2024年11月22日( 金 )

「路上でお酒を飲ませろ」、ハロウィーン前に禁止条例反対デモ~東京・渋谷

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井ノ頭通りを行く「守る会」の面々ら(2019.10.18筆者撮影)
井ノ頭通りを行く「守る会」の面々ら(2019.10.18筆者撮影)

 「路上でお酒を飲ませろ」−−。飲食店の並ぶ東京・渋谷の繁華街で10月18日夜、若者たちのシュプレヒコールが響き渡った。月末にハロウィーンを控え、始めて適用される路上飲酒などを禁じた渋谷区の条例に反対の意志を示すためである。

 昨年のハロウィーンの時期、渋谷では酒に酔った男らが電柱によじ登ったり軽トラックを横倒しにするなどの騒動が起き、逮捕者も出た。これを受け同区(長谷部健区長)は2月から開いていたハロウィーン対策検討会の報告を踏まえ、6月20日に「渋谷駅周辺地域の安全で安心な環境の確保に関する条例」を制定した。

 同条例はハロウィーン期間中やカウントダウンでにぎわう年末年始など、渋谷繁華街での路上飲酒や音響機器を使って大きな音を出すこと、放尿、街路灯に上る行為などを規制している。今回は10月25(金)〜27日(日)の翌朝までと31日(木)の24時までが対象となる。

 これに反発してつくられたのが「渋谷区の路上の自由を守る会」(ツイッター:@rojo_jiyu)だ。5月中旬に結成され6月11日、同区議会に署名と陳情文を提出。路上で鍋パーティーを開いたほか、街頭宣伝活動を約20回と、6月28日に初めてのデモ行進を実施している。

 今回のデモは2回目。小雨の降るなか、午後6時半からJR渋谷駅のハチ公前口広場に仲間が集まってきた。ハンドマイクを使い、「私たちはハロウィーンや大みそかに路上でお酒を飲んだり音楽をかけたりすることを禁止する条例に反対しています」と演説する。脇では、段ボールに「街の自由を守ろう」などとマジック書きしたり、富士山のかぶり物を身に付けるメンバーも。

演説する和田さん(左、2019.10.18筆者撮影)
演説する和田さん(左、2019.10.18筆者撮影)

 マイクを握っていた和田拓磨さん(27)は、「この渋谷の街は、先日のラグビーやサッカーW杯での勝利など、うれしいことでみんなが集まり、やりたいことをやれる場所。箱物だけではない、街の文化を守っていきたい」と話す。NPO職員として障がい者介助の仕事をしながら、デモ実現のため警視庁や渋谷警察署に足を運び、道路使用許可を取り付けた。

 同条例は区や事業者、来街者の責務を示したもので、罰則はない。和田さんは罰則が盛り込まれることを警戒する。「区議会は、まず罰金を付けようとしています」。さらに、「区長が特に必要と認める期間」も飲酒が規制できることや、「音を異常に大きく出す行為」「迷惑を及ぼす行為」に数値や具体例が明示されていないことを危険視する。

 メンバーの橋塚哲人さん(27)は都内に住むフリーター。「ハロウィーンは若者のエネルギーが爆発する現象。いろいろな人がきてパワーが生まれるのが渋谷の特徴であり、歓迎すべき部分だ。その魅力を規制するのは反対」と明言する。

 「守る会」が同条例に反対するのは、憲法で保障された国民の権利を侵害しているとの考えから。飲酒は同第13条の「幸福追求権」や「自己決定権」、音響機器の使用は21条の「表現の自由」、酒類販売自粛は22条や29条の「経済活動の自由」に反すると主張する。

 この日は20人ほどが集まった。フリーターや学生、会社員などさまざまで上下はない。メンバーはもともと、駅前の街宣を通じて知り合った。高円寺の再開発反対や反原発などのデモに参加する者から、愛国団体に出入りする者まで、左右を超えている。

 中東地域の打楽器、ダラブッカをもった男性も飛び入り参加した。全国を徒歩行脚中のバックパッカーで、SNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)で情報を知ったという。

 午後8時、マークシティー脇から、警察に先導されながら路上を行進した。音響機器を使いレゲエのリズムに乗せ、「渋谷の街で飲ませろ」「飲みたい所で飲ませろ」と声を挙げる。参加者の手には、第三のビールや缶酎ハイが。

 「沿道からの参加も歓迎します」「野宿者の排除や弾圧にこの条例を使うんじゃないかとも危惧しています」と拡声器で告げる。

 反応はさまざまだ。「路上でお酒、ワハハ」と振り返る若い女性たちや、「何だあれ」とすかさずカメラを向ける男性。一方で、“邪魔”とばかり、爆音を上げて後ろからあおってくる改造車もあった。駅前で演説しているときは、茶髪に鉄鋲(てつびょう)の首輪のコスプレをした通行人が、「普段からコスプレしている私たちには迷惑千万。でも、頑張れよ」と叱咤(しった)激励していた。

 「多様性が渋谷の魅力」と訴えるメンバーは終了後、雨が避けられるマークシティー前の軒下で交流会を開き、街の自由を謳歌(おうか)していた。

<プロフィール>
高橋 清隆(たかはし・きよたか)  

 1964年新潟県生まれ。金沢大学大学院経済学研究科修士課程修了。『週刊金曜日』『ZAITEN』『月刊THEMIS(テーミス)』などに記事を掲載。著書に『偽装報道を見抜け!』(ナビ出版)、『亀井静香が吠える』(K&Kプレス)、『亀井静香—最後の戦いだ。』(同)、『新聞に載らなかったトンデモ投稿』(パブラボ)。ブログ『高橋清隆の文書館』。

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