新型コロナ後の世界~「石油・エネルギー」の行方を考察!(4)
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(有)エナジー・ジオポリティクス代表取締役 渋谷 祐 氏
4月20日、ニューヨーク原油市場の指標となる「WTI」(ウエスト・テキサス・インターミディエート)5月物の先物価格が前週末の1バレル18ドル台から、マイナス37.63ドルに大暴落した。史上初のマイナス価格が世界を震撼させた。急落の原因は、新型コロナウイルスの感染拡大が「パンデミック」になり、世界経済が急減速したこと、それに輪をかけて、OPECとロシアなど「OPECプラス」産油国の協調減産体制が崩壊したことにある。その後、一時1バレル30ドルまで持ち直すなどしているが、先行きには不透明感が漂う。渋谷 祐 (有)エナジー・ジオポリティクス代表取締役・(一社)中国研究所 21世紀シルクロード研究会 代表に聞いた。
IT技術革新と複合化した「エネルギー転換革命」
――読者へのメッセージをお願いします。
渋谷 現在、サウジアラビアなどOPEC諸国は非OPECのロシアらと協定を結び、生産基準を調整しています(「OPECプラス」24カ国カルテル)。その協定に入っていないのがアメリカ産のシェールオイルです。アメリカは伝統的に生産価格カルテルが嫌いです。6月の「OPECプラス」大臣会議に注目していますが、双方は、現行の減産枠(日量970万バレルの減産)の延長に合意し、1バレル40ドル以上の実現を目標にして行くことで決まった模様です。
日本は99.7%の原油を輸入に依存している国です。私が現役時代は、石油連盟の加入会社は30数社ありましたが、時代も変わり、現在は合併吸収などでその3分の1程度しかありません。残念ながら石油産業のウエイトが低下したことを示しています。
今回の新型コロナ危機で、日本の第5次エネルギー基本計画(2018年7月閣議決定)の内容に大きな変化があるかどうかについて注目しています。6月に公表された経産省の『資源エネルギー白書2020年版』では、「災害・地政学リスクを踏まえたエネルギーシステムの強靭化」の重要性を強調しています。新型コロナにおける移動制限や都市封鎖などの事態はグローバルな燃料のサプライチェーンに大きな影響を与えました。
新型コロナの収束後、往時のレベルの市場活動が世界でいつ、どのように戻るのかについては、多くの懸念事項があります。自国だけが新型コロナ危機を解決するのではなく、パンデミックを終息させる必要があるでしょう。
また、新型コロナ危機に関して忘れてはならないことは、現在は時代の境目であるということです。世界の政治、経済、社会、文化、そして科学や哲学に至るまで、あらゆる分野で古典的な思考・行動パターンが変わっていくのではないかと考えています。石油・エネルギーのセクターもその例外ではなく、新しいグローバリズムの動きが始まっています。同時に、中東や米中関係などの地政学リスクが高止まりしているリアル世界のことも考えなければならないと思います。
新型コロナの影響はとてつもなく大きいと思います。過去に経験した「石油ショック」の時以上に何か異質な「ショック」を感じています。私は石油の専門家として約50年になりますが、今回ほど「石油の一滴の重みが落ちた」と感じたことはありません。グローバリズムを支えた「石油の世紀」の離別を実感しています。これからは地産地消型のローカリズムの世紀に転回するのではないでしょうか。スマートシティを実現する太陽光発電や風力発電などエコ・エネルギーの普及が加速化しています。IT技術革新と複合化した「エネルギー転換革命」の時代が到来しています。
(了)
【金木 亮憲】
<プロフィール>
渋谷 祐(しぶたに・ゆう)
1942年兵庫県西宮市生。慶応義塾大学商学部卒。石油連盟入局(外国調査部、68年)、外務省入省、中近東2課配属、75年-78年、在クウェート日本大使館書記官(UAE、バーレンおよびカタール大使館書記官兼務)、北極石油(株)調査役(82年-84年、カナダ石油開発プロジェクト)、ジェトロ・ロンドン石油資源部長(88年-92年)、石油連盟環境保全課長、広報課長、外国調査部次長など(92-96年)、中東経済研究所主任研究員(2003年)、アジア・太平洋エネルギーフォーラム設立幹事・研究主幹(1996年-2003年)、早稲田大学大学院アジア太平洋研究科特別研究員(06~12年)、早稲田大学総合研究機構中華経済研究所招聘研究員(10~14年)。
現職として、(有)エナジー・ジオポリティクス設立代表(03年6月~)、MECインターナショナル・シニアコンサルタント(英国、07年~)、早稲田大学資源戦略研究所事務局長兼主任研究員(12年7月~)、(一社)中国研究所所員(11年~、21世紀シルクロード研究会世話人代表)、ウインザー・エネルギーグループ(英国、グローバルエネルギー地政学)およびキヤノングローバル戦略研究所北東アジア研究会メンバーなどを務める。関連記事
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