「検察崩壊元年」ゴーンの反撃(2)
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ゴーンは保証金15億円の没収を覚悟して、自由な発言の機会を選択した。これは経営者としても不確定事象に対して、一定の鋭い先見性を持つ人間であることを如実に示した。
無罪の判決をなるだけ早期に取得することのほうが、はるかに経済的利得が大きいことを見越したうえでの反撃と理解できる。
日本の法曹と称する人々が黙して語らないのが、再収監の是非である。ここに、日本の人質司法とよばれる刑事裁判実務に対する価値観が集約される。検察官は保釈条件違反即、再収監とする論理に一片の疑いももたないだろう。
しかし被告人に訴訟代理人がつき、訴訟進行に支障がない限り、被告人を収監する必要性はない。裁判が熟して、有罪が宣告される段階および、行刑の段階になって身柄確保が必要となるのだから、それまでは収監の必要性はない。この訴訟進行の予定は実はあらかじめ、被告人弁護人・検察官・裁判所の三者で大方の訴訟進行の予定について事前合意しており、身柄確保の必要な時期も予見可能である。その時点で実際に収監する必要があるかないか「有罪の見込み」を裁判所は判断することになる。
以上のことは、従来の検察官主導のいわゆる人質司法では考えられもしないし、起こりもしなかった。いかにゴーンが刑事法に無知識でありながらも刑事裁判手続での先見の明において凡人の才を超えていたかを示すものである。
なお、犯罪者引渡し条約に基づく引渡し請求は、犯罪被疑者に対して行うもので、被告人に対して行うものではない。被告人に対して、仮に本人尋問が必要となった場合、被告人が証言台で黙秘した場合と同様、帰国して証言しないという姿勢は黙秘権の行使と同じ意味に解釈されることになる。審理の結果、裁判所が判決を宣告する場合は、被告人の在廷が判決言い渡しの必要条件であるから、被告人の在廷を実現するため、裁判所が収監命令を発することになる。ここでも、ゴーンは帰国するかどうかを慎重に判断することになる。有罪の判決が強く予想される場合には帰国しないことも考えられる。そうなると裁判手続は中止を余儀なくされる。
今度は検察・法務省・外務省がゴーンの身柄引き渡しを求めることになるが、レバノンやフランスの世論は日本の刑事司法を人質司法として非難してきた国民が多数いるから、レバノン政府が簡単に身柄引き渡しに応ずるとは考えにくい。検察は強烈なパンチを受けたことに間違いはない。
これらのことをすべて理解したうえでの今回の国外脱出である。ゴーンは裁判の進行状況を見て、適宜、帰国の必要性を判断することになる。明らかに日本の人質司法に対する、周到に考慮された、真っ向からの挑戦に他ならない。
なお、今回の国外脱出について主任弁護士の弘中弁護士は「寝耳に水」と報道陣に答えているが、今回の国外脱出が何らかの違法犯罪行為に該当する可能性は否定できないから、法律の専門家の答えとしては極めて当然の答えである。その意味でもゴーンは優秀な弁護士に恵まれたといえる。
(つづく)
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