『007』のジェームズ・ボンド役 ショーン・コネリーが愛したバハマの魅力(4)
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国際政治経済学者 浜田 和幸
映画俳優のショーン・コネリーが90歳の生涯を閉じた。10月31日のことである。世界中の多くのファンがその死を悼んだに違いない。何しろ、アメリカの大衆誌「ピープル」がコネリーのことを「生存するもっともセクシーな男」に選んだのは、彼が59歳の1989年のこと。そのニュースに接し、コネリーが唸った言葉が振るっていた。「セクシーかどうかは死んだ時に決まる」。要は死に際において、あるいは、死に直面したときに、その人物の本当のセクシーさというか魅力が定まるというわけだ。
新たなサービスの実験場に
中国はカリブ海諸国に対してコロナウイルス対策のワクチン購入費として10億ドルの提供を約束。また、災害救援策や平和維持活動といった名目でも支援を重ねている。それと同時に、海賊やテロ対策と称して、トリニダード・トバゴ、バルバトスといった国から軍人を中国に招き、さまざまな訓練の機会を提供している。
アメリカによる経済制裁の影響で苦しい事態に陥っている南米のベネズエラに対しては人道的支援の名目で100名を超える中国軍兵士を派遣した。そのうえ、イラン産の石油を緊急輸出するお膳立ても講じているのが中国である。アメリカとすれば警戒心を高めざるを得ない状況が生じているわけだ。
中国の長期戦略は16年に発表された「中国政府によるラテンアメリカならびにカリブ海に対する政策」に明確に定義されている。それによれば、中国はラテンアメリカやカリブ海諸国との間で文化、科学、安全保障の分野での協力体制を強め、海域での航行の安全や海洋資源の開発にもWin-Winを目指すという。
中国の一帯一路計画は中国とアジア、中東、ヨーロッパ、そしてアフリカを結ぶインフラ整備が主眼とされているように受け止められているが、実のところ、カリブ海から中南米地域にまでネットワークを広げようとする遠大な構想に裏打ちされている。鉄道や高速道路、橋や港湾などハードなインフラ整備も進んでいるが、中国の最終的な狙いは、そうしたハードなインフラの上を縦横無尽に走るソフトの導入である、基軸通貨のドルに代わるデジタル人民元しかり、その安全性を担保するブロックチェーン技術しかりである。
ブロックチェーンの技術はマネーの決済だけでなく、新しい技術、とくにそのトレーサビリティを活かしてさまざまなシーンに応用する実験が世界中で進んでいる。たとえば食卓に冷ややっこが出されたとしよう。この豆腐はいつ、どこでつくられ、どんな流通経路をたどったのか。豆腐の原料は国産と表示されているが、日本のどこで採れた大豆で、どのように豆腐メーカーに届けられたのか、そうした疑問点を効率的かつ迅速に調べることが可能になる。こうした消費者が知りたい、確認したい情報が簡単に得られれば、食の安全・安心につながるだろう。
また、医薬品が製薬会社からどういう経路をたどって病院に行き、患者に届いているかについても正確に追跡できるとなれば、患者が正しく飲んでいるかどうかも判明する。服用されなかったり、廃棄処分になったりしている医薬品を回収し、再利用できれば、増大する一方の医薬費を抑制することも可能になるに違いない。応用範囲は無限に広がるだろう。
いずれにせよ、ショーン・コネリーがこよなく愛したバハマで、これからの世界を大きく変えることになりそうな新たな実験が展開されているわけだ。とはいえ、19年9月、史上最大といわれるハリケーン「ドリアン」に襲われ、バハマは大きな被害に見舞われた。国際空港も港湾施設も破壊されたが、幸い、各国からの支援を受け、復旧が順調に進んでいるようだ。
日本では知られていないが、バハマ政府が所有する政府専用船舶は日本製が圧倒的に多い。日本の造船会社への評価が極めて高いからである。そのため、ハリケーンの被害からの修復作業には日本企業の協力が欠かせないものとなっていた。「雨降って地固まる」ではないが、ハリケーンの被害を機にバハマと日本の絆が一層強固なものなることを期待したい。
もちろん、日本がこれから本格的に導入することになるブロックチェーン技術についても、沈没船から回収した財宝の真贋確認と展示という新たなサービスの実験場としてのバハマのはたす役割には大いに期待したいものだ。ショーン・コネリーもあの世からエールを送っているに違いない。
(了)
<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。最新刊は19年10月に出版された『未来の大国:2030年、世界地図が塗り替わる』(祥伝社新書)。2100年までの未来年表も組み込まれており、大きな話題となっている。関連キーワード
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