レトロ30周年と新施設誕生へ 北九州・門司港エリア(中)

歴史的建築物を活用し
市を代表する観光拠点に

 門司港エリアに転機が訪れたのは、1980年代後半になってからだった。前述のように朽ちゆく過去の遺産として残されていた洋風建築群だったが、そのうち、旧門司三井倶楽部(当時の門鉄会館)や旧大阪商船(当時の商船三井ビル)、旧門司税関に解体の危機が迫ったのだ。これらの建造物については、文化的な価値は見出されていたものの、保存・活用するだけの財政的な余裕が北九州市にもなかったからだ。

 そうしたなか、東京の一極集中から生まれる地域間格差の広がりを是正するため、地域の知恵と発想を生かした取り組みを国が支援し、「ふるさと」としての創生を後押しするために、自治省が「ふるさとづくり特別対策事業」を創設。これに手を挙げたのが当時の北九州市長・末吉興一氏だった。ちょうど1988年に門司港駅が国の重要文化財に指定されたことを機に、洋風建築保存・活用の気運が本格化。こうして末吉市長が中心となって、歴史的建造物を生かしたまちづくりの構想が動き出したのだ。

 88年12月には、「門司港レトロめぐり・海峡めぐり推進事業」基本計画として、①「歴史的建造物保存活用事業」、②「レトロめぐり事業」、③「海峡めぐり事業」、④「観光施設整備事業」が自治省により「ふるさとづくり特別対策事業」として正式承認。また、「北九州市ルネッサンス構想」の「緑とウォーターフロントを生かした快適居住都市づくり」を目指す都市像としても位置付けられた。こうして朽ちゆく洋風建築群を保存・活用するかたちで「門司港レトロ」の整備が開始された。整備にあたっては、運輸省の歴史的港湾環境創造事業を利用した旧門司税関の復元、第一船溜まり出入口の跳ね橋「ブルーウィングもじ」などの西海岸地区緑地整備事業、友好都市大連市の旧東清鉄道事務所を複製した国際友好記念図書館の建設も進められ、総事業費約300億円が投入された。そして95年3月、「門司港レトロ」はついにグランドオープンを迎えることになった。

 その後、97年から07年にかけては、門司港レトロ第2期事業を実施。九州鉄道記念館や海峡ドラマシップ(関門海峡ミュージアム)など、新しい観光施設、宿泊施設、商業施設も次々オープンしていった。また、かつて門司築港が建設した門司港・外浜を通る線路には貨物列車が走っていたが、05年10月に営業休止。その後、トロッコ列車イベント開催などを経て、09年4月に平成筑豊鉄道門司港レトロ観光線のトロッコ列車「潮風号」が走るようになった。また、ハード面の整備だけでなく、「焼きカレー」をご当地グルメとしてブランディングし、多くの飲食店が競い合うことで食の魅力を確立。海峡フェスタや花火大会、カウントダウンなどの各種イベント開催も行い、ソフト面の戦略も奏功していった。

 こうして「門司港レトロ」は、単なる「古い建物の保存」だけではなく、「街全体のテーマパーク化」に成功した。グランドオープンの95年に約107万人だった観光客数は、最盛期の03年ごろには約255万人まで増加し、その後はやや落ち込みながらも安定的に推移。コロナ禍などで落ち込んだものの、24年は約238.4万人と最盛期に迫る勢いで回復してきており、北九州市を代表する観光地として定着している。

30周年を機に「まちのエンタメ化」へ

 その門司港レトロは25年3月、グランドオープンから30周年を迎えた。門司港レトロではこの30周年を機に、関門連携を一層強化することで、「海峡を楽しむまち“門司港レトロ”」をテーマに、まち全体をさらに魅力的なエンターテインメント空間へとアップデートさせていく旨を発表。国内外からより多くの人々を惹きつけ、世界へ開く新たなゲートウェイとして進化していく方針だ。

 たとえば25年度の取り組みとしては、関門エリアに国内外のドラマなどを誘致することで、ファンのロケ地めぐりや推し活を促進する「関門ロケツーリズム」や、乾杯をテーマにした年越しイベント「KANMON KANPAI」、ノーフォーク広場に設置された九州最北端の記念碑と本州最西端の記念碑(下関市毘沙の鼻)を踏破すると記念証が交付される「関門二極踏破 九州最北端×本州最西端」、関門エリアの歴史スポットを謎解きでめぐる「関門歴史謎解きゲーム」などが行われている。

