【書評】有森隆著『創業家一族』を読む~かつて日本の創業者は起業家精神が旺盛だった!(前)
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永らく日本はベンチャー不毛の地と言われてきた。インターネットの勃興に合わせて、米国ではGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)が、中国にはBAT(バイドゥ、アリハバ、テンセント)が台頭したが、日本ではこれらに匹敵するIT企業は誕生しなかった。しかし、かつてはそうではなかった。
1万円札の肖像になる渋沢栄一は起業家精神の権化
折しも有森隆著『創業家一族』(エムディーエムコーポレーション刊、税別定価1,800円)が刊行された。帯には「現代トップ企業44社の血縁物語」と謳っている。
かつて日本には起業家精神あふれる創業者がいた。起業家精神とは、新たな事業分野を開拓していてくために必要な発想力や想像力、リスクを恐れない勇敢さ、チャレンジしていく姿勢をいう。
2024年上半期をめどに発行される新1万円札の肖像に採用された渋沢栄一は、多くの会社設立や経営に関わり「資本主義の父」と呼ばれた。生涯で500社近くの会社設立、600の社会事業に関わった。
みずほ銀行、東京日動火災保険、東京証券取引所、王子製紙、東京ガス、東急、キリンホールディングスなど現在も業界を代表している企業が多数ある。
渋沢栄一は「起業家精神」の権化といえる人物だった。
100年に1度といわれるほど、産業構造が大きく転換している今日、起業家精神あふれる創業者の足跡をたどることを、著者は出版の動機としている。
上場ゴールは起業家精神の衰え
現在、「起業家精神」の衰えは拭えない。同書は「まえがき」で、日本を代表する起業家であり、カジュアル衣料「ユニクロ」を運営するファーストリテイリングの柳井正会長兼社長が、「このままでは日本は滅びる」と日本人にハッパをかけるところから書き始めている。
〈最悪ですから、日本は。この30年間、世界は急速に成長しています。日本は世界の最先端の国から、もう中位の国になっています。ひょっとしたら、発展途上国になるんじゃないかと僕は思うんですよ。
国民の所得は伸びず、企業はまだ製造業が優先でしょう。IoTとかAI(人工知能)、ロボティクスが重要だと言っていても、本格的に取り組む企業はほとんどありません。あるとしても、僕らみたいな老人が引っ張るような会社ばかりでしょう。僕らはまだ創業者ですけど、サラリーマンがたらい回して経営者を務める会社が多い。
起業家の多くも上場して引退するから、僕は「日本の起業家は引退興行」と言っています。今、成長しているのは本当の起業家が経営している企業だけです。
結局、この30年間に1つも成長せずに、稼げる人が1人もいない。30年間、負け続けているのに、そのことに気付いていません〉
起業家の資金調達は、かつてと比べると、数段容易になった。投資会社はITやニュービジネスの企業に先行投資する。目標は新規株式公開(IPO)。上場後の株式の売り出しで資金の回収を図るビジネスモデルだ。
本来であれば、起業家にとって新規上場は事業家としてのスタートであるはずだ。自分が立ち上げた事業を開花させる。浮き沈みはあっても、その試練を乗り越えて真の経営者になれる。だが、上場ゴールの起業家があまりにも多い。二束三文の価値しかなかった株式が、上場によって巨万の富をもたらす。一夜にして億万長者に生まれ変わる。荒野に挑む意欲も熱情も喪失する。ユニクロの柳井正氏の言葉を借りれば、「日本の起業家は引退興行」となる。
(つづく)
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