2024年11月21日( 木 )

最も大事なのは一次予防の養生「生活習慣の改善」である!(1)

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 2018年6月にWHO(世界保健機関)が定める「国際疾病分類」の第11回改訂版で「伝統医学」として初めて中医学(漢方)を始めとする東洋医学が第26章に入った。それはなぜか。日本でも今「人生100年時代」を迎え、「生活習慣病」などを中心に中医学の必要性が急速に叫ばれている。

 中医漢方医学の専門家、(社)日本統合医療学園 理事長・学長の吉村吉博 薬学博士に聞いた。吉村先生は研究・教育そして臨床の傍ら、年間100回を超える講演を行い、中医漢方医学の伝道師として日本全国を行脚している。

(社)日本統合医療学園 理事長・学長 吉村 吉博 氏

世界の医療はすべてその地に根差した「伝統医学」であった

 ――本日は、中医漢方医学について教えていただきたいと思います。その前に、今日の世界・日本の医療について俯瞰していただけますか。

 吉村吉博氏(以下、吉村) 今日の世界・日本の医療は9割を超えて西洋医学です。しかし、医療の歴史を遡って考えれば、世界の医療はすべてその地に根差した「伝統医学」で行われていました。世界の3代伝統医学としては、「中医学」(中国)、アーユルベーダ(インド)、ユナニ医学(イスラム)などが有名で、これにチベット医学(チベット)を加えると4大伝統医学となります。これらの医学は数千年前からあるのに対して、西洋医学は数百年前に始まったものに過ぎません。

 中医漢方医学(以下、中医学)は、本来日本でローカル化した日本漢方医学とは似て非なるものです。しかし、今回は、話をわかりやすくするために、特別に断りを入れない限り、日本漢方医学は中医学のなかに含めてお話をします。中医学は日本に414年に伝来しました。その後、1858年の徳川家定の時代に、蘭学が導入され、西洋医学の基礎となり現在に至っています。

中医学をはじめとする東洋医学が第26章に付け加えられた

 しかし、今また伝統医学が大きな注目を浴びています。2018年6月、WHO(世界保健機関)が定める「国際疾病分類」の第11回改訂版で、「伝統医学」として初めて、中医学(漢方)をはじめとする東洋医学が第26章に付け加えられました。

 これまで、西洋中心だった医学界で東洋医学の必要性が世界的に認められたことになります。東洋医学が加えられた背景には、近年、西洋医学の細分化が進み、からだ全体を診る医療が置き去りになってきた危機感と、疾病が生活習慣ベースになり、西洋医学のみでは対処できなくなってきた現実、西洋薬の副作用の問題といった点で、それらを補完できる東洋医学の必要を認識されたことがあります。

現行の西洋医が処方する「病名漢方」には少し注意が必要

 ――最近は「統合医療」という言葉をよく聞きます。先生はこの点についてはどうお考えですか。

 吉村 統合医療や融合医療とは、近代西洋医学と相補(補完)・代替療法や伝統医学などとを組み合わせて行う療法であり多種多様なものが存在します。西洋医学と東洋医学にはそれぞれ特徴があります。

 たとえば、西洋医学は感染症への対応、手術などは得意としますが、薬の副作用の問題があります。中医学では、「証」(診断名)が合っていれば、漢方薬で副作用がほとんど起こることはありません。西洋医学では、主に瀉剤(攻撃的な治療を目的)が使われますが、中医学は瀉剤もありますが、補剤(病人の体力・気力を補って、本人のもっている自然治癒力を鼓舞させることを目的)も多くが使われています。補剤と言っても、ビタミンなどのサプリメントとはまったく違います。言い方を変えれば、その人だけのサプリメントといえます。また、西洋医学はミクロの医学で、中医学はマクロな医学と言われています。

 西洋医学と中医学などの東洋医学が統合・融合することによって、患者の治療や健康が促進されることはとてもいいことだと考えています。ただし、現行の西洋医が処方する「病名漢方」(病名をつけた時点で処方する漢方が決まる)には少し注意が必要と考えます。それは、本来的な中医学の証の見方と異なるからです。

 中医学では、証(診断名)を決めるために、患者に対峙して、望診、聴診、問診、切診などで約1時間、私の場合は、さらに1時間かけて、養生「生活習慣の改善」についてアドバイスをします。中医学では病気の原因を「実証」(急性疾患)と「虚証」(慢性疾患)に分けています。このプロセスを踏まないと、的確な漢方の処方ができないからです。3分、5分で病名を決定(病名が決まらないとレセプトが書けません)、機械的に漢方を処方する西洋医学的手法は、中医学の立場からは、必ずしもおすすめできません。

(つづく)
【金木 亮憲】

<プロフィール>
吉村吉博氏(よしむら・よしひろ) 

 日本統合医療学園学長、星薬科大学大学院博士課程修了、星薬科大学助教授、日本薬科大学漢方薬学科教授、アメリカ合衆国疾病対策センター(CDC)にて研究、漢方吉村薬局顧問、東京農業大学・東京家政大学・星薬科大学非常勤講師。

 著書として『中医漢方医学の基礎』、『中医漢方医学の生薬と処方』、『中医漢方医学の治療と症例』、『予防は最大の治療なり』、『登録販売者攻略テキスト』、『登録販売者根底300題』(以上、日本統合医療学園)『基礎薬学(必須講座薬剤師国家試験対策)』(日本工業技術連盟)、『分析化学〈2〉』(南江堂)、『わかりやすい機器分析化学』(広川書店)ほか多数。メディア出演として「発掘あるある大辞典」(フジテレビ系)、読売新聞、日刊ゲンダイほか多数。

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