「中医学」と「感染症」、それは闘争と共存の歴史である!(4)
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米ジョンズ・ホプキンズ大学の集計によると、新型コロナウイルスによる世界全体の死者は4月13日現在で約11万4千人。国別では米国の死者が、スペイン、イタリアを上回り2万2千人と世界最多となった。米国は感染者数も約55万7千人で最多である。これは、中国全土の感染者約8万2160人、死者約3341人の約7倍に相当する。
今回の「新型コロナウイルス」騒動を中医学ではどのように見るのか。(社)日本統合医療学園 理事長・学長の吉村吉博薬学博士に聞いた。吉村先生は研究・教育そして臨床のかたわら、中医学の伝道師として年間100回を超える講演を行う。また感染症研究の世界的機関「米疾病対策センター」(CDC)での研究経験がある。(社)日本統合医療学園 理事長・学長 吉村 吉博 氏
中医学は「邪正闘争」におけるバランスを考えています
――先生は常々何か起こった時に右往左往するのではなく、日頃から「生活習慣『生活養生』」を改善して、免疫を高める食事『医食同源』(『薬食同源』が正しい)、適度な運動、睡眠をとる+『心の養生』」が重要と言われます。その観点からアドバイスを頂けますか。
吉村 読者の皆さまは、新型コロナ対策の予防法を毎日耳にタコができるぐらい聞かされていると思います。「手の消毒をする」「マスクをつける」「3密(密閉・密集・密接)を避ける」などです。
私はこの中で、マスクによる新型コロナ感染の予防には、やや疑問を感じています。サージカルマスクは直径5μm以上(主に医療現場で使われているN95マスクは0.3µm以上)の粒子を除去するとされてます。しかし、現在分かっている情報では、新型コロナウイルスは0.1μm程度の大きさ(細菌は約1μm)であるため、飛沫感染の観点からはほとんど効果がありません。ただし、マスクは手からの鼻周辺への接触を防ぎ、のどを潤すことから全く意味がないわけではありません。
現代医学(西洋医学)は新型コロナをいかに死滅させるか、また感染した場合は体からウイルスをいかに追い出すかということに重きを置いています。それに対して中医学は、養生学から派生した学問です。養生学とは、「自分の健康は自分で作る」というセルフメディケーションの考え方です。病気になったらどうするかではなく、病気にならないようにするために、自分で自分の身体をどう管理するかです。
現代医学では、菌やウイルスを「敵か味方か」、「善玉か悪玉か」という捉え方しかしません。一方、中医学は物事をマクロ的にとらえ「邪正闘争」(二元論)のバランスを考えています。身体の免疫(正気)とウイルス(邪気)とのバランスが崩れたときに病気は発症し、邪気があっても正気が強ければ病気は発症しないという考え方です。例えば、私たちのお腹には100兆以上の個性豊かな腸内細菌たちが住み着き、私たちが健康に暮らしていくお手伝いをしてくれています。つまり、共生しています。菌は善いこともすれば、悪いこともします。あくまでもそのバランスが大事なのです。そのためには何よりも1次予防すなわち生活の養生が大事です。新型コロナに打ち勝つための養生は、新型コロナに特化したものではありません。
すなわち、精神(ストレスにより免疫が低下)、食事(腸内フローラの活性化を促す発酵食品・水溶性食物線維などが推奨)、運動(NK細胞をアップさせる)、睡眠(休養は免疫を賦活させる)、規則正しい生活などの「日々の養生」が重要なのです。私は今新型コロナ対策で運動やコミュニケーションが制限されて、逆に免疫が低下してしまうことを懸念しています。政府も「散歩」は奨励しています。不要不急でなくても、近くを散歩し、公園などに出かけてリラックスすることは大切です。空気感染はしませんので、井戸端会議をやらなければ問題はありません。
さらに家庭内ではたくさん会話をし、友だちとは電話やオンラインミーティングで構いませんので、頻繁にコミュニケーションをとることなどをお薦め致します。
