人工知能(AI)はこれからが本来の意味での発展に向かう!(2)
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慶応義塾大学理工学部 教授 栗原 聡 氏
AIを使った機器も電卓と同じ人間がつくりだした技術・道具
現在のAIは、IT技術の延長線上にある「技術」あるいは「道具」と捉えた方がその実体に則しています。道具だからダメだと言っているわけではありません。基本的にテクノロジーというのは私たちをより豊かに、楽に、快適にする技術・道具なのです。
私たちは自分の耳で100m先とか、地球の裏側の声は聞けません。しかし電話を使えばそれが可能になります。電話は耳の能力を拡張する技術・道具です。また、テレビカメラを使えば、私たちはその場にいなくても、国内外の現地模様を見ることができます。テレビカメラは目の能力を拡張する技術・道具です。
私たちは数字を計算することができます。しかし、電卓はその何倍もの速さで、より正確に計算することができます。電卓は計算能力を拡張する技術・道具です。同じように、空港で瞬時に顔を識別するAI(ディープラーニング技術)を使った機器も、人間の認識能力を再現するための有効な技術・道具なのです。しかし、そのようなAIであっても、その起源ははるか遡れば「電卓」といえるのです。
AIが人の職業を奪うという懸念が多く指摘されておりますが、18世紀後半頃の産業革命から現在まで、新しい技術・道具が生み出され、効率化が促進される度に、そこで働いている人が必要なくなることが繰り返し起こってきました。AIに限ったことではありません。事実、自動車工場はオートメーション化されて、人はほとんどいなくなっています。
ところが、AIに関してだけは「人間ならではの知的能力がAIに置き換えられるのは脅威である」というような漠然としたネガティブな考えが蔓延しているのです。
現在のAI(低汎用型)がIT技術の延長線上にあることは間違いありません。しかし、研究開発は、とどまることなく、絶えず未来へ向かっています。そして、今まさに、AIがIT技術の延長線上から飛び出て、自律性・能動性を持つ高汎用型AIに向かいつつあります。つまりAI研究開発は今後、自動から自律に移っていきます。
自律とは、取得したデータを基に推論し、判断し、自ら動きに移せることを意味します。ただし、現在は基礎研究の段階であり、自律性をもち、人のような高い汎用性をもつAIが登場するには、まだかなりの年数が必要なのです。
我々の行動を決めているのは、顕在意識ではなく潜在意識
――なるほど今ちょうど過渡期なのですね。次に、AIと「意識」について教えてください。
栗原 まず、意識は顕在意識と潜在意識の2つのタイプに分けられ、一般に我々が意識と表現する時、それは顕在意識のことを指しています。次に、私は講演などの後のQ&Aで「将来は人工知能も自我や意識をもつようになるのですか?」とよく聞かれます。私の回答は「Yes」です。しかし、それは人が脳において顕在意識を生み出す仕組みを工学的に正確に再構成できる、という意味ではありません。
意識や自我、そして意図があると思えるような感覚を我々が抱くことができるAIは実現が可能であるという意味です。そして、将来的に、自律性をもつAI(高汎用型人工知能)が実現できれば、我々はAIに対して、意識をもつような感覚を抱くに違いないと考えています。
重要なのは、我々の柔軟な判断力や多様な情報からの直接的な行動を生み出しているのは「潜在意識」であるということです。
我々の行動を管理し決めているのは「顕在意識」ではなく、意識化されない「潜在意識」の方なのです。たとえば車を運転中「危ないからブレーキを踏まなければ!」と顕在意識にて意識する前には、すでに潜在意識による脳から足の筋肉への指令が出ているのです。その直後、顕在意識は潜在意識から「危ないからブレーキを踏んだよ」という事後報告を受けるのですが、顕在意識はあたかも自分の意志でブレーキを踏んだと錯覚するのです。
さらに、潜在意識から顕在意識には、極少数の重要な事後報告しか通達されないのです。その証拠に我々は自分の脳がどのようにして無数の筋肉を制御し、ほかの臓器と連携して体を維持しているか、思えば驚くほどまったく意識することができません。親が自分の娘・息子に自転車の乗り方を教えることが容易ではないのがそのよい例です。潜在意識は自転車に乗るために体のさまざまな筋肉を動かしているものの、顕在意識にはそのうちのほんの少しの情報しか伝達されないのです。
(つづく)
【金木 亮憲】<プロフィール>
栗原 聡氏(くりはら・さとし)
慶応義塾大学大学院理工学研究科修了。NTT基礎研究所、大阪大学産業科学研究所、電気通信大学大学院情報理工学研究科などを経て、2018年から慶応義塾大学理工学部教授。博士(工学)。電気通信大学人工知能先端研究センター特任教授。大阪大学産業科学研究所招聘教授、人工知能学会倫理委員会アドバイザーなどを兼任。人工知学会理事・編集長などを歴任。人工知能、ネットワーク科学等の研究に従事。著書として、『社会基盤としての情報通信』(共立出版)、『AI兵器と未来社会』(朝日新書)、翻訳『群知能とデータマイニング』、『スモールワールド』(東京電機大学出版)など多数。関連記事
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