。
(了)
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