超高齢社会における医療課題は「フレイル対策」 介入手段は薬物療法から栄養療法へ(2)
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令和元年度の高齢社会白書によれば、総人口に占める65歳以上人口の割合(高齢化率)は28.0%、75歳以上人口は65〜74歳人口を上回る1,798万人となり、総人口に占める割合は14.2%となった。2065年には約2.6人に1人が65歳以上、約3.9人に1人が75歳以上になると推計されている。超高齢社会における医療課題はそのまま高齢者医療であり、とくに地域医療では認知症、サルコペニア(筋肉減少症)などにつながるフレイル対策が大きな課題となっている。
寝たきり防止に定期的な検査を
高齢になると油っこいものや肉料理を避け、野菜や魚中心の食生活になる傾向がある。「こうした食生活を続けていると、知らず知らずのうちに低栄養に陥る場合がある」と指摘するのは、日本栄養士会理事の西村一弘氏。西村氏は7年程前の病院勤務時代に、隣接する老健施設に入所してくる75歳以上の高齢者118名の栄養状態を調べたところ、低栄養が疑われる人は7割に上ったという。入所者への聞き取り調査では、認知症による食べ忘れなどで栄養失調になるケースや、嚥下機能や咀嚼機能が落ちて、限られたものしか食べられない人が多いことがわかった。
低栄養かどうかを調べる手法には身体計測と血液生化学検査がある。身体測定では、BMIや皮下脂肪厚などを測定して貯蔵エネルギーや身体機能を推測することができる。生化学検査では、血清アルブミン、トランスサイレチン、トランスフェリンなどの値を指標にする。血清アルブミンは栄養状態の指標として広く用いられるが、ほかの疾患などさまざまな因子の影響で変動しやすく、また、半減期が約21日と長いため、急性疾患患者の栄養状態をみる場合は適切な指標とはならない。このため医療施設では、半減期が3~10日と短いトランスサイレチンやトランスフェリンの値を指標にする場合が多い。
ここで問題になるのは施設によって検査体制が異なる点だ。一般病床では、平成22年度の診療報酬改定で「栄養サポートチーム加算」が新設され、栄養障がいの患者に対し、栄養療法を行った場合に点数が加算されることになったこともあり、栄養療法を行う施設が急増している。これに対し、高齢者が多いにもかかわらず、算定要件を満たさない療養病床は、栄養療法の導入が遅れており、その結果、体重測定を定期的に実施しても生化学検査は入所時に行うだけという施設がほとんど。西村氏は、「寝たきりにさせないためにも療養病床でも定期的に検査する体制を早急に整備すべきだ」と指摘する。
栄養補助食品で栄養素を補給
加齢にともなう身体の変化を察知するには身体機能を観察することも重要となる。唾液の分泌量が減少していれば口内の糖質消化が不十分になり胃に負担がかかる。胃液の分泌量が減っていればカルシウム、鉄分などの消化吸収力が低下し、消化不良や下痢を起こしやすくなる。これらの状態に応じてさまざまな高齢者食品が開発されているが、利用者本人の判断で選ぶことは不可能に近い。
「免疫力が落ちているのか、筋肉量や筋力が低下しているのか、それとも骨が弱まり骨折しやすくなっているのか。この辺を見極めながら管理栄養士が利用者に合った濃厚流動食品を選ぶことが重要になる」(西村氏)。
高齢者の低栄養傾向の1つの指標となるBMI20以下の人の割合は、1975年は3割程度で、それ以降は減少傾向にあったが、2000年あたりからその傾向が鈍り、05年以降はほぼ横ばいになっている。医療の世話にならず、自立して過ごせる健康寿命を延ばすためには低栄養対策が不可欠となる。しかし、医療現場での栄養指導は、過剰摂取のリスクに目が向けられ、下限値の基準についてはほとんど議論されていない状況にある。高齢期を元気に過ごすための栄養指導の在り方を見直す必要があるだろう。
一方、予防策として高齢者食品を提供する製造者側は、食材の組み合せ、おいしさ、調理方法などの開発段階の課題、そして利用者側に立った流通の在り方など改善すべき課題は多い。また、いくら健康に良いといっても長年の習慣で身に付いた食生活パターンを転換することは難しい。それ自体がストレスになることもある。タンパク質や炭水化物は普段の食事でしっかり摂るように心がけるとともに、微量栄養素などは栄養補助食品で補給することも1つの選択肢といえそうだ。
(つづく)
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