緊張高まる朝鮮半島~金与正の目論む北朝鮮ビジネスの可能性(中)
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国際政治経済学者 浜田 和幸 氏
朝鮮半島では南北の対立が急速に激化している。韓国で活動する脱北者団体が北朝鮮に向けて飛ばした金正恩体制を批判するビラや救援物資を積んだ風船に猛反発した北朝鮮は開城にある「融和の象徴」南北共同連絡事務所を爆破するという強硬手段に打って出た。さらには、韓国との国境線における軍の配備や訓練の再開を始めるとも宣言した。
コロナ禍に付け込んだサイバー攻撃
金与正は兄と同じ時期スイスの国際学校に中学まで通っており、偽名を使いながら、1990年代には海外での自由な生活を楽しんでいた。その後、北朝鮮に帰国し、学業を続けるのだが、当時の同級生たちによると、「彼女は真面目な性格で、人あたりがとても良かった」とのこと。しかも、「しょっちゅう赤い洋服を着ていた」という。
要は、「目立つ存在だが、皆から好かれれる存在でもあった」というわけだ。父親もそんな娘の成長を期待していたわけで、外国の指導者との面談の際に娘の自慢をよくしたという。現在32歳で3歳の息子の母親とのことだが、その一挙手一投足が世界の注目を集めている。兄妹支配体制が形成されているとすれば、当然の流れであろう。
金正恩と違い、どうやら金与正は神経が細かい。これまでも常に金正恩の背後に控え、陰ながら支えてきた。裏方として兄の仕事を観察してきたわけで、彼女なりの新たな政策は過去の駆け引き外交とは一線を画す可能性が高い。たとえば、北朝鮮の得意とするサイバー攻撃にも変化が見られる。これまではソニーピクチャーズのサイトをマヒさせ、バングラディシュの銀行から現金や仮想通貨を強奪するような「強硬手段」が一般的だった。ところが、金与正の作戦は違うようだ。
どう違うか。それは現在、世界を大混乱に陥れている新型コロナウイルスを巧みに利用していることからも推察される。北朝鮮のサイバー部隊はこれまでも世界中を荒らしまわってきたが、この6月に入ってからの攻撃スタイルは従来とは大いに異なってきた。シンガポールの経団連に当たるビジネス評議会の会員企業8000社をはじめ、インド、韓国、アメリカ、イギリス、そして日本の大企業や中小企業経営者を標的にしてフィッシング攻撃を繰り出しているからだ。
しかも、その手口は新型コロナウイルスによって発した損失を国が補てんしようとしている状況を逆手にとって、各国の政府機関を装い、「追加の経済支援を受け取れるための必要な手続き」と称して、各企業の個別情報を入力させるという手法が採られているいるから驚く。事態を重く受け止め、日本の経産省も警戒を呼び掛けているが、企業サイドは政府からの追加の支援というエサに釣られる可能性もある。いずれにせよ、こうした国際的な緊急事態に付け込んだサイバー攻撃は金与正の指導によるものと思われる。
巨大なマグマの活動が活発化
さらに、彼女が狙っている新たな攻撃分野は自然災害をビジネスチャンスに転換させようとする新機軸である。なぜなら、朝鮮半島に限らずアジア太平洋全域で大きな地殻変動という危機が迫っているからだ。
何かといえば、中国、ロシア、北朝鮮の国境地帯における巨大な火山噴火の可能性である。それは黒龍江省に位置する「五大連池火山帯」を構成する尾(ウェイ)山の地下にある2つの巨大なマグマの活動が活発化していることだ。尾山が前回、噴火したのは今から50万年以上前の話。
そこで中国の地球物理学の専門家チームが現地で100カ所以上の調査を繰り返すことになった。そして、地下8kmと15kmの2カ所でマグマの膨張が確認されたのである。高度なセンサーを使い、地下の深層部における地殻変動の異常現象をつぶさに研究した結果、「このまま地殻変動が続けば、巨大噴火につながる可能性が高い」との結論に至ったという。
実は、尾山は死火山と見なされてきた。そのため、地震学者や地球物理学者の間では、尾山の南に位置する北朝鮮の聖地、白頭山の噴火活動の可能性の方に関心が集中していた。白頭山は946年に大爆発を起こしており、「人類歴史上の最大の噴火」として記録されている。当時、日本にも大量の火山灰が飛来し、農業は壊滅的な被害を受けた。
白頭山の噴火の予兆は以前から確認されており、中国の主導の下、北朝鮮も韓国も、その監視には共同戦線を張ってきた。日本政府も気象衛星を飛ばし、空からその動きを追っている。ところが、今回の中国科学技術大学の調査チームの分析で、白頭山と尾山が地下で連動している可能性が判明したのである。いずれにせよ、2つの火山は地下でつながっており、両方が同時に噴火することになれば、朝鮮半島はいうにおよばず、日本列島も数時間で大量の火山灰に覆われることは避けられないだろう。
こうした点を踏まえ、金与正の率いる北朝鮮は中国と協力し、韓国や日本に対して「自然災害への防波堤づくり」の提案を考えているようだ。日本の持つ防災、減災技術を朝鮮半島の安全のために活用しようという発想であろう。過去の白頭山の大噴火が日本列島にもたらした大災害を思い起こせば、日本としても協力せざるを得ない。そこを見越して、日本から技術と経済両面での支援を得ようという魂胆が見え隠れする。金与正の母親は日本生まれ、日本育ちの元踊り子の高英姫である。金与正は日本への関心が高いはずだ。
いずれにせよ、日本に近い朝鮮半島でも中国との国境沿いにある白頭山の噴火の予兆が明らかとなり、中国政府は自国民に対し、立ち入り禁止措置を発令した。韓国では「北朝鮮の地下核実験の影響か」との声が高まる一方だ。確かに、気象観測衛星の画像を見ると、北朝鮮の核実験場周辺はもとより白頭山の地形にも変化が見られる。各国の地震学者によれば、「人類史上最大の火山噴火の可能性がある」とまで警戒レベルが高くなっている。
(つづく)
<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。最新刊は19年10月に出版された『未来の大国:2030年、世界地図が塗り替わる』(祥伝社新書)。2100年までの未来年表も組み込まれており、大きな話題となっている。
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