内紛に翻弄された名門ゴルフ場(1)寝た子を起こした創業者長男の復権~ザ・クイーンズヒルゴルフ場
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昨年12月、(株)ザ・クイーンズヒルゴルフ場の旧役員らと創業者長男との経営権をめぐる争いが決着し、創業者長男の田原司氏が代表に就任した。ところが、再建手法をめぐって自立経営を主張する新代表と法的再建を目指す債権者が対立。債権者により民事再生手続きの申請が3件もなされるという事態に至った。こうしたなかで今年12月7日に福岡地裁は債権者の主張を認め民事再生手続きの開始を決定した。業務執行や財産を管理する管財人が選任されたことで新代表は経営の実権を失った。現代表による経営はわずか1年で終焉したことになる。
当初は完全勝利した創業者長男
経営権をめぐり田原氏と争っていた旧経営陣や顧問弁護士、グループ企業社員らは、もとはといえば創業者・田原学氏に登用された人たちだ。彼らは係争に敗れて退いたが、早い時期から法的手続きを見据えていた。118億円に登る預託金の償還が不可能ななか、永久債への切り替えることで乗り切りを図っていたが、それを認めない一部会員から提訴され、敗れた。そこで債権者は回収のためクレジットカード売上の建替払金を差し押さる手段に打って出た。
追い詰められた旧経営陣は、グループ企業の(有)アセットコーポレーションがクイーンズヒルの30億円という大口債権を有していることに着目し、アセット社でクイーンズヒルに差押を掛けその配当を獲得。その原資を資金繰りに回すという奇手を繰り回していた。アセット社の株式は田原家の親族が有していたが後に司氏が取得している。大口の金融債権者・九州債権回収への元本返済も2015年より停止しており、再建には法的再生が必要なことを認識していたと見られる。
こうしたなかで、創業者長男の司氏が経営権を求めて提訴し、勝訴した。これを受けて昨年12月にクイーンズの社長に就任した。司氏は税理士法人の公認会計士を役員に迎え、会員向けに安定した経営体制を目指すことを発信した。ところが、同月にクラブ会員2名が民事再生手続きを申請した。司氏は「経営権をめぐる判決に不満を持つ旧経営陣が企てたもの」という論陣を張り裁判所はその主張を認め、今年3月に民事再生の申し立てを棄却した。一般的に見ればこの時点で大勢は決していた。
しかし、別のクラブ会員たちが6月、すべてを承知のうえで民事再生を再度申し立てた。自主経営を主張する司氏を経営から排除することが基本方針だ。申立人は預託金返還債務や九州債権回収の債務らで支払い不能状態であるとした。民事再生により先述の差押が解除されなければ資金繰りが成り立たないと指摘している。そして、コースが荒れ放題となり、従業員が退社するという最悪の事態を避けるためにも民事再生は不可欠と主張し、民事再生申請後に会員に記名を求める文書を送付している。これに対して司氏側は、文書は「会員に誤解を与え不安をあおる」として、同意書に賛同しないように求める文書を送付して対抗した。論調は先の申し立てが棄却された時と同じだ。
当初、会員の動きは鈍かった。双方による文書の応酬に対して嫌気がさし「関わりたくない」という意見を数名から聞いた。ほか、サービスの劣化に不満はあるものの、「なるようになれ」という心境の会員もいた。文書の応酬から約1カ月後の7月15日時点で嘆願書に集まった署名は153名で、約1,300名のクラブ会員の1割強に過ぎなかった。内紛の延長戦と見る会員も散見され、この時点でも局面が大きく動く気配はなかった。
ニの矢三の矢で形勢逆転
しかし、この時期から会員の不満が顕在化していく。従来、クラブでは会員とビジターでは利用料金に平日で約1万円、土日で約2万円の開きがあったが、4月ころからコロナ対策を名目として、LINE会員を対象に実質的なクーポンの販売を開始した。非会員でも会員1名と同伴すれば、平日は現金払いなら実質9,000円強でプレーして回れるという破格のものだ。これがコロナ禍とはいえ会員の不興を買った。それにもかかわらず、9月にはクーポンを強化し、平日限定の1セット4枚4万円という回数券を売り出した。これらの行為は資金繰りの厳しさを自身で露呈するようなものであった。
そして、10月に入り、約20億円の債権をもつ九州債権回収が民事再生法の適用を申請する。最初に会員から民事再生を申し立てられた際には「破綻する状況ではない」という主張で棄却を勝ち取った司氏だが、最大の金融債権者からの申請により、この前提は根底から覆った。同月には司氏が招聘した財務のプロ・公認会計士が取締役を辞任したことが発覚。役員が代表の司氏1名のみとなり孤立感が強まっていた。
追い打ちをかけたのが元理事6名を発起人とする「クイーンズヒルゴルフ場を守る会」の発足だ。元理事長・出光芳秀氏(元新出光社長)を代表に地場財界の重鎮が名を連ねた。「守る会」名目で会員向けに民事再生を求める嘆願書への署名を求める文書を送付。文書の応酬に辟易していた会員たちも「今度は事情が違う」と異変を感じとった。これらに対し司氏側はスポンサーの存在を裁判所に示し、対抗していたがスポンサー候補名が表に出て、ゴルフ場のローコスト運営で知られる企業であったこともあり、会員たちの危機感は急速に強まった。文字通り雪崩を打って嘆願書への署名が集まり12月にはその数が約600に達した。事ここに至って、司氏による自主経営の道は閉ざされることになり、12月7日に民事再生法の手続き開始決定が下りた。
会員の希望通り、管財人が選任された。司氏が経営権を失ったにもかかわらず、会員ら申立人側は嘆願書の署名の積み増しに力を注いでいる。会員の望むクラブ価値向上に努めるスポンサーが選定されるか、膨大な数の会員の意思の統一および決定をどのように図っていくのか。クラブ再生への正念場を迎えるのはこれからだ。
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