2024年12月27日( 金 )

【株主総会血風録4】東芝~「物いう株主」エフィッシモが改正外為法の審査に真っ向勝負で挑む!(2)

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 今年の株主総会で、もっとも関心を集めたのは(株)東芝である。投資ファンド2社が、それぞれ推薦人物の取締役選任を求める株主提案を提出し、会社側と対立した。株主提案はいずれも否決され、会社提案はすべて可決された。もっとも注目されたことは「物いう株主」が、改正外為法の審査において、経済産業省に真っ向勝負を挑んだことだった。

コンプライアンスの権化、国廣弁護士がエフィッシモ就任

 権限を集中してワントップ体制にすべく、綱川社長は20年4月、代表権のない会長に退き、車谷氏が社長兼CEOに就いた。

 今年の株主総会は、「物いう株主」との対決の第3ラウンド。株主提案を行ったのは、いずれもシンガポールに拠点を置くエフィッシモ・キャピタル・マネージメント(以下、エフィッシモ)と3D・オポチュニティ・マスター・ファンド(以下、3D)。東芝株式の約15%をもつ筆頭株主のエフィッシモは3名、同4%程度を保有する株主の3Dは2名の社外取締役の選任を求めた。

 エフィッシモは、東芝の孫会社の東芝ITサービス(株)で今年1月に発覚した架空・循環取引への対応を問題視した。

 エフィッシモは、旧村上ファンドの元代表、村上世彰氏がニッポン放送株をめぐるインサイダー取引容疑で逮捕されたのちに、同ファンド出身の今井陽一郎氏ら3名が村上氏とたもとを分かつかたちで設立した企業だ。

 エフィッシモは、コンプライアンスや企業統治の専門家である国廣正弁護士が法務アドバイザーに就いたことで、東芝と市場関係者を驚かせた。国廣氏は業界の第一人者として不祥事を起こした企業が設置する第三者委員会で活躍しており、コンプライアンスの権化といわれる弁護士だ。

 エフィッシモは、東芝のコンプライアンス体制が不十分だと主張し、取締役候補として、3名を提案した。今井氏に加えて、国廣氏が、以前に国廣氏の法律事務所に所属していた竹内朗弁護士と、花王の元法務担当執行役員・杉山忠昭氏の2名を推薦した。

今井氏の取締役候補は、改正外為法の事前審査対象

 指南役・国廣氏の仕掛けは、エフィッシモ創立者の今井氏を社外取締役候補にしたことだ。これまでも「物いう株主」が、自らのメンバーを社外取締役候補として提案することは珍しくない。しかし、今井氏を候補者にすることは、今年5月8日に施行された改正外為法の事前審査の対象になる点がこれまでの事例とは異なっている。改正外為法により、安全保障にかかわる日本企業への外資規制を強化されたため、外国人投資家への監視が厳しくなっているのだ。

 外国人投資家が日本の安全保障にかかわる事業を手がける国内の上場企業株を一定程度取得する場合、事前の届け出を義務づけ、その内容について所管官庁が審査を行う。これは「事前審査」と呼ばれ、重点審査の対象となる558社のなかには、もちろん東芝も含まれている。

 今回、今井氏を社会取締役候補者にしたことで「投資家自らまたはその密接関係者が指定業種に属する事業を営む会社の役員に就任することについて、株主総会において同意する」という行為における事前審査が必要になる。このため、事業所管官庁である経済産業省の許可がなければ、エフィッシモは今井氏の選任議案に賛成できないことになる。

 今井氏を候補にしなければ、面倒な改正外為法の事前審査を免れることができたはずだが、なぜあえて候補に選んだのか。それは、今井氏を取締役にして改正外為法に真っ向から勝負することが、国廣弁護士の狙いだったからだ。

 国廣弁護士と、エフィッシモの取締役候補となった杉山氏は『日経ビジネス』電子版(20年7月3日付)のインタビューで、こう語っている。

 杉山氏は、「株主提案の候補者を引き受ける前にエフィッシモとテレビ会議をした際、本当に本気ならば今井さん、あなたも候補者に入るべきだと言いました」と述べている。それを受けて国廣氏は、「本当に東芝を良くしたいのであれば、ファンドが後ろにいて提案するのではなく、自ら言行一致させるために出たほうが良い」と話した。

 国廣氏の言葉は「自分は安全圏にいて能書きを垂れるのではなく、経営に責任を持つ気構えがあれば、候補者になりなさい。そうすれば支援します」という意味で、今井氏の本気度が問われたのだ。

(つづく)

【森村 和男】

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