2024年12月23日( 月 )

【BIS論壇No. 324】コロナ後の世界経済

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 NetIB‐Newsでは、日本ビジネスインテリジェンス協会会長・中川十郎氏の「BIS論壇」を掲載している。今回は2020年6月24日付の記事を紹介。


 米ジョンズ・ホプキンズ大によると、日本時間23日午前3時時点での世界の感染者は188カ国・地域で900万人を突破。死者数は46万9,000人に達し、世界で増加ペースが早まっている。

 このうち米国が229万人、ブラジルが108万人を超えて、この2カ国で感染者数が世界の約4割を占める。さらにロシアが約59万人。インドが約12万人だ。最近は世界の感染者数が1週間で約100万人ずつ増加。死者は約46万人。うち米国約12万人、ブラジル約5万人、英国約4.2万人が3傑だ。6月21日の新規の感染者数は約18.3万人と単日で過去最大となった。外出自粛を解除した東京都でも毎日30人前後の感染が発生しており、予断を許さない。

 ワクチンの開発が待たれるところだが、開発には1~2年かかると見られ、東京オリンピックの開催も危ぶまれ始めている。WHOのテドロス事務局長は「すべての国が、社会・経済への被害を最小限に抑えつつ、人々を守るという微妙なバランスに直面している」と発言。(『朝日新聞』6月23日夕刊)

 かかる状況下、世界銀行のコーゼ開発見通し局長は「世界の景気後退は深刻になりつつあり、世界経済が新型コロナウイルス感染拡大前の水準を回復するのは2022年ごろになる」。

 「第2次世界大戦以来の深刻な景気後退に陥るのは明らかだ」とし、「世界経済の先行きは、20年は5.2%のマイナス成長に落ち込む。感染の第2波が来ればマイナス8%程度に落ち込む。とくに南米やサハラ砂漠以南のアフリカ、南アジアでは深刻な感染拡大が続いている。しかし、21年は4.2%のプラス成長を予測。だが21年末時点でも経済は危機前の水準には戻らず、回復は22年ごろになる」。「コロナ前の生活を取り戻すには、ワクチンの開発や治療法の確立が欠かせない」と予測している。

 一方、「日本の潜在成長率は低く、20年には6.1%のマイナス成長。21年はプラス2.5%程度」と予測。「世界的には巨額の負債が残り、とくに途上国の債務は金融危機に発展する恐れがある。コロナ禍で失業者が増え、教育機会の損失で人的資本の毀損は潜在成長率を押し下げる。テクノロジーの活用でこれらの損失をどう埋めるかが重要だ」と警鐘を鳴らしている(『日本経済新聞』6月24日)。

 世界的にコロナ後の経済・金融活動は、人工知能(AI)やIoT(あらゆるものをインターネットにつなぐ仕組み)などを活用したオンラインビジネス、E-コマース、リモートワークなどでの在宅勤務や、さらにデータとAIを活用したオンライン教育や医療などデジタル・トランスフォーメーション(DX)の革命がおこる。

 だがここで肝心なのは、過去のもうけ本位、経済格差を拡大する資本主義の延命で、単にDXによるデジタル技術、データ活用によるデジタル経済への転換という安易な対応ではだめだということだ。アジアの世紀に、今後発展する中国、韓国、インド、インドネシアほかASEAN、RCEP諸国に日本が協力し、アフターコロナへの対応に主導権を発揮すべきである。

 そのためにはアフター資本主義を目指して「資本主義の暴走を止めよ」「富を求めるのは道を開くためである」と喝破した日本の世界的な経済学者・宇沢弘文博士や、名著『世界史の針が巻き戻るとき』でGAFAを批判し、経済に哲学、倫理を持ち込む「モラル企業」を主張しているボン大学のマルクス・ガブリエル教授、『南州翁遺訓』で「敬天愛人」「天から与えられた道を実践せよ」と唱えた西郷隆盛氏などの思想を今一度反芻すべきであろう。


<プロフィール>
中川 十郎(なかがわ・ じゅうろう)

 鹿児島ラサール高等学校卒。東京外国語大学イタリア学科・国際関係専修課程卒業後、ニチメン(現:双日)入社。海外駐在20年。業務本部米州部長補佐、米国ニチメン・ニューヨーク開発担当副社長、愛知学院大学商学部教授、東京経済大学経営学部教授、同大学院教授、国際貿易、ビジネスコミュニケーション論、グローバルマーケティング研究。2006年4月より日本大学国際関係学部講師(国際マーケティング論、国際経営論入門、経営学原論)、2007年4月より日本大学大学院グローバルビジネス研究科講師(競争と情報、テクノロジーインテリジェンス)

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