コロナで変わる世界、今後の鉄道の在り方は~JR九州初代社長・石井幸孝氏に聞く(中)
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現在、世界中で猛威を振るっている新型コロナウイルス。何よりの脅威はその感染力の高さで、感染拡大防止には人と人との接触を遮断せざるを得ず、外出自粛や店舗の休業要請などで多方面に影響をおよぼしている。そのなかで、人の往来が減ったことで減便対応を余儀なくされるなど、本来のポテンシャルを発揮できない状態に陥っているのが、鉄道を始めとした公共交通機関だ。今回のコロナを契機に、鉄道の在り方はどうなっていくのか――。九州旅客鉄道(株)(JR九州)の初代社長を務めた石井幸孝氏に聞いた。
新幹線を利用した貨物輸送
――新型コロナの影響を機にこれまでの習慣が変わっていくことで、旅客需要の減少が進んでいくというわけですね。
石井 その通りです。しかも一方では、日本の人口はすでに減少局面に入っており、その減り具合は想像以上に急速です。今の日本の総人口は約1億2,600万人だそうですが、これがあと30年後には1億人を割り込んでしまうという予測も出ています。そうすると、やはり基礎需要というものが減ってくることになりますから、公共交通機関なども、それを前提とした戦略を練っていく必要があります。
私が約2年前に「人口減少と鉄道」という本を書かせていただきましたが、そこで強調させていただいたのは、これから人口減少が進んでいくなかで、「旅客輸送に対する需要が減っていきますよ」ということです。鉄道会社も企業ですから、経営の観点からモノを考えていかなければなりません。今ある鉄道資産というものは、非常に膨大なものです。それが、今までと同じような使い方をしていたのでは、減っていく需要に対して供給過多になってしまい、持て余してしまいます。それではあまりにもったいない。
その一方で、物流需要のほうは、今後とも増えていくでしょう。ネット通販などが増えていますが、いくらIT化が進んでも、ネット回線や電気で物は運べません。結局のところ何かしらのかたちで、物理的に物を運ぶ必要があります。加えて、人が減ることによる人材不足でのドライバーの確保の問題や、道路上のキャパシティの問題などもあります。
こうして、旅客需要が減る一方で物流需要が増えていくことを考えると、今はトラックが主流になっている長距離輸送において、鉄道利用の価値が見直されてくるでしょう。何といっても鉄道であれば、少ない人員で大量の貨物をスピーディに運べるなど、とくに長距離輸送の面では有利ですから。
そうすると、長距離・高速移動が特徴の新幹線も、減少する旅客輸送にだけ固執するのではなく、「物流新幹線」というものをもっと真剣に考えなければいけない方向にあるのではないでしょうか。トラックに比べても、既存の在来線を利用した鉄道貨物に比べても、輸送にかかる時間は3分の1くらいに圧縮されますし、容量にもまだまだ余裕があります。先ほどの私の著書のなかでも、今後の人口減に対応するための物流新幹線の必要性を主張してきましたが、今回のコロナの問題で、その機運は前倒しになってきているようにも思います。
――新幹線を貨物輸送で利用するというのは、とても良いアイデアだと思います。
石井 今、長距離のトラック輸送などは、急激に増加する需要に対してドライバーの確保などが追い付かず、非常に危機的な状況にあるわけです。なので、長距離輸送は新幹線に任せて、トラックは近距離輸送に集中するなど、それぞれの持ち味をうまく組み合わせた方式にしていかなければなりません。
日本国内の需要は、旅客も貨物も共通していえることですが、小さくなっていくパイを道路と鉄道、航空機、船舶などで奪い合い、過度な競争を行っていくのではなく、それぞれが得意な分野というものを重んじながら、お互いに連携プレーをして、トータルで安いコストで、国家・国民のためのサービスを提供していく。そのように考えていかなければならないと思いますし、そういう時代がもう来始めているのではないでしょうか。
(つづく)
【坂田 憲治】
<プロフィール>
石井 幸孝(いしい・よしたか)
1932年10月、広島県呉市生まれ。55年3月に東京大学工学部機械工学科を卒業後、同年4月に国鉄に入社。蒸気機関車の補修などを担当し、59年からはディーゼル車両担当技師を務めた。85年、常務理事・首都圏本部長に就任し、国鉄分割・民営化に携わる。86年、九州総局長を経て、翌87年に発足した九州旅客鉄道(株)(JR九州)の初代代表取締役社長に就任。多角経営に取り組み、民間企業となったJR九州を軌道に乗せた。2002年に同社会長を退任。近著に「人口減少と鉄道」(18年3月発刊/朝日新書)。関連キーワード
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