2024年11月16日( 土 )

″かせぐまちづくり″、理想論ではない本気の地方創生とは~フィールド・フロー(株)

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 「やりたい、必要とわかっていても、実際に本気で活動していない、または成立していない現状がある」とフィールド・フロー(株)の代表取締役・渋谷健氏は、2月に都内で行われた第2回かせぐまちづくりフォーラムで訴えた。

机上の空論であり続けた地方創生

 バブル崩壊後、一度落ち着いた都心回帰は再発し、人口密集化を基に国内の経済は、ますます大都市に集中している。多くの大手企業が本社を東京や大阪など大都市圏に移し、またIT業界などに多くみられるベンチャー企業も競って大都市に拠点を設けることで、経済の都市圏集中化に歯止めがきかない現状がある。これと同時に危惧されてきたのが地方経済の衰退だ。

 地方創生、もしくは地方再生という言葉は、この現状を打破するために生まれ、行政、企業、もしくは自治体などでたびたび唱えられてきた。一方で、理想論であったり、危機感を募らせるだけの机上の空論で終えること、実施するも目的を達成しないことも多々ある。「言うは易く行うは難し」の典型的な事案ともいえる地方創生、この難題をの事業脚本家として実践、結果を出してきた同社の活動の一部を紹介する。

“かせぐまちづくり”とは

 マサチューセッツ工科大学のC・オットー・シャーマー博士が提唱するU理論や、ハーバード大学のロバート・キーガン教授の提唱する成人発達理論など世界的なビジネスの先進的研究機関が進めるオープン・イノベーション関連の研究をベースとする。「何か行動を起こした方がよい」という危惧にとどまらない実践性と理論がベースとなっている。渋谷氏は、この日本各地で実体としては成果を生み出さない、形骸的に「やっているふり」をするBAD PDCA(図1参照)が多くの組織で常習化していると警鐘を鳴らす。

【図1】
※クリックで拡大

 この負の連鎖の現状を打破するには、行政、民間企業、個人の力のどれをとっても単体では不可能だ。また、協力するといっても、うわべだけでは意味がない、目的を達成するための「建設的なビジネスモデル」ともいえるプラットフォームを構築し、継続した地域活性を実現しなければならない。とは、民間事業の活性化を通じ、地域課題解決と価値創出を持続的に推進するモデル(図2参照)だ。同モデルは、北九州市(コワーキングスペース秘密基地)、宮崎県(スポーツ・ヘルスケアビジネス創出)、長野県(信州ITコラボレーションプラットフォーム)など実績を残してきた。

【図2】
※クリックで拡大

 図を見てわかるように、同モデルでは「地域をけん引する民間事業」を中心に人財、金融、市場などの相互作用によって成立している。このモデルの実践課題として、同氏は事業体の現状と目指すべき段階・社会評価を明確にする必要性を説いている。黎明段階から卓越段階まで5段階に分け、それぞれの段階の獲得すべき社会評価などを切り分けて説明した。フィールド・フローは、現状を把握するためのBAD PDCA簡易チェック、事業成長評価チェックシート(体験版:事業発達診断 ver2020.01.10)などを提供することでより現状のみえる化をフォローする体制を整えている。

現状の把握と実践(現)性が重要

 フォーラムでは、実践事例として日本ユニシス(株)の市原潤氏『長野実践事例NICOLLAP:地域共創ラボの取り組み×善光寺~ひとから始まる地域イノベーション~』、AJS(株)の飯塚洋平氏『宮崎実践事例:宮崎県スポーツヘルスケア産業創出への取り組み~食×健康による足元からのローカル・ブランディング』、多摩大学情報社会学研究所の教授・主任研究員、会津泉氏『大分実践事例:愛³ふれ愛(AI)のあるITあいらんど 姫島~モビリティ×デザインの地域づくり』の3講演が行われ、の実践内容を紹介。

 フォーラムにはさまざまな業種の民間企業、国土交通省などの行政機関や各大学から参加者が集い、それぞれの立場からディスカッションを行った。

 民間企業の地方創生を担当する参加者は「他人任せだけではなく、自らが行動を起こす必要性を強く感じた。また、行動を起こす人の周りに追随する意識の高い人を集めていけるかどうか、課題として向き合わなければならない」と述べた。また、国土交通省国土政策局の参加者は「民間企業は利益を出すプロ。本気で地方創生を目指すなら、地域、民間、行政のトライアングルによる相乗効果が必須で、このような機会を非常に有意義に感じている」と手ごたえを感じているようだった。

 同社は、まとめとして主に以下の3つのことをあげている。(1)は地域経済をデザインし、そのうえで必然のモデル。(2)重要なことは地域において参謀役となるローカルコンシェルジュの立ち上げ。(3)地域外に対する発信と、地域の事業者の成長を「できること」から実践する。

 冒頭に述べたように都心への人口密集化は、人口減少と少子高齢化によってますます加速化するだろう。これにともない、地方の経済衰退は助長され、いずれは創生が不可能な事態に陥る事例も出てくるかもしれない、いや、もしかしたらすでに出ているだろう。そして地方の衰退は必ず、私たちの生活にもいつかは影響をおよぼすことは必須だ。私たちは、すでに「必要性を訴えるステージ」を越えて「実践しなければならない」ステージにあることを、自覚しなければならない。

【麓 由哉】

<プロフィール>
渋谷 健(しぶや・たけし)

 外資系コンサルティングファーム、国内ベンチャー、国内大手企業経営戦略室を経て2014年にフィールド・フロー(株)を設立。「事業に脚本を」をコンセプトに、戦略立案からシステム開発や人財育成までを総合的に提供するオープン・イノベーション実践活動を全国展開。経済産業省・農林水産省などの政策事業、北九州市・宮崎県などの地方創生事業、大企業・金融・ベンチャーなどの民間事業に、プロの事業プロデューサー/ファシリテーターとして関わる。

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