2024年11月22日( 金 )

【株主総会血風録1】大戸屋ホールディングス~買収を仕掛けたコロワイドが戦わずして“戦線放棄”の奇々怪々(3)

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 定食チェーン「大戸屋ごはん処」を運営する(株)大戸屋ホールディングス(以下・大戸屋)が6月25日に都内で開いた定時株主総会で、筆頭株主の外食大手(株)コロワイドが提案していた取締役候補の議案が否決された。総会にはコロワイドは出席せず、株主提案の説明もなし。買収を仕掛けたコロワイドは”戦線放棄”したのだ。奇々怪々というほかはない。

個人株主を取り込むために、コロワイドは4万円の食事券を贈答すると表明

 コロワイドは多数派工作に乗り出す。大戸屋の株主の最大の特徴は、個人株主が65%と圧倒的に多いことだ。個人株主の支持が、勝敗を左右する。そこで、個人株主獲得の多数派工作に乗り出した。

 コロワイドが3月、大戸屋の株主2万4,000人を対象に行ったアンケートでは、回答した約1万9,000人のうち9割以上がコロワイドグループの傘下入りを支持したという。回答すれば3,000円相当の食事券がもらえたせいもあるが、コロワイドになびきそうな株主が多かったのは事実だ。

 手応えありとみて、すかさず、第2の矢を放つ。コロワイドは買収した暁には500株以上を持つ株主にコロワイドグループで使える4万円の食事券を贈る方針を示した。

 大戸屋は、従来6,500円相当(3年以上の長期保有なら7,500円相当)の食事券としていた優待に、2万5,000円相当の食事券を上乗せすると表明あい、優待の金額を引き上げて対抗した。さらに5月下旬には基本部分の6,500円相当の食事券の贈呈をこれまでの年1回から2回に増やすことも決めた。それでも短期保有者についてはコロワイドの4万円におよばない。個人株主は自らの経済的利益で動くことが多いだけに大戸屋の不利は否めなかった。

 大戸屋の2020年3月期の売上高は245億円で、最終損益は11億円の赤字。コロワイドの売上高は2,353億円で、最終損益は69億円の赤字。コロナの直撃を受け、両社とも赤字だが、規模はコロワイドが10倍大きい。勝負はついたというのが大方の見方だった。

コロワイドは蔵人会長の暴言が命取りに

 大逆転が起きる。大戸屋がポイントを挙げたというのではない。コロワイドがオウンゴールを叩き込んだのだ。

 6月5日、大戸屋グループで働く従業員有志(276名)と、FCオーナーの8割以上から、コロワイドの株主提案に反対する意見書が出た。反対意見書には、コロワイドの社内報に掲載された蔵人金男会長の言葉が抜粋されていた。

 コロワイドの創業者である蔵人会長は凄まじい人物だ。2017年に『商魂』という社内報に載せたコメントがインターネット上で大炎上したことがある。

 「牛角」などを運営するレインズインターナショナルの社員らに対して「いまだに挨拶すらできない馬鹿が多すぎる」と批判した。さらに、「個人的に張り倒したい輩が何人もいる」「私が嫌いで、嫌悪感すら感じるのだろう。そのアホが、なぜ会社にいる?」「生殺与奪の権は、私が握っている。さあ、今後、どうする。どう生きて行くアホ共よ」とも書き込んだ。

 コロワイドの株主提案は、蔵人会長の長男、蔵人賢樹専務を取締役候補としていた。勝利したら社長にさせる計画だ。

 蔵人会長の発言が、従業員やFCオーナーを結束させた。コロワイドに賛成を考えていた個人株主も逃げた。個人株主の賛同を得られないことがわかったため、コロワイドの野尻公平社長は大戸屋の株主総会に姿をみせず、”戦線放棄”したのであろう。蔵人会長の暴言は高くつくものとなった。

 コロワイドは6月30日、株主総会を開いた。賛成率はそれぞれ蔵人金男会長が83.81%、野尻公平社長が84.78%と、合格ラインの90%を割った。大戸屋の買収に失敗したペナルティだろうか。

(了)

【森村 和男】

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