24時間365日診療で目指す、まっとうで患者さん本位の歯科医療(中)~医療法人社団博文会
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「コンビニより多い」と表現されることもある国内の歯科医院。歯科医師数は飽和状態にあり、顧客を獲得できないまま廃院するクリニックや年収300万円以下の「ワーキングプア」歯科医の存在もメディアなどで取り上げられるようになった。口コミサイトが普及し、治療技術とともにサービス内容が厳しく評価されるそんな現代に、「24時間365日診療」を掲げて快進撃を続ける歯科グループがある。陣頭に立つ理事長の波乱万丈の人生は、一篇の物語のようだ。
■歯科医師会との闘い
開業してすぐに自院は軌道に乗り、年商2億円を達成すると今度は、歯科医師業界がしばられるあらゆる自主規制や不文律に反発するようになる。
平野 最初は素朴な疑問が始まりだったんです。24時間やっている医院があるのに、なんで歯科はやってないんだろう、と。それで福岡の救急センターなどに電話して「歯が痛いけど、診てくれますか」って聞いてみると、どこも取り合ってくれない。これでは大人はなんとか我慢できても子どもさんを持つご家庭は困ってしまう。
それと、おそらく頭のどこかに「業界に一石投じたい」という気持ちが渦を巻いていたと思うんですね。歯科医師業界は守られているというか、変化を許さないというか、そんな風潮がありますから。クリニックを開けるにしても日曜日はだめ、ユニット(歯科治療用の椅子)は3台までしか置けないとか。深夜診療とか日曜祝日診療を始めたときも歯科医師会から毎月呼びつけられて露骨に怒られたんですよ。そもそも入会のときも、私は親きょうだいが歯科医じゃなかったので1年間は入会させてくれなかった。
――業界団体として、既得権益を守ることに偏りがちになっている。
平野 やっていられないですよ。私には「ユニットは3台まで」と言い放ったくせに、力をもった先生のところは平気で7台も8台も置いているんですから(笑)。それで、自院の経営がうまくいったこともあって、東京や大阪、博多で勝負しようと。それには24時間365日診療だと考えたわけです。
■歯科医院はサービス業であるべき
――患者さんの反応はいかがですか。
平野 幸いなことに、すごく感謝されますね。歯の痛みは我慢できないので、始めた当初はわざわざ熊本から夜に車を走らせて来られた患者さんもいらっしゃいました。ただし、24時間365日診療というのは、その性質上どうしてもクレームも多くなるんです。つまり、患者さんにはだいたい主治医さんがいますので、患者さんに十分説明したうえで抜歯しても、後から主治医さんに「あの歯は抜く必要なかったのに」って言われたら患者さんもその気になってしまう。我々にしてみれば、「それだったら主治医さんが24時間対応してくれよ」と思いますが、これはしかたないことかもしれません。
――1つの院で何人くらいの患者さんを診ているのですか。
平野 1日平均で150人、多いときで180人くらいはいらっしゃいますね。患者さんが多い時間帯は仕事終わりの夕方から夜にかけて。深夜帯の患者さんは、開業して10年くらいは一桁だったんですよ。深夜帯はトラブルも多くて大変でした。保険証をもっていなかったり、ガラの悪い人間だったり、あるいはお酒が入って酔っぱらっていたり……。それで一度深夜帯はやめたんですが、やっぱり必要だと再開して10年目くらいにやっと二桁台になって、コンスタントに患者さんが来るようになった。いまは12時から朝9時までに20人から30人くらいを診ています。
――歯医者の数が多くなって、歯科クリニックはコンビニより多い、ということも言われ始めています。一部の歯科医は年収300万円に満たない「ワーキングプア」化しているという指摘も。
平野 診療技術は当然ですが、歯科医院は今後いっそうサービス業としての自覚をもたなければ生き残れない時代になると思います。そういう意味では美容院などと同じだと、私は考えています。当院は割増料金をいっさい取りませんし、保険診療を基本にしている。とにかく患者さんに喜んでいただけることを目指して国内でどこにもない歯科医院を追求し、サービスに徹しているという自負はありますね。
■「開業がゴール」になりがちな歯科医
――経営的には成功といえる状態でしょうか。
平野 経営状態は良好です。売上は5年くらい前までずっと右肩上がりにきて、7億2,000万までいき、それから少し落ち着いてまた盛り返しています。歯科医院の売上や経営状態はレセプト枚数で判断するのですが、開業すると月間レセプト200枚を目標にするわけです。200枚になったらある程度続けていけるという基準になる。うちはレセプト枚数がずっと増え続けていて、今年1月は2,400枚に達しました。レセプトは診療報酬の基準になるもので、患者さんを1人診て1枚なので2,400人の患者さんに来ていただいたということです。普通の医院の10倍程度にはなるでしょう。
当院で勤務している歯科医師は非常勤も入れると14人くらい。医院の経営に疲れたから、雇われ医のほうが気楽だという歯科医もいらっしゃいますよ。治療は好きだが従業員の雇用や教育がストレスなんだ、と(笑)。結局、教育の問題なんです。治療のしかたは大学で教えてくれますが、医院経営についてはまったく教えてくれませんから。
歯科医を雇うとき、面接で「あなたの目標はなんですか?」と聞くと、「開業したい」と答える方が多いんです。それで私はこう返す。「開業は誰でもできますよ。親がお金持ちか、銀行が貸してくれれば誰でもできる。でも、30年維持するのが難しいんですよ」と。そうすると「いや、私は儲からなくてもいいんだ」とおっしゃる。そこで私が畳みかけるんです。「儲からなくていいって、あなたはどういう状況を想像しています? 車は軽自動車でいいの? アパート住まいでも大丈夫?」って。そうしたら「ベンツかせめてレクサスには乗りたい。最低でもマンションには住みたい」。それも「できれば広めのマンションが良い」とね(笑)。
そこでようやく現実を教えてあげるんです。「いまおっしゃった条件、全部足したらいくらになると思いますか? 逆算したら最低でも年収1,000万以上は欲しいわけでしょ。税金と社会保険を引かれたらこれだけしか残らない。どうします? せっかく開業してもすぐに潰れてしまいますよ」と。
残念ながらほとんどの歯科医師は開業を目標にしてはいても経営のことをほとんど考えていない。売上あたりの何割が残るのかという発想がまったくないんです。
――経営については、事務長に任せるのが主流でしょうか。
平野 人柄の良い事務長ならいいが、知人でも事務長とグルになったコンサルにひっかかって、「先生は治療に専念してください。私たちがお金をひっぱってきますから」で潰された人がたくさんいます。この世界も甘くはないですよ。やはり院長自身が経営面、数字も含めてみられないとだめです。
(つづく)
<プロフィール>
医療法人社団 博文会 平野博文 理事長
1963年福岡県生まれ。九州歯科技工専門学校卒業、福岡歯科大学卒業、歯学博士。1993年ひらの歯科・小児歯科医院開業。1996年、医療法人社団博文会設立。2000年5月、福岡空港そばに24時間急患受付の空港口24時間歯科・小児歯科医院開業。2001年8月、香椎スポーツガーデン歯科医院を開業、現在に至る。関連記事
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