 さらに、門司港を舞台とした人気小説シリーズ「コンビニ兄弟」(町田そのこ著)とのタイアップによる企画展および聖地巡礼セルフツアーの開催や、「レトロ朝マルシェ」「レトロナイトシネマ」などのほか、新浜地区にある倉庫群を学びと創造のミューラルアート(壁画)空間とする「門司港ミューラルアートプロジェクト」の開催など、30周年を記念したさまざまな特別イベントが開催されている。

門司港ミューラルアートプロジェクト
門司港ミューラルアートプロジェクト

 「グランドオープンから30周年を迎えた門司港レトロですが、おかげさまで多くの観光客の方々に訪れていただける、北九州市を代表する観光地となることができています。日本遺産にも選ばれたノスタルジックな建築群や、レトロで落ち着いた街並み、焼きカレーなどの名物グルメなど、ノスタルジックな雰囲気を満喫できるのが門司港レトロの魅力ですが、その一方で、さまざまな観光資源がコンパクトに集約されていることもあって、かねてより滞在時間が短いという課題も抱えています。その課題解決のために、30周年を機として、今後は“まちのエンタメ化”をコンセプトとした取り組みを進めていく方針です。たとえば、街歩きツアーの開催やイベント時の商店街への出店誘導など、地元商店街との連携を図っていくことは不可欠ですし、少々離れていますが、関門海峡を臨む『和布刈(めかり)公園』への動線も考えています。さらには、対岸の下関市との連携も強化していかなければなりません。観光の恩恵を門司港エリア全体に波及させていくためにも、これまでの“点”であった観光資源をリンクして“線”や“面”での観光を促進すべく、中心部から周辺へと人の流れをつくる試みを進めていきます」(北九州市都市ブランド創造局観光にぎわい部・門司港レトロ課)。

駅前の旧JR九州本社ビル
公募で民間活用へ

 さらに北九州市では30周年を機とした取り組みの1つとして、「旧JR九州本社ビル」の有効活用を図る事業者の選定にかかる公募を25年9月に開始した。

 旧JR九州本社ビルはJR門司港駅の駅前に立地しており、建物はSRC造・地上6階・地下1階建で、延床面積は5,635.45m2。1937年に三井物産の門司支店として竣工した建物で、門司港レトロ中心地区に立地し、門司港レトロ地区が交易の要所であったことを現在に伝える構成資産である。戦後になって国鉄に売却され、1987年の国鉄民営化後は九州旅客鉄道(株)(JR九州)の本社として、01年3月まで使用されていた。その後、解体される予定だったものの、門司港レトロの構成資産の1つとして、05年12月に北九州市が市有地との等価交換で同ビルの土地・建物を取得。以降は北九州市による暫定的な活用にとどまっていた。

旧JR九州本社ビル
旧JR九州本社ビル

 今回、門司港レトロ中心地区の賑わい創出に向けた市の取り組みの1つとして、民間事業者のもつ経験やノウハウを最大限生かし、門司港エリアの活性化や同ビルの最大価値化を図るために、提案内容と価格の両方を審査する公募型プロポーザルにより、事業者の選定を実施する。公募にあたっては、門司港レトロ地区の観光にぎわいの創出に資する施設とするほか、現状有姿での売却を前提としており、本体躯体等に係る必要な改修工事は事業者負担。さらに原則として、建物の解体は認めず、特徴的な外観を形成する意匠の変更は認めないという条件が課されている。また、住宅としての活用のほか、全床を事務所・オフィス(観光賑わいの醸成に支障がない範囲なら可)としての活用は禁止されている。最低売却価格は9,306万5,263円(土地:8,134万7,368円、建物:1,065万2,632円、消費税(建物):106万5,263円)で、応募は25年12月24日ですでに締め切られている。26年2月のプレゼンテーション・ヒアリング審査を経て、3月に優先交渉権者が決定される予定。

 「すでに公募は締め切りましたが、少なくとも数社からのご提案をいただいています。現状での売却ですし、解体や意匠変更が認められておらず、用途も制限されていますが、駅前一等地という立地を生かし、門司港レトロ全体に賑わいをもたらしてくれるような提案を期待しています」(前出・市門司港レトロ課)。

(つづく)

【坂田憲治】

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