【ベトナム視察記(1)】ベトナムの「光と影」(前)
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経済発展が進むベトナムの「最前線」を体感することを目的に、2月14日から18日の期間、12名でハノイを視察した。一言でいえば、現地・ハノイは新型コロナウイルスに戦々恐々としている。ハノイ近郊の村を封鎖する決断には感服したが、ハノイ市民の生活レベルにおける委縮した様子を目撃すると「長期化したら凄い影響が出る」と強い懸念を抱いた。
新型コロナウイルスの影響~市民の動きが止まる
15日(土)、16日(日)、ハノイの夜の光景を見ようと現地を散策した。しかし、往来の人通りは閑散としている。通常、土曜日の夜は居酒屋にお客さんが群がり、喧々諤々の議論が行われており、ハノイ独特の賑やかな雰囲気を味わうことができるのだが、そんな喧騒がまったくないのだ。
ハノイ市民にとって、憂さ晴らしができない生活が2カ月も続けば、ストレスが溜まるだろうし、体調に変調をきたすことになるだろう。
2018年5月にこの地を訪れた時は、ハノイの夜を堪能できた。屋台に立ち飲み客があふれていた光景を思い出した。何だか「遠い昔の懐かしい記憶」のようになっている。1年8カ月前と比べると賑わいが10%程度にまで落ち込んでいるのには驚愕した。今の状態があと2カ月も続くと経済面でも、かなりの打撃を受けることが懸念される。
ハロン湾観光にも打撃
ハロン湾のリゾート拠点まで、ハノイ空港から車を利用すれば、3時間以内(150km)で行ける。高速道路開通のおかげである。この1年8カ月もの間にリゾートホテルが仰天する程、たくさん建てられている。しかし中は「スカスカ」。営業していないところも目立つ。近々、倒産が相次ぐのではないか!
まずは観光客の姿がない。1990年代にハロン湾は世界遺産に指定された。それから観光の拠点になるまでに、かなりの時間を要した。「ハロン湾観光ブーム」到来の貢献者は韓国人観光客である。
ハロン湾に韓国人観光客、そして中国からの観光客が押し寄せるブームとなった。一方、日本におけるハロン湾の観光ブームは、この10年ほどだろう。だが近年、日本でのブームに陰りが見えはじめた。ダナンなどに本格的なリゾート地が建設され、ベトナムでの日本人観光客は「南へ南へ」と移動を始めたようである。さらに、ここにきて主力の中国人観光客の流入がストップとなれば、ハロン湾の観光業は全滅するのでは、という懸念も残る。
しかし、それほど懸念する必要もないかもしれない。なぜなら、ベトナム人自営業者は、商魂たくましいからである。
3時間のハロン湾クルーズ船の船旅を楽しんだ。それぞれの船は持ち主(オーナー)が家族ぐるみで船の運営をする。家族は船中で生活を行っている。船内で提供されたおもてなしの料理も、ベトナムの家庭料理で非常においしかった。一時的な売上不振には十分に耐えられるだろう。
ハノイ市民の怒り~ホテルオーナーは役人
ハノイ市在住のハイさん(仮名)は41歳。妻と子ども2人の4人家族。同氏はベトナムの日本語学校で日本語を学んだ。日本への留学経歴はないが、独学でマスターしたという。
ハイさんは、上の子どもを日本に留学させる計画があるそうだが、塾の受講料が高い。現在、生活費が月に100,000円ほどかかっているが、自宅は持ち家なので、どうにか暮らしを維持できているという。
しかし、生活は非常に苦しく、かなり不満を募らせている。ハイさんは2つの仕事をこなしながら、「なんとかして子どもたちを進学させよう」と頑張っている。奥さんと共稼ぎで、なんとか生計を立てている状態である。
そこで驚くべき話を聞いた。ホーチミン中心部にある5つ星ホテルは内装もフランス風のつくりで、なかなか繁盛している模様。ハイさんがいうには「このホテルは政府要人の持ち物です。民間人がこんな中心部に土地を所有することはできません。持ち主の役人は、賄賂をため込んで、莫大な資産を築きました。その資金で政府中枢の要人たちに画策して、不動産を取得。5つ星ホテルを建てたのです」と教えてくれた。
ベトナム労働党(現・ベトナム共産党)は、フランスやアメリカの侵略に対して徹底的に交戦、勝利した「すごい民族政党」というイメージが定着していたと思っていた。だが、「東南アジアでは、どこにでもある賄賂がまかり通っている」と知って驚いた。そして、ホテルオーナーになれるほど大金持ちになる役人が現れていることに驚愕を覚えた。それだけベトナムの経済力が向上したという証明ではあるが――。
今考えてみると、中国共産党も「市場経済」と叫びながら、幹部たちは国の財産を略奪して、事業拡大の基盤になる利権を得た。賄賂というものは、中国の歴史上における政治、文化風土である。この中国の習慣を真似したのがベトナムの労働党幹部、役人たちだ。決してベトナム労働党が政権を取って賄賂が横行したわけではない。「賄賂の歴史は2000年続いている」という事実に対し、市民たちは諦観している。
(つづく)
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