【医療ベンチャー】核酸医薬で新型コロナの治療薬開発 久留米市の「ボナック」~福岡県が支援
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次世代医薬品とされる核酸医薬を手がけるバイオ医薬ベンチャーの「ボナック」(久留米市)と福岡県が、核酸医薬による新型コロナウイルス感染症治療薬の開発に着手した。製薬メーカーへの技術導出を前提に2022年4月の治験開始を目指す。
ワクチンより早く治療投入も
核酸医薬は、DNA(デオキシリボ核酸)やRNA(リボ核酸)といった遺伝情報をつかさどる物質「核酸」が基本になる薬物で、遺伝子発現を介さず(タンパク質を合成せず)直接生体に作用する。開発に成功すると、別の新しいウイルス感染症が発生した際も、既存の核酸医薬品の核酸配列を変更して治療に使える。ワクチンやほかの技術による薬に比べ、短期間で治療に投入できる。
新型コロナウイルスは一本鎖のRNAウイルスで、RNAがタンパク質の殻で覆われている。ヒトの細胞に侵入すると、ウイルスはRNAの複製を繰り返しながら増殖する。同社が人工合成する一本鎖の長鎖RNAは、ウイルスの複数標的に作用できる。作用標的が1つになるとみられる短鎖RNAより、ウイルスの機能発現を抑えやすいという。
作用機序は、RNA干渉技術で合成したRNAが、新型コロナウイルスのRNA遺伝子配列の一部に結合して遺伝子を分解して増殖を抑える。遺伝子配列の一部と結合する50程度の薬候補化合物(人工核酸)を設計、合成を終えている。
今後、薬候補化合物の有効性や安全性を評価する「in vitro」(イン・ビトロ=試験管内)の実験を先行させ、その後並行しながら動物実験を進める計画だ。社広報担当によると、動物実験は外注し、サルを用いる。委託会社は夏から秋の間に決める。
肺に直接作用する「吸入剤」を想定
「in vitro」の実験では、実際に新型コロナウイルスを取り扱うため、福岡県保健環境研究所(太宰府市)が協力する。同研究所は、細菌やウイルスを安全に取り扱う実験施設の分類(バイオセーフティレベル)が上から2番目のレベル3の施設をもち、福岡市と北九州市を除く、福岡県の全58市町村の新型コロナウイルス感染の有無を判定するPCR検査を実施している。ここに薬候補化合物を持ち込み、同社と同研究所の研究員が共同で抗ウイルス作用を評価する。福岡県は同社と共同研究覚書を結んでおり、施設使用とは別に3,000万円の研究開発費も助成する。
動物実験では安全性と効果を確認しながら薬候補化合物を絞り込み、21年中に治療薬の原薬を完成させ、同社と提携する大手化学メーカーの住友化学(東京都中央区)に薬原液の製造を委託する。治療薬は肺に直接作用する吸入剤を想定しており、薬創出後は製造技術を製薬会社に導出し、共同で臨床試験(治験)を進める。同社広報は、「当社が新型コロナウイルス感染症の治療薬を販売する可能性もあるが、資金や流通を考えるとパートナー企業にお願いすることになるだろう」と話している。
核酸医薬を新型コロナ感染症の治療薬とする試みは、国内では日本新薬(京都市)も意向を表明、20年度中に薬候補化合物を設計、合成するとしている。
ボナックは、大阪市の林化成の子会社。福岡県と久留米市が進める「福岡バイオバレープロジェクト」に呼応して、久留米市で2010年2月に創業。住友化学、富士フィルム、東レといった大手が出資する。欧米で主流の二本鎖短鎖核酸より壊れにくく、核酸合成のプロセスを1回で済ませる一本鎖の長鎖RNAの開発に成功、世界的に注目されるベンチャーに成長した。東レに技術導出した肺の難病「特発性肺線維症」の治療に用いる核酸医薬品は、米国で18年7月から第Ⅰ相臨床試験を続けており、間もなく終了する段階だという。
【日本医学ジャーナリスト協会/南里 秀之】
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