2024年12月19日( 木 )

アベノミクスがもたらす「資本栄えて民滅ぶ」国の未来(3)

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経済学者・評論家 植草 一秀 氏

第2次安倍内閣が発足して丸7年の時間が経過した。企業利益は倍増し、株価は3倍水準に上昇し、メディアがアベノミクス成功とはやし立てるが民の竈の火は燃え尽きる寸前だ。2019年の出生者数は初めて90万人を下回った。民を温める政策に転じなければ日本崩壊は近未来の現実になる。若者が未来に夢と希望をもてない国に、夢と希望の未来は到来しない。

経済全体を映さない株価

 かつて株価は経済を映す鏡と言われた。株価上昇は景気回復の先行指標であり、株価下落は景気後退の先行指標だった。しかし、この関係が崩壊している。第2次安倍内閣が発足してから日経平均株価は約3倍の水準に上昇した。かつての株価と経済の関係が維持されているなら、日本経済には好況の順風が吹き抜けている。ところが、経済成長率は民主党政権時代を超えた超低迷を示している。株価と経済がリンクしていないのだ。

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 2012年末に8,000円の水準にあった日経平均株価が24,000円の水準に上昇してきた推移を示すチャートをご覧いただきたい。株価だけを見ればアベノミクスは大成功したかの錯覚を生み出してしまう。しかし、経済全体と株価がリンクしていない。

 併せて掲載した企業収益推移と見比べていただきたい。この数値は財務省が発表している法人企業統計の当期純利益(全産業・全規模)である。企業利益は2012年度から2017年度までの5年間に2.3倍の水準に激増した。日本経済が超低迷を続けるなかで企業収益だけは突出して激増した。

法人企業当期純利益
法人企業当期純利益
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 株価が大幅上昇したのは2013年と2017年だが、この両年に企業収益が大幅増益を示している。株価変動を引き起こす最大の要因は企業収益である。株式は企業が生み出す利益の配分を受け取る権利であり、企業収益の変化こそ最重要の株価変動要因なのだ。

 消費税が増税され、日本経済が景気後退局面に移行しているのに株価が堅調であるのは不可思議だ。日銀が株を買い支えて官製相場が形成されているとの指摘を聞くことがある。しかし、指摘は情緒的で正鵠を射ていない。経済が低迷しているのに株価が堅調なのは企業収益が堅調を維持しているからだ。実はこの点に安倍内閣経済政策=アベノミクスの神髄がある。

 アベノミクス三本の矢と言われてきた。金融緩和、財政出動、成長戦略である。金融緩和、財政出動はいわゆるマクロ経済政策の基本で目新しいものでない。アベノミクスとして財政出動が提示されたが、その後は2度の消費税増税が象徴するようにブレーキが併用されてきた。金融緩和でインフレ率を2%に引き上げることが公約とされたが、結局、公約は7年経ってもまったく実現していない。この意味でマクロ経済政策運営においてもアベノミクスをプラスに評価できる部分はない。

 そのアベノミクスの核心が成長戦略にある。成長戦略の言葉の響きは良いが、誰の、何の成長であるのかが焦点だ。アベノミクス成長戦略は「大資本利益の」成長戦略なのだ。そのための具体策として、農業自由化、医療自由化、労働規制自由化、法人税減税、特区創設が実施されてきたが、最大の力点が置かれてきたのが労働規制自由化と法人税減税である。

 「働き方改革」という名の「働かせ方改悪」が実施されてきた。長時間残業を合法化し、残業代ゼロ労働制度を拡大した。さらに、求職者が足りない過酷な労働を低賃金で押し付ける労働力としての外国人を大量確保するための入管法改悪も強行された。

 正規から非正規労働へのシフトを加速させ、大資本が労働者を最低の賃金で使い捨てにできる制度の構築に全力が注がれてきた。この成長戦略推進が功を奏して大企業を中心に企業利益が激増した。その裏側が労働者の分配所得減少である。

(つづく)

<プロフィール>
植草 一秀(うえくさ・かずひで)

 1960年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒。大蔵事務官、京都大学助教授、スタンフォード大学フェロー、早稲田大学教授などを経て、現在、スリーネーションズリサーチ(株)代表取締役、オールジャパン平和と共生運営委員。事実無根の冤罪事案による人物破壊工作にひるむことなく言論活動を継続している。経済金融情勢分析を継続するとともに、共生社会実現のための『ガーベラ革命』市民連帯運動、評論活動を展開。政治ブログ&メルマガ「植草一秀の『知られざる真実』」で多数の読者を獲得している。

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