2024年11月22日( 金 )

最も大事なのは一次予防の養生「生活習慣の改善」である!(3)

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(社)日本統合医療学園 理事長・学長 吉村 吉博 氏

「自然」を基に自然に逆らわずに生きていこうとする理論

 ――西洋医学と中医学ではかなり考え方の違いがありますね。中医学の根底にはどのような理論が横たわっているのでしょうか。

 吉村 中医学の歴史は古く、BC770年『黄帝内経』や500年『神農本草経』まで遡ります。その後は中老師たちが独自に改善を行い、中国内それぞれの地域でローカル化して発展してきました。それを1949年に毛沢東によって「中国医学の統一化」が行われ、現在に至っています。すべてを短い時間でご説明することは無理ですので、代表的なものをいくつかご紹介いたします。まず「陰陽五行論」です。中医論は、大自然は宇宙というものの、一部で宇宙の陰陽の法則に従っています。

 陰陽五行論は「自然」を基に自然に逆らわずに生きていこうとする理論です。病気は自然から外れた場合に生じ、自然の姿に戻そうというのが基本的な治癒理論となります。

 陰陽五行論は「陰陽論」と「五行論」が合体したものです。陰陽論とはこの世の事象を二分して考えます。この世は、昼と夜、天と地、陸と海のように自然界は成立しており、生物も男と女、雄と雌、子どもと成人というように相対するものがペアで存在します。また自然的なことに限らず、社会的なことでも陰陽論は存在します。すなわち、森羅万象、宇宙(小宇宙:人体)の事象はすべて相反する2つに分類されるということです。

 五行論とは、この世の中の事象は5つの要素で成り立っているという説です。これを自然界では、木、火、土、金、水の5つから成り立っているとします。

 この5要素は、木から火を生じ、灰となり土を生じる。土から金属が出て、鉱山から水が生じる。水は木を生み育てる、というように循環しています。自然を宇宙とすると人体も小宇宙(人体小宇宙論)となり、自然に摂理に従っています。

 人体の各器官は五行論に従い、五行配置される理論を「五臓六腑論」と言います。主要臓器としての五臓とは、肝(中医学的には肝臓・自律神経系)、心(心臓・中枢神経系)、脾(膵臓・消化器系)、肺(肺臓・水液代謝系)、腎(腎臓・副腎、免疫系・生殖系)のことを言います。中医学では、このように五臓は単独の器官ではなく、1つの系列をなしていると見ます。たとえば、肝系は、肝-胆-目―怒―ストレスと関連しています。すなわち、ストレスによって自律神経が乱れると肝の機能が低下して目の病気(眼精疲労)を引き起こしやすくなります。さらに怒りが増悪すると肝気が上昇して眩暈などを引き起こします。その際には「抑肝散」を処方します。

中医学では全身をめぐる生理活性物質を気、血、水とする

 中医学には、一元論「万物はすべてが気から成り立っている」(孔子)から、すでにご説明した二元論(「陰陽論」)、三元論、四元論、五元論などいろいろあります。ここでは、最もポピュラーな「三元論」についてお話します。

 中医学では、全身をめぐる生理活性物質(生理物質)を気、血(血・精)、水(津液)の3物質としています。気は活動のエネルギー源であり、血は身体各部の活動に対する栄養源であり、水は血液以外の透明な液体です。この3物質が全身くまなく、よどみなく循環していれば健康であるとします。そのなかで最も大事なのは気で、5大作用(全身を動かす力となる推動作用、体温を維持する温煦作用、外部からの邪の侵入を防ぐ防御作用、体液が血管から出るのを防ぐ固摂作用、気血水に転換する気化作用)があります。気の機能が低下すると、気虚(元気がなくなる)、陽虚(冷え)、気滞(ストレス)が発生します。

(つづく)
【金木 亮憲】

<プロフィール>
吉村吉博氏(よしむら・よしひろ) 

 日本統合医療学園学長、星薬科大学大学院博士課程修了、星薬科大学助教授、日本薬科大学漢方薬学科教授、アメリカ合衆国疾病対策センター(CDC)にて研究、漢方吉村薬局顧問、東京農業大学・東京家政大学・星薬科大学非常勤講師。

 著書として『中医漢方医学の基礎』、『中医漢方医学の生薬と処方』、『中医漢方医学の治療と症例』、『予防は最大の治療なり』、『登録販売者攻略テキスト』、『登録販売者根底300題』(以上、日本統合医療学園)『基礎薬学(必須講座薬剤師国家試験対策)』(日本工業技術連盟)、『分析化学〈2〉』(南江堂)、『わかりやすい機器分析化学』(広川書店)ほか多数。メディア出演として「発掘あるある大辞典」(フジテレビ系)、読売新聞、日刊ゲンダイほか多数。

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