2024年12月24日( 火 )

この世界、どうなる?(5)日本は「台湾化」すべし

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広嗣まさし(作家)

なぜ台湾人は日本を恨んでいないのか

 前回、中国は「日本化」すべきだと書いた。では、日本はどうすべきなのか?
 日本は「台湾化」すべき、というのが私の答えである。台湾とはいったいどのような国なのか理解すれば、私の言わんとすることもわかってもらえよう。

 台湾はかつて日本の植民地であったが、朝鮮半島とは異なり、日本のことをあまり恨んでいないと台湾を訪れた多くの日本人が感じている。台湾人に聞くと、それほど恨んでおらず、むしろ「多くの恩恵を被っている」との答えが返ってくる。まんざらお世辞でもなさそうなのでつい嬉しくなるが、それで喜ぶのは馬鹿者である。植民地にした日本人が、台湾で悪いことを1つもしなかったなどということはあり得ない。

 それでも台湾人が日本を恨んでいないのは、何故か?1つには「蒋介石氏のおかげ」だ。台湾は日本の敗戦で植民地支配から解放されたのも束の間、中国大陸での共産党との戦いに敗れた国民党が、一挙になだれ込んできた。国民党の首領・蒋介石氏は中華民国の政府を移転し、台湾人も初めは歓迎していた。だが、蒋介石氏が知識層を弾圧し、まるでスターリン氏を彷彿とさせる恐怖政治を実行するのを目の当たりにしてからは、台湾人が「日本統治下のほうがよかった」と過去を懐かしんでもおかしくない。蒋介石氏は、台湾における日本再評価の立役者なのである。

 しかし、それだけではあるまい。私は、台湾人の「過去の遺産」が大きく働いていると感じられる。「過去の遺産」とは、台湾の歴史そのものである。この島はもともと国ではなく、さまざまな民族がやってきては何かを残す場所だった。台湾は、それを生かして今までやってきた、そういう国なのだ。

 スペインやポルトガルの船が台湾に寄港し、植民地らしきものを沿岸地域にこしらえた時もある。オランダ人がやってきて、一時台湾を極東進出の拠点にしたこともあった。鄭成功氏がオランダを破って「台湾」を国にして、中華文明を植え付けたのは17世紀のことだ。その後19世紀に日本の領土となったが、20世紀半ばにはアメリカに解放された。そこへ蒋介石氏が率いる中国の国民党がやってきて、中華民国となったのだ。

 中国共産党は政敵であった国民党との対抗意識から、台湾は中国の領土であると考えたがっている。しかし、それは台湾という国を知らないからだ。台湾人のアイデンティティは、過去に入ってきた諸外国のすべての要素を遺産として受け継ぐことにある。それゆえ、「中華であって、中華ではない」のだ。

蔡英文氏の総統再選が示す台湾のすぐれた国際感覚

 この複合的なアイデンティティは、他の国の文化が入って来れば、その有用な部分と不要な部分を識別して、有用な部分を有効利用するという戦術を磨き上げた。台湾の力はまさにそこにある。それゆえ、台湾人の感覚は本当に国際的である。台湾人のアンテナはアメリカに向き、同時に中国にも向き、オーストラリアやインド、東南アジア、日本、韓国にも向いている。ほぼアンテナを張っていない、はせいぜいアメリカ向けにしかアンテナを張っていない我が国の人々とは、大違いだ。

 もっとも、多くの台湾人はそのことを自覚していないかもしれない。日本にきたある台湾人が、ふと漏らした言葉がある。「日本はいいですね。しっかりしたアイデンティティがあって・・。私たちには、そうしたものがないのです」。私はその人にこう言った、「いや、台湾人のアイデンティティは、はっきりしたアイデンティティがないところに根ざしているのです」。まさにそうなのだ、そこが強みである。

 その強みが自覚された時がついにきたようだ。蔡英文氏が総統に再選したことからわかる。蔡英文氏は、私に言わせれば、台湾がもつ優れた国際感覚の見本である。中国と台湾の関係を、内側からのみならず外側からも見ることができる人だからだ。ロンドンの大学で博士号を取得した彼女は、国際関係の専門家であり、国際経済の動きを分析できる力をもっている。それだけではなく、若くて優秀な人材を抜擢する眼力も備えているのだ。そのような人物が上に立ったとき、台湾の強さがいかんなく発揮される。中国に対して怯まない彼女の姿勢は、台湾人に大いなる勇気を与えている。

 話を日本に戻すと、日本は「台湾化」すべきだというのが私の主張である。台湾から多くを学び、中国よりも台湾に力を入れて、かつて植民地時代に与えた損害を帳消しにするぐらい台湾に協力をすべきだ。いつまでも中国の思惑を気にしていないで、台湾こそが「真の中国」なのだと認め、それを欧米諸国にも示すべきなのだ。日本人のアンテナも、いつまでもアメリカ向けにしか張っていない状態ではいけない。台湾人にならい、情報を四方八方から得なくてはならない。それができないうちは、日本は1つの国にさえなれないだろう。

(了)

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