『脊振の自然に魅せられて』洗い谷に思う
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撮影で通ったすばらしい渓谷
9月14日(月)午前に某新聞社より電話を受け、洗い谷について聞かれた。登山雑誌『季刊のぼろ』の編集長が脊振山系 の井原山(983m)への登山の途中、洗い谷で亡くなったという。
洗い谷は、林道沿いの清流の美しさに魅了され、20年前に筆者が撮影で通ったすばらしい渓谷である。糸島市の瑞梅寺ダム上部の瑞梅寺山小屋の前を通り、渓谷沿いの林道から登山口へ入る。雨上がりの水量の多い日の洗い谷は、渓谷を流れる水の美しさも格別で、竹林を背景にした美しい日本庭園のようであった。
渓谷入り口付近の砂防ダムを過ぎた丸太橋の付近は、秋になるとキツリフネのお花畑があり、その数に圧倒された。時には朝露に濡れ、時にはそよ風に吹かれて花が揺れていた。植物にも生存競争があり、今はこのお花畑は見られない。
その先には滝があり、狭く深い谷が美しい渓谷美を見せていた。梅雨の時期には、ヤマアジサイの撮影に訪れた。渓流を背景に咲く淡い紫色のヤマアジサイの美しさに魅了されて、風が止む瞬間を待ってシャッターを押した。私とヤマアジサイの対話の時間でもあった。6月には、登山道からすぐ下の沢に降りると、目の前に花びらがすべて純白のヤマボウシが現れた。
大きな木の根がある狭い谷を過ぎると、中間地点である五段の滝であった。滝のしぶきを浴びながら、背景にヤマアジサイを入れて五段の滝の撮影をした。
水成岩からなる二段の滝は、下段の落差が15m、上段が10m。流れ落ちる滝は尾を引くように美しかった。夏場は滝の撮影が終わると、浅い滝壺に入って滝のシャワーを浴びたり、滝を眺めながら、好物のトコロテンを食べたりした。冬場は雪景色の撮影に数回訪れた。
瑞梅寺川の源流へ
二段の滝を登り詰めると、瑞梅寺川の源流となる。砂岩の緩やかな流れが美しい場所で、両側は深い谷に囲まれている。ここから急勾配の荒れた登山道を登り詰めると、「井原山―雷山」の縦走路に出る。
筆者はそこから井原山には登らず、洗い谷からそのまま登山口に下ることが多かった。重いビデオ機材を背負って撮影に入り、岩から滑って息ができないほど尻餅をついて痛みに耐えたこともある。そして、瑞梅寺山の家に立ち寄って茶をご馳走になった。瑞梅寺山の家は、明治時代に建てられて閉校になった小学校校舎や運動場を、旧・前原市(現・糸島市)が再生させたもので、地元の方を管理人として雇い入れている。
瑞梅寺集落の段々畑も美しかった。今は耕作もされていない畑もあり、この光景は見られない。いまから12年前に、瑞梅寺集落や洗い谷の美しい光景を載せた写真集『脊振讃歌』を出版した。
安全な登山に向けて
近年、地図アプリなどができて便利になり、簡単に山に登れる時代になった。歩いた軌跡やルートがそのまま利用できるため、岩山や深い山に入る初心者も出てきており、日本各地で滑落事故や遭難死も増えている。
亡くなられた『季刊のぼろ』の編集長は、登山中あるいは下山中の事故であろうか。確かな登山技術と装備があれば危険な場所ではないが、一瞬の油断が事故につながったのではないかと考えている。ルート中間地点の五段の滝で20mのロープを頼りに崖を登らなければならない場所で滑落して、岩で頭を打ったのではと筆者は予測している。
洗い谷コースは、警察や消防署など関係機関が危険ルートとして閉鎖し、コース案内からも削除された。「登山上級者でも難しいコース」と認識されたのだ。
「脊振の自然を愛する会」では安全な登山に向けて啓蒙し、山中の怪我で動けなくなった登山者を救助できるように、昨年から行政や(株)NTTドコモ九州支社とレスキューポイント表示板を道標に取り付ける準備をしてきた。
表示板にあるQRコードをスマホで読み取ると、現在地が判明する。夜間でも懐中電灯を向ければ暗闇の中でも読めるように蛍光板にしている。福岡市のホームページにリンクしており、迅速な救助に対応できるようにしている。表示板が完成したため、「脊振山―三瀬峠」間の縦走路や登山道の約30カ所にさっそく取り付け作業に入る予定だ。登山事故が少しでもなくなれば、との願いをこめて。
2020年9月18日
脊振の自然を愛する会
代表 池田友行関連キーワード
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