2024年12月27日( 金 )

加熱する米中貿易戦争 データ覇権で遅れる日本(3)

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国際政治経済学者 浜田 和幸 氏

威圧的なアメリカの現状

 2018年11月に3度目の来日をはたしたアメリカのペンス副大統領も、トランプ大統領の意向を代弁していた。「インド太平洋戦略」で安倍首相と意気投合を演出したペンス副大統領であるが、中国の進める「一帯一路」計画の向こうを張って、アメリカ主導のアジア太平洋地域向けの700億ドル(約8兆円)のインフラ整備基金の創設を事前のすり合わせをしないまま、突然提案したのである。しかも、新たな基金の原資はすべて日本に負担させようという魂胆だ。

 その論理は明快であった。曰く「アメリカは日本を外からの脅威から守っているのだから、アメリカから防衛装備品を購入し、中国と対抗する途上国援助の基金をアメリカに提供するのは当然」という発想だ。ペンス副大統領は「日本からの資金提供に感謝する」と明言しているが、安倍首相はその点に関しては国民への詳しい説明を行おうとしていない。これでは、あまりにも「トランプ・ファースト」ではないか。

 何しろ、アメリカ側は「アメリカのいう通りにしなければ、日本からの自動車や部品に25%の関税を上乗せするぞ」と恫喝。とても最大の同盟国に対する物言いとは思えない。経済と安全保障をリンクさせるアメリカの手法は、どこまで通用するのだろうか。トランプ大統領は決まり文句のように「アメリカ経済は順調だ。株式市場も活況を呈しており、雇用も拡大中だ。誰のおかげだ?」と自信満々の様子だ。

 しかし、アメリカの現状は一皮むけば厳しい限りである。たとえば、2018年10月、政府機関の横断的調査作業チームが報告書をまとめ、アメリカと中国の製造業とサプライチェーンの実力を比較したのだが、軍事力の基盤を形成する産業分野でアメリカは中国にかつてないほど依存していることが明らかにされた。衝撃的といえる内容であり、アメリカの軍需産業が直面する300を超える弱点が列挙されている。そのなかでも特筆すべきものは3点に集約できる。これらの弱点を克服するのは容易ではないが、不可能ではないはず。しかも、日本が協力できる分野でもある。以下、そのアメリカの弱点を紹介してみたい。

 第一が、アメリカの製造拠点が海外にアウトソーシングされたために、ボーイングやレイセオンなど主要軍需産業がいずれも部品の安定供給に弱点を抱えていること。2000年以降、この傾向は悪化の一途をたどっており、アメリカ国内の製造基盤は70%以上も減少。集積回路に至っては90%がアジアで製造されており、その内半分以上が中国製である。アメリカ国内の製造メーカーはほぼ壊滅状態だ。その裏には中国企業によるアメリカ企業の買収攻勢があった。ハイテク関連企業の買収に中国はこの10年だけで400億ドルを投入してきた。

 第二に、部品の製造に欠かせない材料の大半を海外に依存しており、とくにレアアースなどは100%を中国からの輸入に頼っていること。これでは、中国から供給をストップされれば、アメリカの軍需産業は即死状態になりかねない。軍需産業に限らず、民間の通信機器メーカーもお手上げ状態になるだろう。

 1981年の時点では、アメリカは国内でアルミニウムを製造しており、世界最大の生産量を誇っていた。世界市場の30%以上を占めていたのだが、2016年になると、わずか3.5%にまで急落。アメリカのアルミ生産量はサウジアラビアより少ないのが現状である。

 第三が、製造や研究開発の分野に欠かせない熟練工やエンジニアが極端に不足しており、外国人に依存する度合いが高まっていること。電子部品から原子力・核関連、そして宇宙分野に至るまで、研究、製造、管理に携われる専門家や技術者が圧倒的に足らないのが今のアメリカの実情である。

(つづく)

<プロフィール>
浜田 和幸 (はまだ・かずゆき)

 国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。16年7月にネット出版した原田翔太氏との共著『未来予見~「未来が見える人」は何をやっているのか?21世紀版知的未来学入門~』(ユナイテッドリンクスジャパン)がアマゾンでベストセラーに。

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