2024年11月23日( 土 )

この世界、どうなる?(4)中国は「日本化」すべし

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広嗣まさし(作家)

 中国の過ちは「アメリカをやつけてやろう」と焦ったところにある。コロナウィルスに足元をすくわれても、なお世界における自国の存在を誇示しようとし、大失敗。今ではアメリカの人種差別を叩くのが、せいぜいのところだ。これで汚名挽回できるなどとは、まさか共産党でも思うまい。墓穴を掘るとは、このこと。

 アメリカの欠点は世界中に露呈している。「とんでもない国だ」とは、誰しもが思う。ところが中国となると、その欠点が何なのか、内情を知らないかぎり見えづらい。そこで、「その見えづらさこそが欠点だ」ということになる。自国の欠点をできるだけ隠そうとしてきた共産党政府。彼らが真実を隠したい相手は諸外国ではなく、自国の民だ。

 民主主義は混乱を招き、人を迷わせる。その意味で「不都合」なシステムである。しかし、混乱をひた隠しにし、「私たちの国はすべてうまく行っています」と嘘をつく必要がない分、気楽である。一方、中国のような国は、「混乱があってはいけない」という前提に立っているため、政府は国民に絶えず嘘をつかなくてはならないのだ。中国のテレビニュースは「嘘だらけ」、とはよく耳にするところである。「良いこと」ばかり報道するニュースなんて、ニュースではない。

 混乱の抑圧は生命の原理に反する。生命は混沌から秩序へ、秩序から混沌への循環である。となると、混沌を認めない体制は長く生きられない。やがて大混乱がやってくる。
 では、中国、もうダメなのか? 外野席から勝手をいうならば、「日本を真似ろ」である。中国は「日本化」を進めるべきなのだ。

 そんなバカな、と意外に思う人もあろうが、中国の近代化は日本抜きに考えられない。「共産党」の一語をとっても、西洋から入った概念の日本語訳をそのまま拝借しているではないか。いくら日本で漢字が使われているからといって、西洋概念を移入するのに日本で造成された熟語で済ませるとは、省エネにすぎる。西洋のことを学びたければ、西洋から直接学ぶのが当然なのに、明治以降日本にきた中国人留学生は、主に「西洋」を学んだのである。

 というわけで、「日本化」は中国近代化の正道なのだが、そのことを認めたがらない人が多い。おまけに、中国は日本とちがって社会主義を採用したではないか、というのである。しかし、どうだろう。たとえば中国には、台湾のようになる道もあったのである。台湾は国土は小さいが、中国にとって、「なれたかもしれない」もう1人の自分なのである。そのような台湾であればこそ、放ってはおけない。

 こんなことをいうと、「お前は時代錯誤のナショナリストだ」とお叱りを受けそうだが、私に言わせれば、中国人が思っている以上に、否、日本人が思っている以上に、中国は土台から日本志向である。中国人の多くが日本旅行を楽しみにしているという事実の裏には、中国政府の意向が反映されていることに、なぜ皆気づかないのだろう。中国は国を挙げて「日本化」したいのに。

 彼らの思う「日本」もまた、幻想にはちがいない。自分たちが失った中国がそこにある、という幻想だ。現在の中国は帝国主義の道を歩んでいるように見えるが、そこにも「日本化」が覗かれる。二度にわたるペリー来航による鎖国の終焉、その後の不平等条約。そうした一連の屈辱が太平洋戦争につながったとするならば、アヘン戦争の屈辱がいまの中国をして、力づくでも香港を奪還しようという気持ちにさせている、と見てもよいではないか。

 長大な文明を誇る中国が、過去の恥辱をぬぐい去るには、どうしても欧米にひと泡吹かせねばなるまい。その気持ちはとてもよくわかるのだが、方法を間違えれば「元も子も」なくなる。近代日本史とは、まさに方法を間違えた反欧米イデオロギーの歴史だ。

 私にすれば、中国は戦後日本の歩んだ道を学んでほしい。すでに「日本化」の道を歩んできたのだから、同じ「日本化」でも戦後日本の、なんとも不鮮明な「脱イデオロギー化」を見ならってほしいのである。過去のイデオロギーにとらわれず、実利に徹する。これを実現できれば、本当の意味で中国は生まれ変わる。

 そのような方向を択ることは、中国にとって決して新しいことではない。すでに鄧小平が、それを実現したではないか。国を悪い方にしか導かない権力争いをほどほどにして、もっと実務に徹し、なにが国にとって、国民にとって有利なのか、それを最優先してほしいのだ。

 過去のイデオロギーといえば、「中華思想」もその1つである。「中華思想」は日本における「神国思想」と同じで、国民を奮い立たせるようでいて、実体がない。そんなものにすがるよりは、毎日の生活を安定させるべく、こつこつといい仕事をする心構えを育てたいのである。「日本化」を目指すなら、もっとも有利な「日本化」を徹底させるべきだ。

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