(株)ウチヤマホールディングス

齋藤晃バリュークリエイション部ICT・DXマネージャー
介護業界でも近年、ITメーカーやベンダーが現場への理解を深め、各種ツールが現場で活用されるようになるなか、メーカー製ツールと現場ニーズとのミスマッチも依然として一部存在する。全国で介護事業などを展開する(株)ウチヤマホールディングスは、このような状況に対し、介護現場から生まれるテクノロジーにこそ価値があるとの考えのもと、自社の考えが適切に反映されるように、自前でもシステム開発を進めている。これは、同社が介護現場に精通しIT知識も備えた人材を社内で育ててきたことで可能となっている。
DXへの積極投資で
介護サービスの向上を
DX推進について、(株)ウチヤマホールディングス代表取締役社長・山本武博氏は、単なる業務の省力化にとどまらず、職員の余剰時間を創出することにより「入居者の喜びや過ごしやすさ」をこれまで以上に追求し、達成することが最終目標であると力説する。
さらには「DX化が進みにくい同業界において、当該システムを整備することで自社のみならず業界全体として職員が働きやすく、入居者が快適に暮らせるインフラの構築を目指す」と話しており、同業者向けに提供することも考えている。
九州工業大学と共同開発した介護記録アプリ「FonLog」の導入は現場でも高く評価されており、今年同グループに入った山形県の新施設にも速やかに導入された。職員からは「導入を待ち望んでいた」との声が挙がっている。
自社以外のシステムも活用しており、積水化学工業(株)の開発した見守りセンサー「アンシエル」の導入も進めている。ベッドのマット下に設置し、入居者の家族の同意を得たうえで、本人に気づかれずに睡眠の質を計測できるセンサーだ。これにより、入居者の眠りの質や体動、覚醒、夜間のトイレ行動などが可視化される。職員が本当に必要とされるときにのみ訪室することで、入居者の転倒リスクを防ぎつつ、睡眠を妨げず、昼間の活動性を高める好循環が生まれている。
こうした成果は、事前に仮説が立てられていたわけではない。テクノロジーを現場で活用し、データを蓄積していくなかで新たな気づきが得られたものであり、現場を理解する職員の存在があってこその価値ある発見となっている。
情報可視化の一環としてSalesforce社のBIツール「Tableau」を活用したダッシュボードの開発も進行中である。これは多角的な分析を可能とするもので、売上分析、経費分析、労務管理などの施設運営にかかる情報や、適正なサービス提供が行われているかなどの施設における日常の情報を、稼働しているIT機器からデータとしてリアルタイムに抽出し早期に把握したうえで、適時に対策を施すことで、安定した施設運営を持続的に行うことを可能とするものである。
新規事業を担う
バリュークリエイション部
同社グループでこうしたDXの推進を担うのが、2024年10月に新設されたバリュークリエイション部だ。ICT・DXマネージャーの齋藤晃氏を含む多くのスタッフは施設長経験者で現場に精通しつつ、現場のニーズに応じてIT知識・スキルを身に着けた人材だ。
同部は職員に対する指導やレクチャーも行っており、現場全体のITリテラシーを高める役割を担っている。齋藤氏らが施設を巡回してサポートを行うとともに、同時に「ケアクリエイター」というICT・DXに関する社内資格制度を設け、すでに各施設に1名以上を配置済みである。これにより現場と専門部署との意思疎通が円滑化され、重大なシステム障害でなければケアクリエイターが本社から電話などで指示を受け初期対応を担う体制が構築されている。
また、新規事業として、小規模な同業者向けのICT・DXソリューション開発にも注力しており、業界全体に貢献していくことが期待される。
学習塾事業に参入
地域連携ラボ施設を開設
放課後等デイサービス事業を展開しており、同じ児童生徒向けの事業であり親和性が高いとの考えのもと、今年2月、個別指導塾「明光義塾」などを展開する(株)明光ネットワークジャパン(以下、明光)とフランチャイズ契約を締結し、学習塾事業「RED」を開始した。1号店の教室長自身、放課後等デイサービス事業を担当していたが、自らが望んで学習塾事業に配置転換となった。
同塾ではタブレット学習を基本とし、専任講師を配置しない方式であるため、従来の塾に比べて導入コストを抑えられ、かつ従来型の塾よりも成績の伸びが高いというデータもあり、山本社長は「REDの自律学習スタイルは、受け身で学ぶスタイルと比較して、児童生徒の学習意欲をより促すのではないか。当社も自主性を大切にしており考え方が合致する」と語る。
明光は物件選定にあたり厳格な基準を設けているが、1号店(広島市)については、周辺に中学校が多いという地域特性から、開設に適しているとの判断がなされた。一定数の施設・スタッフを備えているほうが事業の持続性が高まるとの見解から事業拡大を予定しており、5年間で20カ所程度の展開を目指す。2号店は本社ビルの2階に開設予定という。1号店と同様、明光からも適切と評価された地域教育環境であり、社員の子どもを対象とした福利厚生の一環としても期待される。

7月1日には、福祉用具レンタル販売事業「さわやかケアサポート」のオフィス兼店舗と、先進技術を用いた次世代ケア研究ラボ「イノベルベース」を併設した地域拠点を南小倉駅前(北九州市小倉北区)に開設した。
介護関連のICT機器を展示するショールーム機能に加え、地域の介護相談窓口、産学官連携の場、地域住民との意見交換の場、介護事業者向けセミナーの開催など、多様な拠点としての機能が想定され、地域住民に同社の取り組みを広く理解してもらう場となるだろう。
ウチヤマHDは今後も利用者のサービス向上を目指し、福祉・介護領域を中心にICT・DXを軸に先進的な試みを続けるだろう。
【茅野雅弘】
<COMPANY INFORMATION>
(株)ウチヤマホールディングス
代 表:山本武博
所在地:北九州市小倉北区熊本2-10-10
設 立:2006年10月
資本金:22億2,293万円
TEL:093-551-0002
URL:https://www.uchiyama-gr.jp