2024年12月26日( 木 )

シリーズ・コロナ革命(13)~微妙なバランスのもとで「繁栄」が成り立っていたと知る

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落ち込みが半端ではない

 200人以上収容できる、ある大型飲食店での話である。「どのくらい売上が減ったの?」と従業員さんに聞いたところ「20%です」との回答だったので、不思議に思いつつも、「20%減で良かったね」と答えたら「いや80%減です」と相手の言い方が変わった。「やはりな」と予想はしていたものの愕然とした。月商2,000万円あった飲食ビルの店長は「2月は1,000万円と半減しました。3月はさらに減るでしょう」と覚悟を決めたかのような表情で語る。

 ビジネスホテルのオーナーの顔が引きつっている。「昨年末まで、宿泊率はほぼ100%でした。2月末の会議では3月予想を60%という見通しを立てましたが、現在の流れでは60%を割る覚悟をするのが必要でしょう。これまで経験したことがない急減です。日々刻々と周囲の方々の悲壮感、焦燥感が高まっていくのが伝わってきます」と語る。大型ホテルはさらに深刻な状況のようである。「ホテル用地はないか!」と飛んで回った不動産仲介屋の「オヤジ」はいまや意気消沈。「もうホテルブームは去った。いまからホテル淘汰時代になる」と掌を返す。

 中国人ツアーを組む旅行会社の会長は「4月までは休業。社員たちには自宅待機を命じている。5月いっぱいは給料を支給できる」と鷹揚に答える。しこたま儲けていたのだろう。ただ内心では新規事業を起こす準備をしていると読んだ。

 まとめてみると(1)売上高50%以上のダウン。落ち込みが半端ではない。(2)4月末くらいの短期間で終息せず、長期化する。(3)倒産、廃業が続出する、これらの事態を確実に予想できる。

 ただ、やり方次第で売上の急落を10~20%に食い止めている店もある。その1例が福岡市中央区警固にある店である。席数25で営業時間午後6時~翌朝3時まで年中無休。

 同店の強みは(1)手づくりの家族料理でありながら、食材に新鮮味がある(2)メニューのアイデアが斬新で、メインの客層である女性たちが「わぁおいしい、この料理を勉強しよう」と感動の声を挙げている(3)団体客に頼っていない(4)客筋がサラリーマン、中洲帰りの人々、家族連れと多岐にわたっている(5)4,000円、5,000円のコースを用意するなど価格帯がリーズナブルなこと。これらによって、現在、売上高10%減で踏み止まっている。

わが身に厄災が降りかかってきて本質を知る

 3月6日、あるホテルの社長が突然、営業マンを同行し、訪ねてきた。「いやぁ、事務所とロビーをウロウロしていてもストレスが溜まるばかりです。こういう非常事態の時こそ、お客さま訪問をすることが大切だと決断し、一番目に御社にやってきました」と挨拶された。「一番目」と名指しされると気分が良い。「すばらしい選択をされました。経営者の生の意見を聞かれると間違いなくさまざまなヒントが得られると思います」と答え、率直な意見を伝えた。

 話を要約しよう。(1)昨年末から1月にかけては、まずまず無難に推移してきた。「2020年もまずまず良い年になるな」という感触を得たスタート(2)1月20日過ぎ、新型コロナウイルス関連の報道などを耳にするようになったが、当初は「関係ないな」と高をくくっていた(3)ところが、風向きが変わってきたのは1月末あたりから。2月10日当たりから予約キャンセルが相次ぎ、宿泊客数が減ってきて、「これは大事になる」と危機感を抱き始めた。

 最終的に得た結論は「わが身に厄災が振りかからないと本質を掴めないことだ」となる。

 安倍政権が誕生してアベノミクスの効果が表れだした。景気が良くなれば企業もホテルを使ってくれ、宿泊数も増える。それをさらに後押ししたのがインバウンドの急増。そのおかげで業績が向上する。3期も続けばそれが当然となり、「永続化するのは自然の法則」という確信を抱くようになってしまう。やがて「どうして景気が持続できているのか、はたしていつまで続くのか、危機要因はないのか」という思考を放棄してしまうようになる。

 ところが突然、コロナウイルスが世界で蔓延するようになる。まずはインバウンド往来の封鎖、国内に患者が発生すると「自粛自粛」の声が高まる。一挙に日本全体に「自粛・自制」が充満するようになり、学会を筆頭にキャンセルが相次ぐ。ホテルの売上は日々、急落傾向をたどるようになり、「はたしてホテル経営を守り通すことが可能なのか」という根源的な思索を始める。

 今まで政治のことに関心をもたないようにしてきた。しかし、「突然の小中高の一斉休校決定はおかしくないか。そこまでやる必要があるのか」と疑問を持ち始めた。それとともに新聞、テレビの専門家による見解に関心を持ち始めたことで持論が固まってきた。「安倍さんに我が国の難局を託していると、陥没するのではないか!!」という疑念が湧き上がってきた。「コロナウイルスの跋扈という危機的状況のインパクトが万民を本質思考に走らせることになれば万々歳」となる。

微妙なバランスが連鎖的に崩れる現実

 3月8日、湯布院の丘に立つ。思えば2018年の盆休み、この地を訪れた。昔は少なくとも年に2回は宿泊していて、当時は金鱗湖までの通りは若者たちであふれていた。観光客のうち、40%はインバウンドで占められていたのではないか!この当時、湯布院はインバウンドにとって「九州の軽井沢」として九州一のブランドを誇っていただろう。「もう我々世代の夫婦が訪れる場所ではない」と一泊だけして帰った(3泊の予定だった…)。

 8日の湯布院は朝方から天気が好転し、太陽が大地を燦々と照らすすばらしい天候だった。しかし、人通りは皆無。地元観光業界の牽引者の1人は弱気な発言。「今回のコロナウイルス騒動は過去との比較においてケタ違いの打撃を与えている。まずは長期化するおそれ、加えることインバウンド回復の見通しが立たないこと」と語る。湯布院にはかなりのホテル投資がなされている。訪問者数が激減すれば倒産する業者も続出するのでは、という感触を得た。

 湯布院でも痛感したことは「グローバル化の虚しさ」である。「グルーバル化が世界の流れ」というのが常識化した時代となっていた(一見)。ところが現実は「グルーバル化の足元では鎖国の処置がとられ始めた」である。いまや鎖国戦争に突入しだしたといえる。日韓関係だけではない。アメリカが本気になって入国禁止策を導入すれば、一夜にして封鎖合戦となる。原因は「コロナウイルスの拡大阻止」である。根底には「我が国ファースト」思想がある。

 コロナウイルスのおかげで現代の世界の骨格は「我が国が一番大事、我が個人優先」主義で成立していることが判明した。この100年の歴史を鑑みても何ら変化がなかったのである。日本国を中心において日本人とインバウンド渡航総数が5,000万人を超えていてもだ。たがコロナウイルスの攻撃を受けることによって本性が丸見えとなった。誰もが本当に相互繁栄、ビジネスが活況を呈するのは微妙なバランスがあってこそ成立するものと認識しただろう。

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