【連載2】今こそ推したいアビスパ福岡:なぜ強い、今年のアビスパ(後)
-
-
連敗中でも士気は落ちず
プロとしての矜持前回の記事では、今シーズンのアビスパの強さ、面白さを「戦い方の変化」「躍動する新戦力」という2つの切り口から分析した。後編は、チームが見せる一体感と、アビスパを率いる金明輝監督について見ていこう。
2025年のアビスパは、開幕3連敗という想像以上の苦境でのスタートとなった。柏レイソル、ガンバ大阪、川崎フロンターレと力のあるチーム相手とはいえ、3試合で5失点を喫し、昨シーズンまでの強みだった堅守すら失ってしまったのではないか。サポーターたちの表情は沈み、ネット上では悲観論が吹き荒れ、X(旧・Twitter)は荒れた。
だが、選手たちはまったく揺らいでいなかったのだ。
時に厳しく、時に笑顔で。練習場で汗を流す選手たち 福岡市東区、雁ノ巣レクリエーションセンター。博多湾に突き出した砂州、海の中道に位置し、アビスパ福岡の練習拠点として知られている。公開練習には多くのアビスパサポーターが訪れ、選手たちの一挙手一投足に熱い視線を注いでいる。今シーズンは公開練習が非常に多く、戦術的なトレーニングもサポーターの目の前で行われることが多い。
連敗中の選手たちは、いったいどんな雰囲気なのだろうか……。取材に訪れた際に、そんな意地の悪い野次馬根性があったことは否定しない。だが、そこで見たものは予想を完全に覆すものだった。負傷してリハビリ中の選手が黙々と外周を走るなか、ミーティングを終えてグラウンドに姿を現した選手たちの表情は引き締まり、悲壮感もなければ緩みもない。
試合さながら、熱の入ったマッチアップ 始まった練習はきびきびと進み、選手たちは試合さながらの熱量で身体をぶつけ、ボールを奪い合う。全体練習が終わった後は、身体をほぐしたりジョギングをしたりしながら、選手同士熱心にコミュニケーションを取る姿も見られた。
練習後、取材に応じたDF湯澤聖人は「どうにかしないといけない、という気持ちはみんなにある。正直心の底には『やばい』という気持ちもあるが、それを表に出してしまったら終わりなので、それをどう乗り越えていくか」と語ってくれた。必要以上に恐れず、かといって楽観もしない。そんなプロのアスリートとしての矜持が、苦境にあっても普段通りに練習に臨む選手たちの表情からにじんでいた。
若手もベテランも、遠慮なくボールを奪い合う そんな選手たちの中心にいるのが、金明輝監督だ。時に笑顔で、時に自ら身体を動かしながら練習の指示を行う金監督。選手たちと年齢が近いこともあって、「監督」という堅い肩書きよりも「兄貴分」という雰囲気がよく似合う。
1月の新体制発表会では、アビスパ加入の決め手を問われた新加入選手の多くが「金監督のサッカーに興味があった」「金明輝監督といっしょにやりたかった」と口にした。その魅力、その手腕は、どんなものなのだろうか。
再び監督として立つ決意
金明輝監督が背負う覚悟では最後に、2025年度版アビスパを構成する最大の要素、金明輝新監督について見てみよう。
金明輝監督は1981年生まれ、兵庫県出身の43歳。高校卒業後の2000年、ジェフユナイテッド市原でプロサッカー選手としてデビューした。選手としては成功したとはいえないキャリアを過ごし、2011年にサガン鳥栖で現役引退。12年から鳥栖のスクールやユースのコーチを経て18年からトップチームのコーチを務め、18年、19年とシーズン途中で解任された外国人監督の代理として指揮を執り、見事にJ1残留をはたした。成績不振で退任した監督の後を継ぐという非常に難しいミッションを、2年連続で成功させた金監督の手腕に注目が集まったのは当然だろう。
20年、21年と鳥栖でのキャリアを重ね、チームも躍進。だが、21年12月に金監督は突如退任する。この退任後に巻き起こったのが、金監督のパワハラ問題である。日本サッカー協会(JFA)からライセンス降格処分を受け、またJFAが定める研修を受講し、社会貢献活動を行うことが決まった。
その後、22年に当時J2のFC町田ゼルビアのヘッドコーチに就任。黒田剛監督とのコンビで23年にはJ2優勝、24年は初のJ1挑戦で3位という予想をはるかに超える結果を残し、24年末にアビスパの次期監督就任が発表された。その後の顛末は、ご存じの方も多いだろう。
24年12月、新監督就任記者会見での金監督。
硬い表情に緊張がうかがえる開幕以来アビスパの試合や練習を見てきたなかでいえるのは、金明輝監督は「とにかくサッカーが好き」だということ、そして「隠しごとが苦手な、非常に素直な人柄」であることだ。もちろん、開幕3連敗以降の成績(7試合無敗、6勝1分け)を見れば、指導者としての実力は明らかだ。
金監督は、新監督就任記者会見で「(監督は)チームの顔として、僕の言動がさまざまな方に影響を与えると思っています。そういった責任と自覚をもって再びスタートを切らせてもらう」と語った。文字だけを見ると、ありきたりな言葉に見えるかもしれない。だが、これが見せかけの言葉なら、それは一番近くにいる選手たちには必ず見抜かれるはずだ。もちろんアビスパのスタッフやフロントも、スポンサーも、そしてサポーターの目だって節穴ではない。
25年4月、浦和レッズ戦開始前の金監督。
柔らかい表情に余裕も見えるプロとしてサッカーに関わる以上、その本質は必ずサッカーに現れる。見せかけや取り繕いで勝てるほど、Jリーグは甘くない。「結果を出せば許されるのか」という意見もあるが、内容がともなっていなければ結果が出るはずもないだろう。
今、アビスパがすばらしいサッカーを見せていることは、この問題に対する1つの答えだ、と信じている。
【深水央】
法人名
関連記事
2025年4月10日 16:352025年4月2日 12:002025年3月28日 16:302025年4月10日 13:002025年4月9日 17:002025年4月4日 15:302025年4月3日 17:30
最近の人気記事
まちかど風景
- 優良企業を集めた求人サイト
-
Premium Search 求人を探す