世界初のデジタル通貨実用化を急ぐ中国(前)
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日韓ビジネスコンサルタント 劉 明鎬 氏
新型コロナウイルスの感染拡大は、社会のデジタル化を加速させている。通貨のデジタル化もその1つである。通貨がデジタル化したら、紙幣やコインを用いることによる新型コロナウイルスの感染のリスクもなくなるため、通貨のデジタル化にさらなる拍車がかかっている。
最初に通貨のデジタル化の先鋒に立ったのは、米国のFacebookであった。しかし、世界で25億人のユーザーを有している民間企業のFacebookが世界的に利用されるデジタル通貨「リブラ」の発行を実現するとドルの弱体化を招くのみならず、金融業界に与えるインパクトが大きいため、米政府はFacebookのデジタル通貨発行をけん制した。
一方、中国人民銀行(中央銀行)は他国に先駆けてデジタル人民元(DCEP)の商用化に向けた試験段階に入っていることを発表し、先進国はその対応に追われている。とくに、中国人民銀行は2022年の北京オリンピックまでにデジタル人民元の実用化を目指すとしており、中国は世界初のデジタル通貨の発行国になる見込みだ。
デジタル人民元とは、中国の法廷貨幣である人民元をデジタル化したものを指す。デジタル人民元、DCEPは「Digital Currency Electronic Payment」(デジタル通貨電子決済)の頭文字であり、中央銀行の発行するCBDC(中央銀行発行デジタル通貨)の一種である。
デジタル人民元は今後、従来の紙幣に代わって使用されるようになり、既存の紙幣では不可能だった電子決済も可能になるだろう。デジタル人民元はブロックチェーン技術を基にしたデジタル通貨で、ビットコインなどの暗号貨幣とは異なり中央銀行がその価値を担保する。またビットコインとは異なり、匿名による取引も一部では制限される。
中国はデジタル通貨を研究するため、14年から研究チームを立ち上げ、16年にはデジタル通貨研究所も設立した。すでにデジタル通貨に関する特許84件も申請済で、デジタル通貨関連の技術の確保に注力している。そのような状況下で、今年4月から中国の深圳市や蘇州市、河北省雄安新区、成都市の4つのスマートシティ計画地域で、デジタル人民元のパイロット・テストも行われている。
デジタル人民元の推進に協力する中国企業も増えつつある。配車サービス最大手の滴滴出行(Didi Chuxing)、出前サービスの最大手の美団点評(Meituan Dianping)、エンターテインメント企業のビリビリ動画(Bilibili)、アリペイ、テンセントなどが協力企業として、このプロジェクトに関わっている。
デジタル人民元の大きな特徴の1つは、アリペイやウィーチャットペイなどの既存のモバイル決済とは異なり、インターネットにつながっていない環境でも、携帯端末をかざすのみで近距離無線通信(NFC)により決済を行えるため、へき地を含めた中国全土で利用可能だという。
(つづく)
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