間違いだらけの大学英語入試~経済政策にひた走る文科省!(中)
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国際教育総合文化研究所所長 寺島 隆吉 氏
測る目的が違うテストで成績を比べることはできない
――文科省が、もともと開発目的の異なる7種の試験(ケンブリッジ英語検定、英検、GTEC、IELTS、TEAP、TEAP CBT、TOEFL iBT。TOEICは最終的に参加を取り下げた)を採用したことについては、先生はどのように思われていますか。
寺島 完全にout of the question(問題外)です。大きく3つの問題があります。1つ目は、開発目的の異なる複数のテストを使用して、受験生の選抜や順位づけはできません。たとえば「100m走」「立ち幅跳び」「マラソン」を別々にした3人のうち「誰に一番体力があるか?」を決めるようなものです。
測る目的が違うテストの成績を比べることはできません。このような矛盾点・不合理性を覆い隠そうと、CEFRという本来は趣旨の違う物差しを使って必死に工作してきた様子が、今では週刊誌でも暴露されてきています。
2つ目は、物差しとして使われたCEFRは科学的な正当性が証明された指標ではありません。また英語教育の世界で生まれたものでもありません。CEFRはEU加盟国の人間が国境を越えて自由に交流できるようになったことを反映してつくられたものです。「最低2つの外国語を習得しよう」を合言葉にしていますが、「4技能の習得」を目標に掲げていません。その人が必要な外国語能力、たとえば「読むこと」だけが必要な人は、それでよしとされているのです。
さらにいえば、CEFRの指標自体が「絵に描いた餅」です。CEFRの指標は上から熟練した言語使用者(C1とC2)、自立した言語使用者(B1とB2)、基礎段階の言語使用者(A1とA2)の6つのランクにわかれています。ところが、解説を読んでいただければわかりますが、A1とA2さらにはB1ぐらいまで、その表現にはほとんど差異がありません。しかし、試験の際はランクが違うと10点、20点と大きな差異が出ます。これでは、数学、国語などで、1点を争ってしのぎを削った意味がまったくなくなります。
3つ目は、これも信じられないことですが、各種の試験とCEFRの対応づけを行った作業部会のメンバー8人のうち5人が英検とGTECの幹部職員でした。しかも作業部会の主査は上智大学教授・吉田研作氏で、彼は英検問題TEAPの開発者です。また主査代理の東京外大教授根岸雅史氏および部会員・投野由記夫氏(東京外大教授)はベネッセのHPでGTECの推薦者として名前を連ねています。これほどひどい利益相反はないでしょう。
降って湧いたように英語入試改革が本体の入試改革に合流した
――なぜ文科省は、受験生にとっても、高校・大学にとってもデメリットばかりのこの動きを強引に推進させようとしているのでしょうか。
寺島 もともと、英語民間試験を強力に推進してきたのが経団連や経済同友会といった経済界でした。それが教育産業から多大な献金を受けて問題視されていた下村文科大臣の下で文科省の方針となり、さらに「高大接続システム改革会議」で大学入試が議論の主要テーマになりました。
「高大接続」とは、大学ほぼ全入時代に入った今、多くの学生が大学の授業についていけなくなったので、高校・大学入試・大学の3つが一体となった教育改革を進める必要があるというものです。この会議では、国語などで一部記述式問題を導入することなどをめぐって熱い議論が交わされました。しかし英語試験は、ほとんど議論されていません。
ところが、このシステム改革会議の終了後(2016年3月)それまですべて公開で行われていた会議が文科省のもとで非公開の審議に移行(2016年5月~)しました。それから間もなく、システム改革会議ではほとんど議論がなされなかった「英語試験の民間への丸投げ」が、降って湧いたように、入試改革の全体方針に織り込まれたのです。つまり、きちんとした議論もないまま、あたかも「民間試験の導入」が以前から決まっていたかのように動いたのです。
(つづく)
【金木 亮憲】<プロフィール>
寺島隆吉(てらしま・たかよし)
国際教育総合文化研究所所長。元岐阜大学教育学部教授。1944年生まれ。東京大学教養学部教養学科を卒業。石川県公立高校の英語教諭を経て岐阜大学教養部および教育学部に奉職。岐阜大学在職中にコロンビア大学、カリフォルニア大学バークリー校などの客員研究員。すべての英語学習者をアクティブにする驚異の「寺島メソッド」考案者。英語学、英語教授法などに関する専門書は数十冊におよぶ。また美紀子氏との共訳『アメリカンドリームの終わり――富と権力を集中させる10の原理』『衝突を超えて――9.11後の世界秩序』(日本図書館協会選定図書2003年度)を初めとして多数の翻訳書がある。
寺島美紀子(てらしま・みきこ)
岐阜・朝日大学名誉教授。津田塾大学学芸学部国際関係論学科卒業。東京大学客員研究員、イーロンカレッジ客員研究員(アメリカ、ノースカロライナ州)を歴任。著書として『ロックで読むアメリカ‐翻訳ロック歌詞はこのままでよいか?』(近代文芸社)『Story Of Songの授業』、『英語学力への挑戦‐走り出したら止まらない生徒たち』、『英語授業への挑戦‐見えない学力・見える学力・人間の発達』(以上、三友社出版)『英語「直読理解」への挑戦』(あすなろ社)、ほかにノーム・チョムスキーに関する共訳書など、隆吉氏との共著が多数ある。関連キーワード
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