最近は「ドメスティック・バイオレンス(DV)」の加速度的な増加が新聞でも話題になっています。また、私が相談を受けた知人の娘さんもそうですが、精神的に弱い方は、家に閉じこもって新型コロナのニュースを聞くだけで心臓がドキドキされる方も増えています。これでは、逆に免疫力が大きく下がってしまいますので「邪正闘争」に負けてしまいます。
お茶(特に緑茶)をこまめに少しずつ飲むこともお薦めです
――本日は、とても有益なお話を有難うございました。最後に、読者の明日にメッセージを頂けますか。
吉村 新型コロナの対策としては、前述した精神、食事、運動、休養、生活習慣の一次予防が大事です。毎日毎日新型コロナのニュースで国民の恐怖心を煽っているため精神的に「コロナ過敏症」なっている方が多いです。そのため、時には新型コロナのニュースには耳を傾けないで過ごすことも大事です。自分の好きな趣味や運動などを行い、友人・知人などに電話で連絡して楽しい会話をすることも重要です。
外出時には、板藍根(ばんらんこん)のエキスや板藍根の喉飴(漢方薬局で販売)を用いることもお薦めです。板藍根は中国でSARSの流行時にも用いられ、大きな効果を発揮したものです。またガムを噛むことによっても唾液が出て、抗菌、抗ウイルス効果をもたらすばかりでなく、咽(ウイルスの多くは喉に入ります)の乾燥を防ぎます。
かぜの予防と同様にお茶(特に緑茶)をこまめに少しずつ飲むこともお薦めです。帰宅したときには、手洗い後にアルコールによる消毒が有効です。アルコールは手ばかりなく、目をつぶって、口や鼻にもやさしく噴霧するのも効果的です(目には“禁忌”なので注意)。調理器具やドアノブの消毒には、最も殺菌効果が高い次亜塩素酸(HClO)(5%のハイターをキャップ1杯5mLに500mL水で希釈して0.05%とする)を用いてください(手の消毒には臭いが残るので“禁忌”)。最後に繰り返しになりますが、新型コロナ対策においても、私が常々申し上げている「予防は最大の治療なり」が生きています。
(了)
【金木 亮憲】
【中医学】数千年という長い歴史に裏付けられた、中医薬学理論と臨床経験に基づく中国伝統医学、いわゆる「中国漢方」のことを言い、「日本漢方」とは一線を隔している。日本漢方は中国からの影響は『傷寒論・金匱要略(張仲景)』(414年)の時代(レベル)で止まり、鎖国を経て、現代医学(西洋医学)の影響も一部では受けながら、今日まで独自の道を歩んできた。
【証(しょう)】中医学の治療指針となるべくもので、西洋医学で言うところの病名(診断名)に相当するものである。一般的に証は弁証といわれる、脈診、問診、触診などから導き出され、病の状態を現す。中医学では、この方法によって導き出された証に基づき鍼灸・漢方薬の治療方針を決定する。からだが病気とどんな闘い方をしているかをみて、その時のからだの状態(体質、体力、抵抗力、症状の現れ方などの個人差)などの観点から診断する。
<プロフィール>
吉村吉博氏(よしむら・よしひろ)
日本統合医療学園学長、星薬科大学大学院博士課程修了、星薬科大学助教授、日本薬科大学漢方薬学科教授、アメリカ合衆国疾病対策センター(CDC)にて研究、漢方吉村薬局顧問、東京農業大学・東京家政大学・星薬科大学非常勤講師。
著書として『中医漢方医学の基礎』、『中医漢方医学の生薬と処方』、『中医漢方医学の治療と症例』、『予防は最大の治療なり』、『登録販売者攻略テキスト』、『登録販売者根底300題』(以上、日本統合医療学園)『基礎薬学(必須講座薬剤師国家試験対策)』(日本工業技術連盟)、『分析化学〈2〉』(南江堂)、『わかりやすい機器分析化学』(広川書店)他多数。メディア出演として「発掘あるある大辞典」(フジテレビ系)、読売新聞、日刊ゲンダイ他多数。関連キーワード
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