2024年11月26日( 火 )

「検察崩壊元年」ゴーンの反撃(8)

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 検察の見立てに合う自白が得られなかったためか、取調後も厳しい接触禁止を強いている。なぜか。恐らく、虚偽誘導が行われた可能性があり、ゴーンと妻が取調の内容を突き合わせると、ほぼ、検察が何も証拠をもたないことが「ばれる」からだろう。

 それ以外に検察が接触禁止を求める理由はない。ゴーンに有利な証言を妻がしたところで「妻の証言は信用できない」と排斥できるが、虚偽誘導したことは妻やゴーンの独立した取調べの経験だから、それ自体の存否の問題だからである。暴露されれば面目を完全に失うこととなる。

 一般庶民には通用した人質司法は、教育を受け、人権感覚をもったゴーンにはまったく通用しない。その実態が現在の状況である。これをしっかりと国民は理解すべきである。しかし、国民にこの実態を伝える役割をはたすメディアが無知無能であることが、人質司法を成立させるもう一方の要素であることも同時に国民は理解しなければならない。

第二の嘘は現在の検察の捜査開始にある

 まず、密出国罪である。これは本犯がゴーンで、共犯(幇助犯)が手助けをした人となる。しかし、これは素人に説明する虚偽の説明である。密出国罪は出国する外国人が入国審査官に出国を申告し、出国審査を受けなければならない(入管法71条。同法25条2項)とする法律に違反する行為であるから、講学上はこれを不作為犯という。

 一般に不作為を幇助する作為行為は観念することができない。理論上は教唆犯が存在するが、ゴーンが誰かの教唆によって密出国罪を決意したとする内容を立証することは、ゴーンの取調べを前提としなければ不可能である。従って、密出国罪の共犯(教唆・幇助犯)の存在を前提とする捜査は現時点ではあり得ない。

 なお、ゴーンの密出国罪はゴーンが正式に出国審査を受けた記録がないのだから、捜査をするまでもなく犯罪の立証はこれ以上必要ない。従って捜査も必要ない。

 次に、犯人蔵匿罪である。これは極めて問題がある。そのため、すでにあるメディアは

 刑法に詳しい弁護士の見解として、匿名の弁護士の解説として、ゴーンの密出国の手助けをした人間は犯人蔵匿罪に該当する可能性がある、と「世論操作」記事を流した。ご丁寧にも

 ゴーンは訴追中の身であるから、判例では「犯人」に該当するとの解説までつけていた。

 可哀そうなことに、この記事を見た、実際にゴーンの国外脱出に、何らかのかたちで関わった何も知らない人々は犯罪者としての訴追の恐怖におののくこととなった。匿名の弁護士が実際に存在したかも問題であるが、こんなデタラメの情報を先に流し、そして検察が捜査を行うのが、日本の検察官司法の実態であることを国民は知るべきである。

 先ず条文を確認する。

第103条
 罰金以上の刑に当たる罪を犯した者又は拘禁中に逃走した者を蔵匿し、又は隠避させた者は、3年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。

 第一に、ゴーン国外脱出事件で問題となる構成要件は「罪をおかした者」の意味である。通例の用法に従って「犯人」と表現する。

 学説は犯人の意義について対立する。それは刑法の存在理由についての価値判断の違いに由来する。国民をなるべく処罰したいと思う人達は「広く」とらえ、刑法を、国民を国家権力から守るための保障機能をもつ法律と考える人達は「狭く」考える。

最狭義の学説 真犯人に限る
 真犯人とは裁判で犯人とされ確定した者や、条理や経験則で、明かに真犯人と判断される者

最広義 捜査中や訴追中の者も含む これが判例である。

 ゴーンは訴追中の者であるから判例に従えば「犯人」となる。

 この説の明らかな重大な欠点は、ゴーンが無罪であった場合に顕在化する。さらに行為者の故意の問題で困難な問題に遭遇する。

 たとえば、ゴーンの被疑事実は有価証券報告書重要事項虚偽記載罪であり、公認会計士でさえ、詳細な会計資料を検討しなければ犯罪行為者とは判断できない。ゴーンを犯人と認識すること自体が困難であるから、一般の人について犯人蔵匿罪の成立する余地はない。そこで、検察・警察は被疑者の故意について事実を捏造することになる。これすなわち冤罪に他ならない。

(つづく)
【凡学 一生】

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