2024年12月23日( 月 )

この世界、どうなる?(7)アメリカ礼賛

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広嗣まさし(作家)

「自由の国アメリカ」のイメージ戦略は洗脳だった

 私が若いころ、日本のテレビ放送ではアメリカのドラマが幅を利かせていた。毎夕、白黒の画面にアメリカのドラマが登場し、お茶の間を魅了していたのである。ホームコメディ、医療、犯罪、超常現象、さらに西部劇まであり、とても多彩だった。のちの時代に一世を風靡した韓流ドラマと違い、1回ごとに完結するストーリーが多く、見ていて楽しく、わかりやすくもあった。

 「そんなドラマばかり見ていたから、アメリカ礼賛者になったのだ」と言われたら、その通りだとしか答えようがない。「アメリカはいい国だ」といつしか感じるようになったのである。

 戦後を振り返ってみると、マッカーサー氏からロックフェラー財団へと引き継がれた戦後の日本文化の構築は、アメリカ主導で行われた。表向きは、日本を再度ファシズム国家にしないためだったが、本音はソ連の影響を受けて共産主義を受け入れ、「赤化」させないことが目的だった。「自由の国アメリカ」というイメージが、歌や映画、テレビドラマを通じて、全国民にインプットされた。アメリカの日本文化支配は、ものの見事に成功したと感じている。

 「これって、洗脳ですよね?」私はまだ学生だったころにある先生にこのように聞いたことがある。するとその先生は、「他人から受けた影響といっても、受けた影響が自分のものになったのなら、もうそれは自分のものなのだよ」と言った。私のなかで、日本はアメリカの一部になり、アメリカは日本の拡大版となった。アメリカを礼賛することが、我が日本を礼賛することにもなった。

 それにしても、アメリカはプロパガンダが上手だ。それに比べて、中国のプロパガンダは、あまりにも拙い。技術的には21世紀でも、コンテンツ自体が19世紀から出ていないのだ。あのようなプロパガンダで、本当に10数億人の民がついてくるのか。世界では通用しない代物が中国の多くの場所で出回っていても、疑問をもたれないとは到底考えられない。

 中国の世界に向けて発信するメッセージも、やり方が稚拙である。東西文明の対立を持ち出して、西欧至上主義を批判することで自らを正当化するやり方は、日本が80年前に使ったものだ。同じやり方を今でも使うのは、あまりにも勉強不足だ。中国で超一流といわれる大学の教師が、「コロナウイルスは米国の中央情報局(CIA)がつくり出したものだ」と書かれている文書を見せて、内容に賛同するサインをしてほしいと同僚のイギリス人に頼んだという。同僚のイギリス人は、あきれてものもいえなかったという。中国という巨大な国の超一流の大学教員がその程度の知能だとすれば、笑える話どころか、恐ろしい話である。

アメリカはプロパガンダがうまく、中国はプロパガンダが拙い理由

 中国にも批判精神が旺盛なインテリはいる。しかし、彼らは批判精神をもちながらも沈黙を続けるか、発言した途端に罰せられるかのどちらかだ。中国共産党中央の方針に少しも疑問をもたず、公式見解を「オウム」のように繰り返すことで、職務をまっとうしていると信じている教員が大半だ。恐怖政治におびえてそうしているのではなく、ただ頭を使うことをやめているだけなのだ。

 中国のプロパガンダの質が悪い原因は、どこにあるのか。プロパガンダ1つを制作するにしても相当な議論が必要だが、議論を省いていることが原因だ。そうすると制作に時間がかからず、安上がりではあるが、中身がともなわないから、「制作した意味」がなくなる。

 一方でアメリカは、何をつくるにしても議論を経ている。さらに、さまざまな観点からの事前チェックが入る。冒頭のテレビドラマに話を戻すと、アメリカでは、連続ドラマ1回分をつくる時もかなりの時間をかけて準備するのだ。ドラマの発案者が1人だとすると、発案者の周囲に監督が何人かいて、各回で監督を変えるのが普通だ。その方法だとドラマ全体の一貫性が保ちにくくなるのではと危惧される。だが実際にはそうならないのは、前もって徹底的に討論し、企画者と各監督が意思統一をしているからだ。

 アメリカは「個人主義の国」だとよくいわれるが、むしろ「チーム主義」の国というべきだろう。「チームに所属してこそ個人は意味があり、チームのために頑張る」ことが原則だからだ。チームをまとめる者は、全体を把握してチームを円滑に機能させる役割を担う。リーダーの下で働く者たちは、任された領域をしっかりこなすことで役割をはたすのだ。チーム内で起こった問題はリーダーに逐一報告され、リーダーが問題を解決する。与えられた役割を全うできない者が出てくれば、すぐにクビになることもあり得る。

 このアメリカ方式が他国でもうまくいく、という保証はどこにもない。各人は一定の領域を任されるためモチベーションは上がるが、失敗するとクビになると考えるとストレスも増すだろう。このストレスこそがアメリカの原動力なのだが、日本などではこのアメリカ方式についていける人はわずかだ。

 とはいえ、日本でもこの方式がうまく機能している世界がある。プロ野球の世界だ。プロ野球の世界に魅了される人は、そうと知らずにアメリカ方式を好んでいる。日本とアメリカを結ぶもの、それは「プロ野球」だ。このことを語る人は、意外に少ない。

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