【検証】「ゴーン裁判」の行方
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国民は、ゴーンが国外に逃亡し、再び自分の意思では入国しない状況を見て、刑事裁判は開かれないままで終わると思っている。もっともレバノンがゴーンを逮捕して引き渡す可能性はゼロではなく、また、ゴーンがレバノンから出国した時は、行き先の外国で逮捕され、日本に送還される可能性もゼロではない。
そのような事情にある本件刑事裁判は本当はどのように措置されるのだろうか。これは刑事訴訟法の規定に従うしかない。すると、現在の日本で流布している評判は完全な誤りであることがわかる。ウソのような話である。
八代栄輝弁護士・若狭勝弁護士といえば、ほぼ毎日テレビに出演している日本で最も著名な弁護士である。八代氏は裁判官出身で、若狭氏は検察官出身である。日本で裁判官や検察官になるには司法研修所での成績が半分より上位でなければ採用されない。つまり、お2人は成績優秀な法律家である。このお2人がそろってテレビで「ゴーンの裁判は開かれない」と断言していたのであるから、もはや日本ではゴーンの裁判が開かれないということで、すくなくとも世論は固まった。
優秀な弁護士2名の論理
2名の弁護士がそろってゴーンの裁判は開かれないと断言したことは、反面は正しい。ゴーンが出頭する公判は開かれないという意味であれば、ゴーンが国内にいないのだから物理的に開けないため正しい。しかも、刑事訴訟法で公判期日には被告人の出廷が成立要件と定められている。そこで、問題は被告人が出頭できないで、公判が開かれなければ「その後はどうなるのか」ということである。それを刑事訴訟法の条文でいくら探しても見つからない。
つまり、2名の弁護士は「公判は開けない」といったに過ぎず、「裁判は終結した」とは言っていない。「公判が開けない刑事裁判は法的にはどのような運命となるのか」が実は国民の知りたかったことで、現在、公判がひらけないことくらいは刑事訴訟法の条文を知らない凡人でも何となくわかる。ゴーンが逮捕され、送還されてくるまで、裁判所や検察官や弁護士は待ち続けるのだろうか。もちろん、そのような馬鹿なことはしない。裁判を打ち切るか、裁判を進めるしかない。実はこのような状況で裁判を打ち切る法的根拠が存在しない。
2名の弁護士は「刑訴法273条2項により、公判手続きが開けないのであるから、裁判を打ち切るほかないことは自明である」というだろう。
そこで、爺さん(筆者)は2つの質問をする。まず1つは「開けないなら、開けるまで待つのが、刑訴法273条2項他の条文から読み取れます。そもそも開けなくなってから、どのくらい経てば、裁判を打ち切っていいのかの規定もない。打ち切ることを認める規定がなくても(法的根拠なく)勝手にできるのですか」と。
第二の質問として「刑訴273条2項は被告人の出頭が可能なことを前提にした規定だから、出頭が不可能な場合に適用する規定ではないのではないですか。つまり、単に出頭が可能な場合には当然、出頭させる、というにすぎず、出頭不可能な場合には裁判を打ち切るという意味までこの条文から読み取ることはできないのではないですか」と。
この爺さんの疑問の答えは刑訴法273条2項の立法趣旨にある。文言は命令口調なため誰でも出頭は「義務」と理解している。しかし、実際の裁判の公判手続きでは、被告人の在廷がなければ審理手続が進められないということはまったくない。では被告人は何のため法廷にいるのか。ここまでくれば、被告人に在廷してもらって、検察官や裁判官や弁護士が談合して被告人を有罪にしてしまわないように、お目付け役として在廷するのだと理解できるだろう。つまり、日本の刑事訴訟法の文章上の表現では出頭・在廷は義務のように見えるが、実は被告人が直接目で裁判を確認する権利を規定したものである。そうであれば、弁護人が弁論するのだから、裁判の進行にはまったく支障がない。なぜ、裁判を打ち切る必要があるのか、ということになる。
つまり、2名の優秀な弁護士は刑訴法273条2項を被告人の義務規定と理解し、権利規定とは理解しなかった。権利規定であるから、被告人は在廷の利益を放棄したにすぎず、国家は(裁判所は)被告人の刑事責任の有無を明らかにする本来の義務の履行に何ら支障がない。ゴーンは有罪になることから逃げたと批判する人たちは、大歓迎で裁判の進行に賛成する。ゴーンが有罪になるところを見たいに違いない。しかし、なぜか今回だけは、観客と一緒に、検察までもが、「逃げた逃げた」と大騒ぎしている。検察は粛々と有罪の立証を進めればいいのであって、裁判を進行させれば、「逃げた逃げた」という必要もない。
ただ、判決の宣告には被告人の在廷が必須であるから、有罪判決の場合、ゴーンは逃げまくるかもしれない。その時は爺さんも一緒になって「逃げた逃げた」と大騒ぎしたい。
【凡学 一生】
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