2024年11月24日( 日 )

ギャンブル依存症は、人間としてのプライドも羞恥心も奪い取る(後)

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大さんのシニアリポート 第84回

 「ギャンブル依存症」は病気であるというのが主流な考え方だ。ギャンブル依存症とは、個人の資質や性格とは無関係に、ドーパミン(dopamine カテコールアミンの1つ。生体内で、アドレナリン・ノルアドレナリンの前駆体。脳の神経細胞の興奮の伝達に重要な働きをする。「スーパー大辞典」)の機能不全が原因で発症する脳の病気のこと。「『やめたい』という意識がありながらもやめられないという時点で、依存症の疑いが強くなります」と(「ギャンブル依存症問題を考える会」代表・田中紀子氏はいう。

 ドーパミンは、「快感や興奮を促すことから『脳内麻薬』といわれる物質で、ギャンブルの刺激によって過剰に分泌されると依存症を引き起こす可能性がある」とも。田中氏は「日本ではまだ自分の意思で何とかなる問題と思われがちだ。(中略)精神論や道徳論で片付けられると相談しにくくなり、問題が長期化してしまう」(「朝日新聞」平成27年5月28日)と述べ、「世界保健機関はギャンブル依存症を治療すべき病気と位置づけており」(同)、だから「(依存症から)立ち直る、更生する」といういいかたを、行政機関の啓発文書に使わないように警告している。

 Aさんの最大の問題は、本人にギャンブル依存症という自覚がないことだ。「やめたくともやめられない」という意識が働いているとは思えない。ただひたすらパチンコをやりたいのだ。

 本来、これは家族が深く関わるべき問題である。本人にギャンブル依存症であることを告げ、病院の心療内科などを受診させる。「ギャンブル依存症に悩む家族の会」などにも相談して解決に向けて家族が結束することだ。しかしAさんに家族はいるらしいのだが、度重なる借金の肩代わりをしたため縁を切られているらしい。

 親を棄てた家族は、親が地域の人たちにいくら迷惑をかけようと家族には無関係と思うだろう。もはや親との関わりをもちたがらない。社協や行政の窓口は、基本本人か家族からの相談なくしては身動きがとれない。私が社協のCSWに相談しても、そこには現実的な限界がある。私にはAさんを救う方法がない状態のまま、6年近くが過ぎようとしている。ほぼ毎日顔を合わせるAさん、Bさん、Cさんである。私の心を締めつける。

 少し古い統計なのだが、「朝日新聞」平成22年11月8日に、「公益財団法人『日本生産性本部』(東京)が15歳以上の男女を対象に調査した結果によると、60歳以上のパチンコ遊技人口(推計値)は過去10年間は200万人~300万人で推移していたが、昨年(平成21年)は急増し、約430万人にのぼった。遊戯人口全体の25%を占めている」「弁護士や司法書士でつくる『依存症問題対策全国会議』(事務所・熊本市)には最近、高齢者の家族からの相談が相次いでいる。(中略)患者数の正確な統計はないが、専門家の間ではパチンコ依存症は全国で100万人以上にのぼると試算されている」とある。

 あれから11年、「射幸心を煽る」という観点から、高確率のパチンコ(パチスロ)の確率が引き下げられ、遊戯人口は確実に低下している。倒産する遊戯店も減ってきていると推測できる。しかし、ギャンブル(主にパチンコ・パチスロ)依存症の数字が減っているとは思えない。確かに、「暇な、時間をもてあましている高齢者」には、実に魅力的な遊戯なのである。

 依存症がつぎ込んだ金額の平均額が1,293万円(平成26年。延べの金額と推測)。中には1億円をつぎ込んでもやめられない重症患者もいるという。父親が依存症の30代の息子を殺害するという事件も起きている。

 「家族や友人をはじめとする暖かい“周囲の目”が不可欠とされている」というが、実際、「個人情報」の問題が壁となり、「ぐるり」の“現実”のように、手をこまねく以外に解決の方法がないのも事実である。「事件を起こさないかぎり、Aさんの解決法はない」と提言されるのなら、いっそ万引きでも、サラ金などからの多重債務、友人への債務不履行により提訴、という“事件”を期待してしまうのは、おかしな話なのでしょうか。

(了)

<プロフィール>
大山眞人(おおやま まひと)

 1944年山形市生まれ。早大卒。出版社勤務の後、ノンフィクション作家。主な著作に、『S病院老人病棟の仲間たち』『取締役宝くじ部長』(文藝春秋)『老いてこそ2人で生きたい』『夢のある「終の棲家」を作りたい』(大和書房)『退学者ゼロ高校 須郷昌徳の「これが教育たい!」』(河出書房新社)『克って勝つー田村亮子を育てた男』(自由現代社)『取締役総務部長 奈良坂龍平』(讀賣新聞社)『悪徳商法』(文春新書)『団地が死んでいく』(平凡社新書)『騙されたがる人たち』(講談社)『親を棄てる子どもたち 新しい「姥捨山」のかたちを求めて』(平凡社新書)など。

(前)

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