2024年11月22日( 金 )

“未来の大国”ベトナム:コロナ禍を逆手に取り、ワクチン開発や通商政策で新機軸を展開中!(前)

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 NetIB-Newsでは、「未来トレンド分析シリーズ」の連載でもお馴染みの国際政治経済学者の浜田和幸氏のメルマガ「浜田和幸の世界最新トレンドとビジネスチャンス」の記事を紹介する。今回は、2020年12月11日付の記事を紹介する。


 日本をはじめ世界が新型コロナウィルス(COVID-19)で戦々恐々とするなか、ベトナムの感染対策や経済的躍進ぶりが注目されている。早い段階での国境封鎖、検査キットの普及、集中的な防疫体制の確立によって感染者の押さえ込みに成功。それどころか、独自のワクチン開発にも取り組み、欧米の製薬メーカーとは明らかに一線を画す姿勢を堅持している。

 その最大の違いは、人命に対する配慮の程度である。ファイザーやモデルナなど欧米企業はスピード重視のあまり、メッセンジャーRNAと呼ばれる遺伝子改変技術を応用し、動物実験などを経ないまま治験を実施。「有効性が90%を超えた」と報告し、緊急承認の手続きを進め、希望者への接種が始まった。しかし、これでは副作用への懸念が払しょくされたとは言い難い。実際、多くの治験参加者が痛みや睡眠障害を訴えている。

 一方、ベトナムではネズミとサルを使った動物実験を経て、安全性が確認されたナノゲン製のワクチンの治験が、この12月10日からベトナム軍医大学の協力の下で始まる。ベトナム保健省は人を対象にした治験に入る前には「倫理委員会」において、ワクチンサンプルの評価と承認を得るというプロセスが欠かせないと主張している。

 要は、「スピード」より「安全性」を重視するというわけだ。そのため、最初は数名から始め、72時間後から20名ほどの少数の厳選されたボランティアを対象に治験を重ね、経過を観測しながら、徐々に接種者を増やす計画である。3カ月後を目安に400人程度に治験者を広げていくとのこと。国内での感染者の押さえ込みに成功しているがゆえに、ワクチンの治験に当たっては時間をかけ、副作用などのリスク管理を優先するという考えのようだ。「急がば回れ」というわけで、アジア的発想といえるかもしれない。日本人にとっても納得しやすいアプローチである。

 いずれにせよ、国境封鎖を極めてスピーディーに実施し、外国からの入国も厳格に制限したことで感染の拡大に歯止めをかけたベトナムである。その後は保健省の管轄の下、国内の医療チームが製薬メーカーとも連携し、新たなワクチンの開発に邁進してきた。このたび、動物実験での安全性を確認したうえで、ついに人を対象にした治験段階に至ったわけだ。極めて順当な手順を踏んでいるといえるだろう。いわば、緩急の絶妙なバランス感覚が働いており、これこそがベトナム流のビジネスの面目躍如たるところに違いない。

 国際通貨基金(IMF)の予測でも、ベトナムの2020年の経済成長率は2.4%と見られ、各国を圧倒する勢いである。アジア地域に止まらず、世界的に見ても驚異的な成長を遂げる経済であることは間違いない。金融緩和や財政支援策を組み合わせ、内需拡大と輸出促進の両面で大きな成果を上げているからだ。国内の制度改革を進めつつ、対外的には各種の自由貿易協定に加わることで、その恩恵を最大限に活かそうとしている。

 20年に調印された「EUベトナム自由貿易協定」は大きな追い風となりつつある。たとえば、ベトナムからEU諸国へのエビやコメの輸出は関税が引き下げられた影響で急激に拡大。エビに関しては10月の時点で、昨年と比べ42%も増加した。コロナ禍にありながら、欧米からはベトナムの冷凍エビの需要がうなぎ上りである。日本もベトナムのエビをアメリカについで大量に輸入しているが、今後はEU諸国や中国も加わる争奪戦に直面することになりそうだ。実際、この10月、日本のベトナムからのエビ輸入量は減少を余儀なくされた。

 ベトナムの輸出全般にいえることだが、20年の第3四半期以降は10%を超える増加を続けており、貿易量の増加率では世界でも最高レベルを記録。10月の時点で、貿易黒字は187億ドルを突破。外貨準備高も順調に伸びている。コロナ騒動が収まる兆しが見えないなか、このような経済的飛躍を実現しているため、海外の投資家からも高く評価する声が聞かれる。

 実は、その背景には、ベトナムが対外通商面でのインフラ整備に大きな投資を行ってきたことが影響しているようだ。ベトナム国内には335カ所の輸出産業特区が建設されている。国際的な物流に欠かせない港湾や飛行場の整備は国内経済規模と比べてはるかに進んでおり、「世界の製造工場」を目指す意気込みが感じられる。

 国際物流サービス大手のDHLとニューヨーク大学が毎年実施している「世界貿易ロジスティック整備調査」によれば、ベトナムはシンガポール、香港、ベルギー、オランダ、エストニアと並び、世界のトップクラスと評価されている。19年の時点で、「世界第5位」にランクインしていた。

 輸出品目についても、コメやエビに限らず、衣服や靴など繊維製品や携帯電話などハイテク電子機器の分野においても、ベトナムは中国に迫る勢いで輸出攻勢を展開しているのである。DHLエキスプレス・ベトナムのチョードハリー社長曰く「ベトナムの強みは若い労働力、対外的な貿易協定、社会の安定だ」。これら3要素は「未来の大国」と称されるベトナムの屋台骨に違いない。

 我が国ではコロナ禍の拡大によって「中国依存過多」というリスクやサプライチェーン問題が急浮上した。そのため、「チャイナ・プラス・ワン」としてベトナムの製造拠点としての重要性が注目されるようになった。日本企業を含め、多くの外国企業が中国からベトナムへの工場の移転に舵を切りつつある。ベトナムからアメリカへの輸出はすでに23%も増加している。とくに電子機器の輸出増は顕著で、19年と比べ、26%の増加である。

 トランプ政権下のアメリカが離脱したため日本が中心となって発足させた「TPP11」への加入や欧州との自由貿易協定への加盟などを通じて、ベトナムは国際的なネットワークを最大限に活かしたビジネス展開を図っている。このペースで行けば、国際通貨基金が予測するように、21年には6.5%の経済成長率の達成も十分可能であろう。


著者:浜田和幸
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