2024年11月24日( 日 )

「新型コロナ」後の世界~健康・経済危機から国際政治の危機へ!(2)

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東京大学大学院法学政治学研究科 教授 小原 雅博 氏

 新型コロナウイルスはイデオロギーもルールも関係なく、国境や民族を越えて人類を襲った。そして今、コロナ危機は健康、経済から国際政治や外交、安全保障の領域にまで拡大している。
 東京大学大学院教授の小原雅博氏は近著『コロナの衝撃―感染爆発で世界はどうなる?』(ディスカヴァー携書)で「危機はこれまでは、国家や民族意識を高めてきたが、今の私たちは監視社会でない自由で開かれた社会を築くと同時に、感染症に屈しない強靭な社会を築かなくてはいけない」と述べている。小原氏に新型コロナ後の世界について語ってもらった。

健康危機と経済危機はトレードオフの関係

 小原 現時点では、新型コロナウイルスの対処薬も特効薬もありません。「ワクチン」が開発されるまでの対応方針としては、家にとどまって他人との接触を控え、企業はできるだけ活動を抑えていかざるを得ません。

 すなわち、新型コロナが長期化すると、健康に対してのみならず、需要の急減とサプライチェーンの分断のため経済活動にも大きな影響がおよびます。今回の危機への対応が難しいのは、健康問題が絡んでいるために、新型コロナの感染が終息しないうちは、経済面で対策を打てる余地がないという点です。

小原 雅博 氏

 つまり、今回の経済危機は、経済不況のときの危機とは性質が異なっているのです。経済不況のときには、ケインジアン政策(※1)により需要を膨らませ、経済を成長させますが、今回は「健康危機」への対策に逆行するため、そうした政策が打てないのです。

 「Stay home!」(ステイホーム)などの感染対策を優先する限り、経済再開はできません。「健康危機」と「経済危機」はトレードオフの関係にあるため、経済を再開させると感染が広がります。アメリカの中西部や南部など経済を早く再開させた州では、これら2つの対策を同時にうまくやることができず、感染が激増してしまいました。

政府が取るべきは雇用対策

 小原 この「新型コロナの戦い」は、ワクチンや治療薬ができるまで、弱者の痛みを和らげながら感染終息を待つ持久戦にほかなりません。今、政府が取るべき措置は、中小企業の資金繰りを助け、雇用環境の不安定な人々を支援する「弱者救済策」です。これにより、新型コロナが終息したときに、経済をスムーズに再開できるのです。

89カ国と4つの国際機関に援助

 ――中国では、武漢での初動対応はつまずきましたが、その後は都市封鎖や感染者の徹底隔離によって感染を抑え込んでいるといわれています。世界的に感染拡大が続くなかで、中国の状況をどう理解すべきでしょうか。

 小原 武漢での初動対応(※2)は、明らかに失敗でした。欧米先進諸国で民主主義が輝きを失っているといわれるなかで、中国モデルは勢いを見せてきましたが、疫病との戦いでは序盤で大きくつまずきました。武漢での感染爆発は世界の耳目を集めたものの、今では強権的な封じ込めによって、統計上は感染がほぼ抑え込まれています。世界中でパンデミックが起こり、感染者数も死者数も増え続けているのとは対照的です。

 中国はあれだけの大国で、短期間に感染を抑え込んだかたちで、経済も真っ先に正常化に向かっているわけので、習近平政権が共産党一党独裁という中国モデルへの自信を取り戻し、自信を強めているとしても不思議ではありません。

 さらに中国は、今では感染が広がる世界各国への支援にも力を入れ、イメージ改善を図っています。中国国際開発協力機関によると、中国派新型コロナとの戦いを支援するために、89カ国と4つの国際機関に援助を提供しました。援助の提供先は、アジア28カ国、ヨーロッパ 16カ国、アフリカ26カ国、アメリカ大陸9カ国、太平洋諸国10カ国です。

※1:不況のときに、政府が経済や社会インフラなどで積極的に予算を組んで、需要をつくり出し、失業や倒産を食い止めて景気を維持する政策。^

※2:最初の患者は2019年12月8日、武漢の海鮮市場の閉鎖は2020年1月1日、武漢「封鎖」は1月23日、湖北省全体を事実上「封鎖」したのは25日だった。^

(つづく)

【金木亮憲】


<プロフィール>
小原雅博
(こはら・まさひろ)
 1980年東京大学文学部卒業、1980年外務省入省。1983年カリフォルニア大学バークレー校修士号取得(アジア学)、2005年立命館大学にて博士号取得(国際関係学:論文博士)。アジア大洋州局参事官や同局審議官、在シドニー総領事、在上海総領事を歴任し、2015年より現職。立命館アジア太平洋大学客員教授、復旦大学(中国・上海)客員教授も務める。
 著書に『日本の国益』(講談社)、『東アジア共同体―強大化する中国と日本の戦略』、『国益と外交』(以上、日本経済新聞社)、『「境界国家」論―日本は国家存亡の危機を乗り越えられるか?』(時事通信社)、『チャイナ・ジレンマ』、『コロナの衝撃―感染爆発で世界はどうなる?』(以上、ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『日本走向何方』(中信出版社)、『日本的選択』(上海人民出版社)ほか多数。
 10MTVオピニオンにて「大人のための教養講座」を配信中。

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