流通業界、成長必須の宿命が招くもの(前)
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企業は成長し続けなければならない。市場からの支持を得て、売り上げ規模を拡大することによって利益を産み続けられるためである。加えて、成長はそこに集う人々に自信や誇りを産み、競争の糧である効率化や革新に大きく影響する。成長が止まるとそれらの循環も停止し、やがて企業組織全体に悪影響がおよぶ。
政府が景気拡大に躍起になるのも基本的には同じ理屈であり、成長がないとあらゆる競争力と革新が生まれない。業態という化石
企業は、日本の第2次世界大戦後や今の発展途上国のように人口ボーナスがあるうちは、小さな努力で比較的容易に成長を手にすることができる。ところが、若年人口の減少、高齢者の増加といった環境変化が発生すると生産の自然増は望めず、売上の確保が難しくなる。
競争激化による売上減少は、カット・スロート・コンペシションと表現される過酷な価格競争を生み、利益は縮小する。そうした状況になると、企業はまずコストカットという対策を取る。いわゆる経費節減であり、販促費や人件費、在庫の削減というお決まりの手法だ。
しかし、経費節減は引き算の戦術である。引き算が効果を生むのはごく短期間であり、引き算の経営が行き着く先は「エントロピー」と表現される戻り道のない窮地だ。
長い間、企業にとって業態は越えられない壁だった。企業は自身の業態のなかで完成度を高め、同業に学び、彼我の差を確認し、取り入れるべきものがあれば積極的にそれを学んだ。いわゆる視察、見学の類であり、その「隣百姓」的な努力の結果、いまのように全国津々浦々に同じような店が出来上がった。業態ごとに「看板が違う同じ店」といわれる現況がそれである。
しかし、業態も人間と同じで年を取る。老化は業態としての活力が消えるということだ。ちなみに百貨店やGMSといわれる大型スーパーが好例である。そこで働く人も同様だ。老眼鏡片手の作業はスピードが落ちるのみでなく、作業力の全般のレベルが低下するが、若い人手が思うように集まらない。そうなると、生き残りのために従来の型を捨てなければならない。
(株)オンワードホールディングスは、ショッピングセンター(SC)を中心に在庫をもたない直営店を数十店舗、出店するという。主力ブランドの商品を在庫なしでサンプル展示して試着してもらい、ネットで買ってもらうという試みだ。
百貨店ブランドの「23区」など主力ブランドの商品を自社サイト「オンワード・クローゼット」のみならず、楽天やアマゾンといった通販サイトでも買販売する。そうでもして、オンライン販売比率を上げない限り、大量の売れ残りによる収益悪化に歯止めがかからないためだ。また大量の売れ残りは収益のみではなく、ブランドそのものも毀損する。
しかし、価格とブランドを維持しつつ、どこでもいつでも買える環境を整備すればうまくいくような簡単なものではない。ブランドというよりどころを失った百貨店ともども、高品質ブランドの行き着く先は極めて悲観的といえる。
(つづく)
【神戸 彲】
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